歪みエフェクター学の第三講です。
まさか自分が三講もいけちゃうなんて思いもしませんでした。七まで行けば一単位ですね。頑張ってみようかな……。
第一講ではTS系、第二講ではトランスペアレント系のご紹介でした。ちなみに、たまに表記揺れでトランスペアレント系がTS系と表記されることがあるのですが、正しい表記ではないためお気をつけください。
さて、第三講である今回はケンタウロス系の紹介です。多くの場合に『ケンタ系』と略されます。
実際はケンタウロスクローンと、ベースにした派生エフェクターがあるため一口にケンタ系と呼ぶには不都合がありますが、便宜上ケンタ系とまとめさせてください。
今更ご紹介するまでもないかと思いますが、ケンタウロスについてご紹介。
KLON – Centaur
Klon Centaur, CC BY-SA 2.0 (Wikipediaより引用)
エフェクターを(文字通り)齧っている方で、見たことがないという人の方が少ないかと思います。Centaurと書いてケンタウロス(ケンタウ“ル”ス派の人もいますね)と読みます。
とあるギター弾きが、自分の悩みを解決してくれるペダルを探しましたが見つけられず、4年の歳月を懸けて生み出したのがこのCentaur。
そのとあるギター弾きこそ、ビル・フィネガン氏。彼はテレキャスターとTwin Reverbという相性抜群のコンビで演奏を行っていましたが、当時のアンプはVolumeに音が大きく影響されました。現代的なアンプのように、純粋に音量だけを調節するVolumeではなく、Gainに近いニュアンスを持っていました。
彼は普段、大きめの箱ではTwin ReverbのVolumeを6くらいにして演奏していましたが、カフェなどの小さな箱ではそんな音量を出すわけにはいかず、4または3に下げるほかありませんでした。
前述したように、この頃のTwin ReverbはVolumeノブが音量だけでなく、音質にも変化を及ぼすために、どうしても6と同じようなリッチさは出せないのです。
それが彼にとっての悩みであり、解決すべき課題でした。そのために必要になったのがエフェクターでしたが、その当時彼が求めたサウンドは、ワイドでオープンで、エフェクターを挟んでいることを悟られないようなもの。
そうしてエフェクター作りが始まりました。
というふうに書いてゆくと壮大で、文字数がとんでもないことになり、Centaurそのものの紹介で終わってしまうため端折っていきます。
細かい歴史を知りたいよ!という方は以下の記事がおすすめです。
Gear Otaku - コラム:Klon Centaur の開発者ビル・フィネガン インタビュー。折りたたみテーブルの上で生まれた329ドルのペダルの歴史
EffectorKoala - 伝説エフェクターの歴史の分岐点Klon Centaur考察
そんなケンタは生産時期により筐体が異なり、音も違います。けれども共通しているのはTube Screamerのようで違う、丸くて温かい音。そして単体では歪み切らず、アンプや別のドライブペダルと併せることで歪みをプッシュするものであるということです。
とにかく、ブースターとして生まれたペダル。Tube Screamerもそうでしたが、ケンタはヘッドルームが広いため歪ませずともファットな音が得られ、またレンジもTube Screamerより広いです。(とはいえ、広すぎないのがミソ)
クリーンをブーストしても味のある太い音にできて、歪みをプッシュすればガッツリとしたリードトーンになる。それだけの理解があればケンタは扱えます。
さて!私個人としてもお気に入りな音なだけあって、語り出せばキリがない。Centaurの紹介はこれくらいにして、そこから生まれたケンタ系の紹介をしていきます!やっとです。
ELECTRO-HARMONIX – Soul Food
今回紹介するペダルの中で最安です。前回のトランスペアレント系の紹介でも、エレハモが最安でしたね。前回のCRAYONはTimmyベースでありながらも、それを公言していない機種なのですが、このSoul Foodはしっかりとクローンであると公言しちゃっています。
ただ、本家Centaurの音を求めるとうーん?となってしまうかも。太い音であることには変わりないのですが、単体でめっちゃ歪みます。DRIVEをMAXまで上げればファズみたいな歪み方をします。あとLOW感が強いです。とはいえとてもいい音です。DRIVEを下げておけば、ケンタライクなブーストが味わえます。
Walrus Audio – Voyager【WAL-VOY】
比較的、エフェクター業界に新しく入ってきたばかりと言えるWalrus Audio。そんな彼らが最初に発売したペダルがVoyagerです。
しかしながら、先ほど紹介したSoul Foodとは違って、Walrus AudioはCentaurがモチーフであるとは発言しておりません。これを手にしたプレイヤーたちの評価からケンタ系になったペダルです。
歪ませた時の音の分離感が非常に良く、コード感が保たれていて優しい印象を受けます。本家Centaurよりも音が丸く、ピッキングへの追従性が良いです。ただこちらも、ケンタかと言われるとうーんとなる方もいらっしゃるかも?
