近年新しい合成手法をほとんど見かけません。そんな中、2020年に登場した変わり種の音声合成を紹介したいと思います。
2重振り子
2重振り子は、普通の振り子の先にさらに振り子が付いたかたちで、その振れ方が予測不可能でカオスと呼ばれています。動画は2重振り子のシミュレートですが、なかなか手ごわい動きをします。
この原理を応用したのが以下のPENDULATEというソフトシンセで、他に見ないユニークな音源となります。開発者のDan Gillespieは、2重振り子をオーディオに変換すると、どのようなサウンドになるかを知りたいという好奇心から始まったと言っています。
Newfangled Audio PENDULATE(eventideaudio)無料
ブロックとしては、2重振り子オシレータ(ジェネレータ)、ウェーブフォルダー、ローパスゲートというシンプルな構成です。
従来のシンセと大きく違うのは以下のDOUBLE PENDULUMと書かれた独自オシレータ部分です。公式ではジェネレータと言っています。ここに2重振り子の原理が使われているので、今まで見たことのないオシレーターとなっています。この部分の挙動が掴めてくれば、多少はいじれるようになると思います。
使い方
本来は丸いノブが四角く、見た目にも風変わりさが出ています。こういうシンセを理解するときは最もシンプルな波形を鳴らすことから始めます。手動で下記のように、もっともシンプルな状態にリセットします。
この特異なオシレータの挙動だけを追っていきます。下記のようにパラメータを基準位置に設定します。intervalだけUniにして、他は0%にします。SUB1とSUB2は低い音の補強用なので、今回は常時0にします。攻略すべきノブはAMOUNT、SHAPE、ANIMATE、INTERVALの4つになります。
上記設定でオシロスコープにはサイン波が出力されます。どうやら、この信号に対して2重振り子の挙動を加えていくようです。
バックにアニメーションが表示されていてUIのアクセントになっています。サイン波は真円で表現されています。何らかの変調がかかると歪や、動きが出てきます。これは見ているだけで楽しいです。
CHAOS AMOUNT:これが0だと他のノブをいくら回しても何も変わりません。値を上げていくとINTERVALで設定した倍音が出てきます。AMOUNTが50%を超えると基音を超えるレベルになります。カオスと書かれているので、2重振り子の挙動がこの中に入っていると思います。
CHAOS SHAPE:こちらもカオスパラメータです。強烈に倍音を加えていきます。上げていくと下動画のようにノイズにまで発展します。また一定以上のレベルにするとINTERVAL設定は無視され整数倍音になるようです。感覚としてはフィードバックとして扱ってもよいかなと思いました。
ANIMATE:これを0以外にすると倍音のレベルが上下し始め、動きのある音になります。値を増やすとスピードが速くなり、アニメーションも連動します。
INTERVAL:半音単位で音程を設定します。5th、Oct、2Octなど倍音にすると安定します。SHAPEが上がると、このパラメータは無視されます。
上記4個のパラメータの関係を把握してしまえば2重振り子ジェネレータは攻略できそうです。ふたつのカオスパラメータで範囲を設定して、ANIMATEでその動きをコントロールするという感じです。SHAPEを下げてINTERVALを使う場合は倍音は少なめになりますが、かなり怪しい音も作れます。倍音が不足する場合はウェーブフォルダを使えばいくらでも補えます。また各パラメータはLFOやエンベロープで変調できるので自由度は高いです。
PENDULATEの印象
PENDULATEは意外にもアナログシンセに近い扱いやすいシンセです。はじめFM音源的なものかと思っていたので、かなりのカオスを覚悟していたのですが、各パラメータの挙動さえ確認すれば迷うようなことはなさそうです。そもそも予測不可能な2重振り子を扱っているので、そのまま扱ってはコントロール不可能になってしまいそうです。そこで、あえてコントロールしやすくまとめたようです。2重振り子の原理は動きのある波形に現れているようです。それは単純な繰り返しにならずに面白い効果をもたらします。
オシレータだけに注目したので触れませんでしたが、ウェーブフォルダは強力でした。ウェーブフォルダを採用しているシンセは少ないので、間違いなく特徴の一つと言えるでしょう。オシレータは予想よりもおとなしい印象でしたが、その代わりにウェーブフォルダはかなり暴れます。
有償のポリフォニック版もあり、こちらはエフェクトもあり、より実践的な仕様になっているようです。
■ New Pendulate Chaotic Synth Plug-in by Newfangled Audio (Presets Demo)
新規音源の難しさ
個人的には、いろいろな音源の登場は喜ばしいのですが、現在望まれているほとんどの音が実現されている中、新しい合成方法の音源が出ても、その違いをアピールするのが難しくなっています。どうしても、どこかで聴いたような音になってしまいます。逆に聞いたことのない音を作ったとすると、それはそれで注目されない可能性が大きいです。ユーザーの多くは、どこかで聞いたことのある音を求めているためです。またシンセサイザーと言えば減算式が基本にあって、減算式であれば、すぐに使いこなせる人も多いと思います。それが全く新しい音源となると、音作りをするために1から学習する必要があり、面倒に感じてしまいます。結局のところ、使ってみたいと思わせる強烈な魅力がないと新規参入で成功するのは難しそうです。現在、アナログをデジタルで再現する試みはかなり成熟してきています。また人の声を合成する技術も発展中です。今後は「音源」と一括りにできない複雑な状況になりそうです。
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