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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その194 ~鍵盤狂ライブ機材&YC61極私的リポート PART1~

2024-08-19

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

■ ライブリポートを兼ねたヤマハYC61レポートの続報

私は現在、2つのバンドに所属しています。1つは電気ジャズ系のバンド、もう1つは女性ボーカリストのロックバンドです。先日、その2つのバンドのライブがありました。

それぞれのバンドで使用している機材はほぼ同じです。

電気ジャズバンドではスタジオにあるコルグのエレクトリックピアノをそのまま使用し、リード楽器としてシーケンシャルのTAKE5を持ち込んで使っています。このTAKE5の音もとても気に入っています。

SEQUENTIAL(Dave Smith Instruments) ( シーケンシャル ) / Take 5

SEQUENTIAL(Dave Smith Instruments) ( シーケンシャル ) / Take 5

少し前にこの電気ジャズバンドのギタリストから、女子高生ボーカリストがいるのでこのボーカリストをサポートしてほしいという依頼があり、急遽女子高生のバックバンドをやることになりました。JK電気ジャズバンドです(笑)。
ライブは大盛況。女子高生の熱いパフォーマンスもあり、足を運んでいただいた50人以上のお客さんも喜んでくれました。

もう1つの女性ボーカリストのバンドはキーボーディストが2人いるため、ピアノ・シンセサイザー系の音はもう1人に任せて、私はオルガン系の音を弾いています。オルガンの音はヤマハのYC61を使っています。オルガンといえばハモンドオルガンですが、YC61のハモンドオルガンの音はとても気に入っています。
以前の鍵盤狂漂流記のYC61関連記事で、また気付いたことがあったらリポートを入れるという書き方で締めました。7月下旬に行ったライブの会場録音を聴いて新たにYC61のインセンティブを発見しましたので、続報をお伝えします。

YAMAHA ( ヤマハ ) / YC61 ステージキーボード

YAMAHA ( ヤマハ ) / YC61 ステージキーボード

7月下旬のライブセッティング。上がKingKORG NEO、下がヤマハYC61

■ ヤマハYC61の意外な面が見えたライブ

この日の機材はヤマハYC61とKingKORG NEO。NEOはセットリストにボコーダーを使う、ダフト・パンクのゲット・ラッキーがあったためです。

KORG ( コルグ ) / King KORG NEO バーチャルアナログシンセ

KORG ( コルグ ) / King KORG NEO バーチャルアナログシンセ

シンセサイザーのリード音に関しては、バーチャルアナログ・シンセサイザーのNEOよりもシーケンシャルTAKE5の方がより音がふくよかなのでTAKE5を使うところですが、ボコーダー機能を優先しKingKORG NEOを採用。KingKORG NEOに関してのリポートは鍵盤狂漂流記190~193をご参考にして下さい。

このバンドで演奏した楽曲はエイミー・ワインハウス「You Know I'm No Good」やアレサ・フランクリン「ナチュラル・ウーマン」、ロバータ・フラック「やさしく歌って」、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの「Just the Two of Us」、スタンダードの「Fly Me to the Moon」、「Blue Bossa」、「Feel Like Makin' Love」、シックの「I Want Your Love」、ダフト・パンク「Get Lucky」、MISIAの「アイノカタチ」、ベッド・ミドラーの「ROSE」です。

これらの曲を演奏するにはYC61はとても便利な鍵盤楽器といえます。エイミー・ワインハウスの「You Know I'm No Good」、アレサの「ナチュラル・ウーマン」、スタンダード曲「Fly Me to the Moon」の3曲はハモンドオルガンの音でYC61を演奏しました。

スタジオで演奏した音とライブ会場での音とは人の有無や会場の状況で大きく変わってきます。

■ 紹介アルバム:『レディ・ソウル』アレサ・フランクリン(1968年)

アレサ・フランクリンの絶頂期のアルバム。アレサ・フランクリンのソウルフルなアトランティック・レーベルにおけるサード・アルバム。「ナチュラル・ウーマン」「チェイン・オブ・フールズ」など、ミリオン・ヒットなどが聴ける名盤。