BONDI EFFECTS – Sick As Overdrive
ツマミの雰囲気がどことなくCentaurなSick As。全く関係ないですが、MXRのBadassを思い出す名称です。
GAINを最小にしてLEVELを上げていけば、まるでクリーンブースターのような感覚を受けます。アンプのアウトプットを上げるのと全く同じ感覚です。そのくらいに原音そのままブーストしてくれます。帯域ごとの癖がとにかく少ないです。
TREBLE、BASSツマミの効きも良いので、EQ付きのクリーンブースターとしての使用も悪くないです。また歪ませた状態でEQを調節すれば、トレブルブースターやミッドブースター的にも使えます。トグルスイッチでのモード変更もできるので、飽きることなく使い倒せるペダルです。
MXR – M294 Sugar Drive
さて、満を持して登場。MXRです。サイズ感もお値段もコンパクト。このSugar Driveは、CentaurをMXR流に解釈してアレンジしたペダルです。
最初期のゴールド/ロングテールに近いキャラクターをしており、歪みをブーストすると低域が気持ちよく暴れてくれます。太く、深いサウンドです。バッファーのオンオフ切り替えが可能なことも高評価です。直列でファズを繋ぎたい方には嬉しいですね。
ここからが本命です。
J. ROCKETT AUDIO DESIGNS – ARCHER
メーカーに聞き覚えがない、馴染みがないという人も多いかと思います。しかしながらこのJRAD、Centaurの正統後継機種であるKTRをOEM生産していたメーカーなのです。
それだけあってケンタとしての完成度はさすがのものです。音の特徴は最初期型のシルバー/ロングテールと近く、GAINを上げても歪み感がおとなしく感じます。そしてこのペダル、バッファーが非常に良いです。バッファードバイパスのため、先頭に繋いでおくだけでギターの音をエンハンスしてくれます。
もちろん、オンにした時の音も極上。広いヘッドルーム、GAIN最小時のクリーミーなクリーントーン、他の歪みをプッシュした時の煌びやかな倍音感。ローゲインをプッシュしてもピッキングハーモニクスが出せるくらいに倍音が出ます。
TREBLEつまみの扱いには慣れが必要ですが、どう足掻いてもいい音を出せてしまう魔法のペダルです。
ちなみに、初期型のゴールド/ロングテールに近い ARCHER ikon というのもあります。こちらの方が歪み感が強く、ギラっとしたイメージです。
しかしながら、これらもまたケンタにめちゃくちゃ近いかと言われるとその評価には個人差が生まれてしまうようです。
では、満を持して最終馬に登場してもらいましょう。
WARM AUDIO - Centavo
紛れもなく、Centaurです。今回ご紹介した中で一番Centaurです。
まず、まずもって、見た目がもうCentaurですよね?金色の筐体、そして圧倒的サイズ感。
デカいエフェクターはボードを圧迫してしまいますが、それをものともしないくらい音がいいです。
正直、今回紹介したエフェクターは全部音がいいのですが、個人的にケンタとして最も音がいいのはCentavoだと思います。
ただ本物のCentaurと同じパーツ、同じ回路構成を採用すれば同じ音が出るというわけではありません。同じ品番でも、時代を追うごとに仕様は若干変わっていきます。Warm Audioはそこの妥協を許さず、とにかく素子一つの挙動までもを注視して、Centaurのサウンドを再現しています。
そしてARCHERと同じくバッファード・バイパスを採用していて、オフにしていても繋ぐだけで音を良くしてくれます。
さらに、MODスイッチが用意されていて、Jeff Beckの所有するCentaurのように、低音弦のレスポンスを良くすることもできます。
音はとにかくCentaurです。若干現代みがあるというか、歪みが整っているように感じますが、Centaur本家にも個体差や経年劣化があることを踏まえれば、全く問題にはなりません。
これだけ質がいいにもかかわわらず、お値段なんと27,800円(税込)。
数々の質の高いコピーモデルを生み出してきたWarm Audioだからこそ為せるクオリティとコスパです。Warm Audioってだけで私は安心します。
さて、紹介して参りましたケンタ系。いかがでしたでしょうか。
私のコメントじゃ音がわかりにくいよ〜!というご意見はごもっともなので、商品ページにあるサウンドサンプルを聴いてみてください。
歪みペダルでありながら、歪ませなくともしっかりと存在感を発揮してしまう、恐ろしいペダルです。私個人的にはトランスペアレント系とケンタ系を併せて使うのが大好きで、歪みペダルはこの二つだけあれば(欲を言えばJan RayとCentavo)、もう他にはいらないとすら思います。
数多くのプロも愛してやまないケンタ系。一度鳴らしてみてください。あなたも虜になること間違いなしです。
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