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蠱惑の楽器たち 63.電子音源の仕組み3 アナログシンセ(減算方式)

2023-05-09

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

今回はアナログシンセの内部について、ざっくり眺めていきます。アナログシンセの代表と言えば、昔も今もMoog(モーグ)であり、1964年のMoog Modular Systemに始まり、モノフォニックにもかかわらず世界中で使われるようになりました。その中でも1970年に登場したコンパクトなモノフォニックのminimoogは、愛用者が多い機種になります。Moogと言えば、このminimoogを思い浮かべる人も多いと思います。現在でも、復刻され入手可能な機種となっています。

minimoog 1970年 当時約50万円

minimoog 1970年 当時約50万円

minimoogは各モジュールがあらかじめ結線されており、自由度は犠牲になっていますが手軽に扱うことができます。操作パネルは音声信号の流れが左から右へとなっていて、分かりやすくまとめられています。ここでは主にminimoogの画像と波形を使いますが、アナログシンセ全般に共通している内容を見て行きます。

■ 音声信号の流れ

アナログシンセ内部を大まかに区分けすると以下の3つになります。

  • オシレータ(VCO、OSC):波形を電気信号として生成し、フィルタに出力します。
  • フィルタ(VCF):減算加工し音色を作り出し、アンプに出力します。
  • アンプ(VCA):音量を時間軸でコントロールし外部に出力します。

また音を出すためには鍵盤などからON / OFF、音程などを指示します。 さらにLFO(低周波発振器)やエンベロープジェネレータ(ADSR)などで、音声信号を変調することで、表現力を高めています。

■ オシレータ(VCO、OSC)

オシレータでは、元となる波形を生成します。電気的には発振回路で一定周期の波形を出力し続けます。オシレータから出る信号は、音量も一定で全く変化のない波形となります。オシレータには、あらかじめ、サイン、ノコギリ、矩形波、ノイズなどを出力できるようになっています。多くのアナログシンセサイザーでは2〜3個のオシレータがあり、組み合わせて使います。minimoogの場合は、3つの波形を選べるオシレータとノイズ専用オシレータがあります。

音程は電圧でコントロールします。制御電圧幅は0〜12V程度で、1V上がると1オクターブ上がる方式と、電圧に比例して周波数が変化する方式があります。minimoogは前者を採用しています。

特定の波形を作り出すには、それぞれ異なった回路が必要になります。シンセサイザー登場初期はオペアンプ、トランジスタ、FET、コンデンサ、抵抗、ダイオードなどの汎用部品で回路を構成していました。minimoogの場合は回路図を見る限り、オペアンプは最初期のフェアチャイルド社μA741を要所要所で使っていたようです。オシレータ内部はトランジスタ、FETを中心に組まれています。全体的に部品点数も多く複雑な回路となっています。

波形の名前は同じでも回路が違えば違った波形が出ますので、モデルやメーカーによって音の印象は大きく異なります。各波形は理想的な波形に対して、minimoogの波形を比較しています。いずれも440Hzの時の波形です。またアナログシンセは周波数によって波形形状も変化することが多く、低域ほど特徴的になります。

サイン波

実験等では不可欠なサイン波ですが、シンセサイザーでは必ずしも必要ではありません。特に減算方式の場合は倍音を削って音作りをするため、重要な波形ではなくminimoogにも搭載されていません。サイン波を作り出すアナログ回路としてはウィーンブリッジ発振回路などがあります。バンドパスフィルタを使って正帰還させ発振させています。

minimoogにはサイン波の代わりに三角波が出せます。生成プロセスがサイン波よりも比較的簡単です。

ノコギリ波

理想波形は以下のようになります。エッジがしっかりあり、整数倍音をすべて含んだ波形です。オペアンプとコンデンサを使ったノコギリ波発振器がポピュラーです。

minimoogのノコギリ波はかなりいびつです。アナログシンセの場合、コンデンサを利用した回路を使うことが多く、その充放電の特性が斜めのラインに出ることが多いです。やはり音域によって波形は変化します。

矩形波

理想の矩形波は平行の波形が得られます。コンパレータ(比較器)を使って正電源と負電源を周期的に繰り返す回路が主流だと思います。またデューティ比を変えられるシンセが多く、minimoogも3種類選べるようになっています。

minimoogでは、ややいびつな波形となります。低い音になると、さらに崩れていきます。

ノイズ

全ての周波数を均等に含んだホワイトノイズです。生成方法はいろいろありますが、ツェナーダイオードに電圧をかけるなどしてホワイトノイズを生成したりします。

nimimoogのホワイトノイズです。

ノイズの場合は波形だけ見ても分かりにくいので、周波数スペクトルを見てみます。これを見るとminimoogのノイズはフラットではなく、低域と高域のレベルが下がっているのが分かります。

