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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その214 ~追悼 「Q」 クインシー・ジョーンズのプロデュースアルバム最終回 PartⅤ~

2024-12-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

クインシー・ジョーンズのプロデュースアルバム

アメリカの著名プロデューサーであったクインシー・ジョーンズさん(以下敬称略)の追悼企画PartⅤ最終回です。
前回 はクインシー・ジョーンズ自身のソロアルバムを取り上げ、クインシーミュージックが頂点を極めたと思われるアルバムとその経緯、理由などをテーマに展開しました。今回は、クインシーがプロデュースを務めたミュージシャン達の著名アルバムと、その人脈など、クインシーミュージックの本質に迫ってみます。

クインシー・ジョーンズの音楽は…

「クインシーの音楽はどんな音楽か」と聞かれたら、ゴージャスでラグジュアリー、美しく知的、仕掛けが多い、これまでに聴いたことが無い、洒落ていてカッコイイ、ポップ、いつも新しい、ホロッとくる、他の誰にも作れない、優れたミュージシャンの演奏、重層的、黒くて白い、難しくて再現できない、イイ音が多い、込み入っているけどシンプル、などなど、挙げ出したらきりがありません。

クインシーは音楽の美味しいところをそこはかとなく削り出して、様々な形で我々に提供してくれた類まれな偉大なミュージシャンです。
マイルス・デイヴィスは自叙伝で「クインシーは人の家に入っても番犬に咬まれることのない、新聞配達のような人間だ」とコメントしていている。クインシーは先天的に誰にも好かれる人間だった。だから彼の周りには彼を慕う人間、才能が集まり、それがいい音楽に繋がっていったことは容易に想像できます。

USA for Africa

1984年にブームタウン・ラッツのボーカリスト、ボブ・ゲルドフの呼びかけで、アフリカ飢餓を救う為に英国のミュージシャンが集まり、「Do They Know It's Christmas?」をリリース。MTVとの相乗効果も手伝い、大ヒットとなりました。
これに端を発し、アメリカでは更に大きなプロジェクトが進行していました。それが「USA for Africa」です。
クインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎え、マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが楽曲を書きました。それが「ウィー・アー・ザ・ワールド」です。
プロモーション・ビデオを見ると集まったミュージシャンは皆、クインシーに対し借りてきた猫状態になっていた。偉大なアーティスト達がクインシーの前では平身低頭でした。その映像を見た時にこの人は凄い人なんだろうと直ぐに理解できました。

「ウィー・アー・ザ・ワールド」に集まったアーティスト達はマイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、ボブ・ディラン、ダイアナ・ロス、ビリー・ジョエル、ポール・サイモン、ブルース・スプリングスティーン、アル・ジャロウ、ダリル・ホール、ディオンヌ・ワーウィックなど、当時ブレイクしていた大物ばかり。参加したミュージシャンが2小節程度を次々に歌っていくというスタイルの楽曲です。その中に印象的なシーンがあります。

シンディ・ローパーは1983年にファーストアルバムをリリースしたばかりの若手のアーティストでした。
大物ミュージシャンが一堂に会する中、シンディは大サビ後の2小節を任されますが、譜面には書かれていない小節を喰って入る「WOWWOW~」を歌いたいばかりに、恐る恐るクインシーにそれを歌っていいかどうかを尋ねます。
クインシーはアッサリOKを出します。
このシンディ・ローパーの歌唱は「ウィー・アー・ザ・ワールド」の中でも最も印象的なシーンとなり、楽曲に華を添えました。
「怖かったけどビクビクしながら聞いてみた」というシンディのインタビューにも納得がいきます。
この様な小さな話からもミュージシャンの発露を大切にする、クインシーの柔軟な姿勢が見て取れます。
人は大物になってしまうと人の言うことに耳を貸さなくなる傾向がありますが、人と人との間に垣根を作らない姿勢こそが、犬に咬まれないクインシーのプロデューサー的才能だったのかもしれません。

■ 推薦アルバム:ジョージ・ベンソン『ギブ・ミー・ザ・ナイト』(1980年)

