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蠱惑の楽器たち 109.u-he Bazille レビュー オシレーターFM

2025-01-21

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

ソフトウェアシンセ u-he Bazille を紹介します。 2009年にアルファ版リリース、正式リリースは4年後の2013年でした。 かなりじっくり育てた印象があります。 それから12年間、大幅な仕様変更は行われず見た目もそのままを維持しています。 コンセプトが独特過ぎて、他社が似たような製品を出してくることもなく、全く陳腐化しないようです。
このコラムでBazille全体を網羅するような解説を行うと数十回シリーズになりそうなので、特徴となるポイントだけを数回に分けて紹介したいと思います。

u-he ( ユーヒー ) / Bazille 簡易パッケージ版

独特なモジュール構成

u-heのソフトウェアシンセは、どれもマニアックですが、Bazilleは群を抜いています。 それは高機能という意味ではなく、マニア心をくすぐるような仕様になっているということです。 u-he自らギークマシンと呼んでいます。

Bazilleは、クラシックなハードウェアシンセから抜き出したモジュールを独自にセレクトしたような構造です。 オシレータが80年代のFM/PDデジタルで、他はアナログ・セミモジュラーという、実機が存在しない妙な構成です。 このような構成を物理的に実現するには、ユーロラックで組むしか方法はなさそうです。 実際、u-he社長のUrs Heckmannさんはユーロラックを演奏するので、その影響は大きそうです。

また最近流行っている複数の音声合成を搭載した、守備範囲の広い万能シンセというわけではなく、とにかく理解を求められるシンセです。 自ら音作りをしたい人には大変面白いシンセですが、プリセット主体で使う人には手に負えないかもしれません。 総じて古典的なFM/PM音源とモジュラーが好きな人に向けたシンセと言えます。 完全にマーケティングを無視しているところにu-heらしさを感じます。

サウンドバリエーションはFM/PDからアナログシンセの範囲を網羅しますが、ルーティングの自由度が高く、とても柔軟性があります。 下サンプルは、Bazilleで作ったFMとアナログの融合的なサウンドです。

80年代デジタルオシレーターFM/PD音源

BazilleにはYAMAHA DX7等のFM音源と、CASIO CZ-101等のPD音源がOSCに入っています。 そのOSCが4個搭載されていて、FM音源的には4オペレータとなります。 これらの音源は80年代に一世を風靡しましたが、90年代に入るとサンプリング音源に置き換わって行きました。 FM音源は一度消えかかりましたが、2000年代に入ると地味に復活し、特許が切れたこともありエミュレータなら珍しくなくなりました。

サンプリング音源の実態は、録音等により作られたデジタル波形で、基本的にはこれらを再生するという使い方です。 シンセサイザーの語源である「シンセサイズ」とは「合成」という意味ですが、サンプリングは合成よりも再生装置の比重が高いと言えます。 写真をコラージュするようなイメージです。 またリアルタイムに音を変化させることも不向きな音源です。 こういう部分に不満を持つマニアは多いと思います。 サンプリングはリアルなアコースティックサウンドを再現するにはストレートな手法ですが、品質を上げれば上げるほど容量が大きくなっていく問題も抱えています。

対してFM音源やPD音源は計算によって音をリアルタイムに作り出せるので柔軟性があります。 現在からしてみれば計算コストも低く容量を食うこともなく、とてもミニマルです。 シンプルな道具で絵を描くイメージです。 絵なので、リアリティはサンプリングには及びませんが、逆に抽象表現は得意で、想像力次第でいくらでも個性を発揮できる音源と言えます。何か表現したいときに材料を仕入れてくる必要はありません。

FM=PM(Phase Modulation)

写真はFM音源の代表機種で、1983年に発売されたYAMAHA DX7です。

ヤマハ公式サイトより引用

オシレータに相当する6オペレータを持ち、それぞれがサイン波を出力し、その組み合わせで音を作り出す合成方法です。 一般的にFM音源と言われていますが、数学的にはPhase Modulationなので、u-heではこちらの呼び名に統一しています。ここでは一般的なFM音源と呼ぶことにします。

下記は3個のオペレータの組み合わせ例で、これをヤマハではアルゴリズムと呼んでいます。 carrierと呼ばれるオペレータから音は出力されます。 modulatorは下にあるオペレータを変調させます。