■ フィルタ(VCF)

OSCから出力された音を、フィルタによって加工し音作りをします。フィルターはLPF、HPF、BPFなど様々なタイプがありますが、いずれも任意の周波数帯域を通過、もしくはカットするかを決めるものです。シンセで、よく使われるのはLPF(ローパスフィルタ)です。LPFはカットオフ周波数を設定し、それ以上の高域レベルを下げます。このタイプの音作りが減算方式(subtractive synthesis)と言われているのは、引き算で音作りをするからです。minimoogはトランジスタによる4ポール・ラダーフィルタというLPF回路が搭載されていて、特徴的な音になっています。ポール数が増えると一般的にカーブは急になって行きます。minimoogは4ポール=4次なので、24dB/octのカーブとなります。下動画では、カットオフ周波数を下げたとき、高域成分の削られ方が確認できます。

LPFが急勾配の場合、リップルというレベルが上がった箇所がカットオフ周波数に出現します。音響的には不自然になるため、通常これを嫌いますが、シンセサイザーでは、それを積極的に音作りに活かしています。純粋なオーディオ的な考え方と、楽器的なアプローチが真逆になっているところが面白いところです。

リップルを強調するノブは、一般的にはレゾナンスと呼ばれています。minimoogではEMPHASISとなっています。下動画はEMPHASISを上下させたときの周波数スペクトルです。2kHzに山ができていますが、これはカットオフ周波数で決定されます。

さらに動的に変化をつけたい場合も多いことから、時間的に電圧を操作するエンベロープジェネレータ(ADSR)を使ってシンセらしい特徴的な音を作り出します。フィルターはメーカーや機種の特徴が出やすく、ノブを回したときの変化に大きな差があります。

■ アンプ(VCA)

アンプは音を増幅する部分ですが、エンベロープジェネレータ(ADSR)によって、時間軸の音量変化を調整し、最終的な音色を決定するところでもあります。エンベロープジェネレータは現在のシンセにおいても必須項目です。ADSRはAttack、Decay、Sustain、Releaseの頭文字で、各ノブの機能は以下のようになります。minimoogはReleaseが省略されており、スイッチによってDecayと入れ替わります。

  • A(Attack):鍵盤を押してから音の立ち上がり時間を調整します。
  • D(Decay):音が立ち上がってからSustainレベルまでの時間を調整します。
  • S(Sustain):鍵盤を押し続けているときの音量を調整します。
  • R(Release):鍵盤を離してから音が消えるまでの時間を調整します。

■ LFO(低周波発振器)

LFOは低い周波数のサイン波などを出力し音声信号を変調します。具体的にはビブラートがかかったような音になります。オシレータにかければ音程が上下し、アンプにかければ音量が上下します。

■ アナログシンセはモノフォニックが主流

初期のシンセサイザーは単音しか出せないモノフォニックが主流でminimoogもモノフォニックです。和音を出したいという要求は当初からありましたが、シンセの構造を維持したまま和音を実現するには和音数=シンセの台数を意味するため高額になってしまいます。それでも70年代末から、Prophet-5、Oberheim OB-X、Roland JUPITER-8など、内部的に複数台搭載したポリフォニックアナログシンセが登場しました。いずれも一般人が買える値段ではありませんでした。

Prophet-5(1978年 5ボイス 約170万円)

Prophet-5, Public domain (Wikipediaより引用)

Oberheim OB-X(1979年 4、6、8ボイス 180~240万円)

Oberheim OB-X, Public domain (Wikipediaより引用)

Roland JUPITER-8(1981年 8ボイス 98万円)

Roland Jupiter-8 Synth, CC BY-SA 2.0 (Wikipediaより引用)

またアナログ回路でポリフォニックを実現する手段としては分周回路を使う方法もあります。moog社でも分周回路を利用したPolymoogを1975年に発表しています。分周回路を使ったポリフォニック楽器については次回解説します。

■ アナログシンセの衰退と復活

80年代に入り、デジタル技術と集積回路の発展により、安価にデジタルシンセが作れるようになり、高価なアナログシンセは衰退していきます。しかし2000年を過ぎると、再びアナログシンセが復活します。主流のサンプリング音源やソフト音源などに対して真逆のアプローチに何か魅力があったのでしょう。レコードの復活時期ともかぶっていますので、アナログへの回帰は単なるブームと片付けられません。いずれにしても過去の技術資産が引き継がれることは喜ばしいことです。


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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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