1980年リリースのジャズギタリスト、ジョージ・ベンソンがブレイクし、グラミー賞まで獲得した名盤であり、クインシー・ジョーンズのプロデュースアルバム。

ソウル・チャートとジャズアルバム・チャートで1位を獲得。ビルボードのポップアルバムチャートでも3位を獲得している。
ジャズシーンではギタリストとして名を馳せていたジョージ・ベンソンであったがクインシーのプロデュースにより、ミュージックシーンの表舞台に躍り出ることになる。このアルバムでジョージ・ベンソンは最優秀男性R&Bボーカルパフォーマンスなど、3つのグラミーを受賞している。
一方、ジャズファンからはジョージ・ベンソンは商業主義に走り、つまらなくなったなどのコメントも多く聞かれた。ただのジャズギタリスト(悪い意味ではない)だったジョージ・ベンソンをここまで仕立て上げたクインシーの手腕に驚くばかりだ。

推薦曲:「ギブ・ミー・ザ・ナイト」

ジョージ・ベンソンの名を世界に知らしめた名曲。この楽曲でのキーマンは作曲家のロッド・テンパートンだ。ロッドの曲の良さを見出したのはクインシーであり、大きく取り上げることでマイケル・ジャクソンも大ブレイクした。「スリラー」や「オフ・ザ・ウォール」もロッド・テンパートンのペンによるものだ。当時、ロッド・テンパートンはクインシー・ジョーンズの超が付くほどの秘蔵っ子だった。このアルバムでは5曲がロッド・テンパートンの楽曲というのも驚愕の事実だ。
ロッド・テンパートンとクインシー・ジョーンズがジョージ・ベンソンの黒人色を消し、ポップに寄せることでブレイクする要因を作った功労者だと私は確信している。

推薦曲:「ラブ・ダンス 」

もう1人、クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子だったのがブラジル人のイヴァン・リンスだ。アメリカ人には考えつかない美しいメロディラインで一世を風靡した。イヴァンにしか作り出せない楽曲の虜になったのはジョージ・ベンソンファンだけではなかった。イヴァン・リンスの楽曲はアルバムの景色を変える役割も果たしている。

■ 推薦アルバム:ジェームス・イングラム『イッツ・ユア・ナイト』(1994年)

ジェームズ・イングラムは1952年生まれの米国シンガー・ソングライター。レイ・チャールズのバンドではキーボードを弾いていた。クインシーがプロデュースしたパティ・オースティンとのデュエット「ベイビー・カム・トゥ・ミー」で全米1位を獲得。
このアルバムもクインシー・ジョーンズがプロデュースしており、マイケル・マクドナルドと共演した楽曲「Yah Mo B There 」でグラミー賞も獲得している。
アルバムはラリー・カールトン、ポール・ジャクソンJr.(g)、デイヴィッド・フォスター、グレッグ・フィリンゲインズ、ロビー・ブキャナン、マイケル・ボディッカー(key)、ハーヴィー・メイソン、ジョン・ロビンソン(Dr)などクインシー人脈が参加し、質の高い音楽に貢献している。

推薦曲:「How Do You Keep the Music Playing?」

ミシェル・ルグランとマリリン・バーグマンが映画「ベスト・フレンズ」為に書いた大名曲。この楽曲を弾いているピアニストはエアプレイで大ブレイクしたキーボーディストのデイヴィッド・フォスター。シンプルで美しすぎるイントロのメロディラインは一度聴いたら忘れられない程だ。デイヴィッド・フォスターによれば、このイントロをしっかり弾けるようになるまでにクインシー・ジョーンズから何度もリテイクを要求されたという。一聴、簡単そうに聴こえるが綺麗に弾くのは相当難しかったらしい。この楽曲のイントロを紡ぐアコースティックピアノは、1音1音が無垢で奥深く端正だ。その耽美的美しさが頭の中でリフレインする。クインシー・ジョーンズは「疑いもなくこの地上で私のもっとも好きな曲の1つであり、絶対に全てにおいて完璧な曲だ」とコメントしている。

ジェームス・イングラムとパティ・オースティンは当時、最も脂がのったボーカリストの2人。完璧な曲を完璧な歌唱で歌い上げる才能を有していた。

この楽曲は作曲者であるミシェル・ルグランも2008年のジャズ・フェスティバルでベンジャミンが歌い、自身の楽曲としてセルフ・カバーしている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:クインシー・ジョーンズ、ジョージ・ベンソン、ジェームス・イングラム、パティ・オースティン、デイヴィッド・フォスター、イヴァン・リンスなど
  • アルバム:『ギブ・ミー・ザ・ナイト』『イッツ・ユア・ナイト』
  • 推薦曲:「ギブ・ミー・ザ・ナイト」「ラブ・ダンス」「How Do You Keep the Music Playing?」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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