FM音源の特徴としては、少ないメモリと低い計算コストで幅広いサウンドを網羅したことです。特に金属的な音を得意とし、同時発音数も実用的だったため、エレクトリックピアノの代わりに使われるようになりました。 ただし音作りの考え方やプログラムが難解だったため、プリセット販売がされるようになりました。

Bazilleでエレピ風の音を作ってみました。 時間をかけてエディットすれば、DX7と同じような音に近づけることは可能です。 はじめにBazille、続いてDX7の有名なE.PIANO1をエミュレータDexedで鳴らしています。

FM音源のノコギリ波

個人的にFM音源のウィークポイントと思っているのは、まともなノコギリ波が作れないところです。

1段目がDX7(dexed)で4オペレータを使ったノコギリ波もどきですが、三角波の変形程度で不満です。

2段目はフィードバックを使ったノコギリ波もどきで、一方にエッジがあり、ノコギリ波の特徴が出ていますが、もう一方が丸いので、ノコギリ波とは言えない独特なサウンドとなります。

3段目はBazilleですがPDも兼ねているので、より柔軟な音作りができるようになっています。FM音源の苦手とする波形のエッジは何とでもなり、困ることはありません。

キーボード・スケーリング

DX7搭載のFM音源が優れていたところは多々ありますが、個人的にはキーボード・スケーリング機能があったことです。 これは鍵盤の音域に対して、音質、音量の変化を設定でき、アコースティックなサウンドを作り出すことが出来ました。キーボードフォローの発展形と言えます。 音域の広いエレピサウンド等では必須機能です。 しかし、その後登場した多くのFM音源搭載機種では、なぜかこの機能が省かれているものが多いです。 Bazilleでは、いくつかの方法で似たような機能を実現できます。 特にMapping Generatorを使えばMIDIノート0~127を個別に調整できるためDX7以上に柔軟性があります。

FM音源のリアルタイム変化

またパラメータの変化がスムーズなのもBazilleのFM音源が優れているところです。 DX7は、パラメータの変化が階段状になってしまって、滑らかな変化は出来ませんでした。 それによって、折り返しノイズが突然入るようになるため、FM音源がより難解なものとなってしまいました。 このことはリアルタイムにパラメータを変化させるにも不都合で、操作性の問題もあり、ほとんど固定で使われていました。

パラメータをスムーズに変化させることができれば、その見極めも簡単になり、リアルタイムに音色変化をさせることも現実的となります。 Bazilleの折り返しノイズに関しては、うまく調整されていて、DX7のような極端なことが起きにくくなっています。それでもFM音源らしく、折り返してくるので、何が起きているのか知っている必要はあります。

次のサンプルは2オペレータを使って、徐々にモジュレータのレベルを上げていったものです。はじめにDX7(dexed)の例ですが、階段状にレベルが上がっているのが分かります。 続いてBazilleの例ですがスムーズに変化しています。 またDX7の倍ぐらい変調が可能になっていて、さらにマイナス方向にも可能なので柔軟性は抜群です。

FM音源のフィードバック

もうひとつBazilleの良いところを上げるとフィードバックの自由度があります。DX7ではアルゴリズムで決められていた固定フィードバックで、レベルも8段階ですが、Bazilleであればルーティングは自由です。あり得ないような接続も許容されています。 微調整もできるので痒い所に手が届く仕様です。 ただし親切にフィードバックというラベルが貼られたノブがあるわけではないので、意味を理解してルーティングする必要があります。

下動画は上記のような設定で、1個のオシレータのみのフィードバックです。 サイン~ノコギリ~ノイズまでスムーズな変化が可能です。

下はDX7(dexed)のフィードバックですが8段階なので、切り替え式に近い感覚です。

Bazilleは、FM音源部だけでも魅力的で、DX7のような音は割と簡単に到達できますし、その先の世界も広がっています。FM音源好きを虜にする魅力にあふれています。

次回はBazilleのPD音源について解説します。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
blog https://achapi2718.blogspot.com/
HP https://achapi.cloudfree.jp

u-he / Bazille 簡易パッケージ版

u-he

Bazille 簡易パッケージ版

¥18,700(税込)

ソフトウェア音源、シンセサイザー、VST2/AU/AAX

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