■ アレサの名曲をYC61のハモンドサウンドで弾いてみた

YC61はどちらかといえばオルガンに特化した鍵盤楽器という要素が強いキーボードです。スタジオで音を出した印象はギターの音に負けない「音の通りがいい」という印象を持っていました。
今回、ライブハウスでのアレサ・フランクリン「ナチュラル・ウーマン」のオルガンコードの白玉弾き(コードのべた弾き)での録音を聴いた際に「えっ」と声が出ました。
「ナチュラル・ウーマン」のようなボーカル主体の音楽はドラム、ベース、アコースティックピアノと弦とブラスが主体。バース部分では弦がリズムをきっています。我々のバンドはギタリストがいるのでギターにコードカッティングをしてもらい、私はボーカルの後ろにうっすらと流れるストリングス、パッドをイメージしてYC61のハモンドオルガンの音でバッキングをすることにしました。演奏的にはバース部分でレスリー・シミュレーターの回転をスローにし、サビでファストにするというオルガンバッキングの最もベーシックな形をとりました。その録音を聴いて驚いたのは歌の後ろに流れる白玉の存在感でした。レスリーのスロー回転の音がボーカルを包んでいるかのように聴こえました。

レスリースピーカーは木製のユニットの中をホーン状のスピーカーが回転しています。

左側がレスリースピーカー。箪笥のように見える。, CC BY-SA 3.0 DEED (Wikipediaより引用)

レスリースピーカーの断面図(イメージ), CC BY-SA 3.0 DEED (Wikipediaより引用)

さらに上部だけではなく下部にも回転するウーハースピーカーがあり、2つのスピーカーでトレモロを作り出す仕組みになっています。このレスリーの上下部スピーカーの音をマイクで拾います。
レスリーは木製のユニットの中を回るスピーカーの音が箱の中で響きます。回転をファストにすれば箱の空気が激しく揺れ、高速トレモロサウンドを作り、回転をスローにすればゆったりした「うねり」を作ります。その空気の揺らぎを作り出すのがレスリースピーカーで、えも言われぬ美しい音が出ます。
この木製ユニット内で発生する空気の揺らぎをモデリング技術で作り出す優秀なレスリー風シミュレーターがYC61には搭載されているのです。

話はライブの音に戻ります。そんな歌の間を漂うように流れるYC61のスローな音を聴き、ほぼレスリー!という印象を持った私でした。このレスリー風のシミュレートはヤマハではロータリーと表現しています。

このYC61のバージョン1.2に新たに加わった「Studio」というカテゴリーは秀逸です。
アレサ・フランクリン「ナチュラル・ウーマン」のYC61のロータリースピーカーエフェクトは「Studio」に設定。奥行き感のある柔らかく「うねる」ハモンド音はこれまで私が聴いたハモンドオルガンをシミュレートした白玉の中ではベストでした。

■ エレクトリックキーボードのオルガンシミュレートの究極はハモンド+レスリースピーカー!

私が求めるオルガンの音は「どれだけハモンドに近く、どれだけレスリーっぽい音が出せるか」これに尽きます。60年代から現在に至るまでハモンドとレスリーの組み合わせは変わることなく音楽の中に残り続けています。それだけハモンドとレスリーのカップリングは普遍的なのです。
楽器メーカーも何十年もの間、このハモンドとレスリーの音にどれだけ近づけるかをテーマにシミュレートを続けてきました。そういう意味でYC61はハモンド、レスリーシミュレート楽器の1つの到達点ではないかと私は思っています。「Studio」の存在も間違いなくそのテーマに寄与していると言えます。

もしYC61を弾く機会がありましたら「Studio」と「Classic」などの設定と比較をしてみて下さい。「Studio」の奥行き感、空気感に驚く方も多いと思います。

YC61のStudio画面(YC61は私物)


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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

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アナログシンセ、5ボイス、44鍵盤

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