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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その11 

2020-09-18

テーマ:sound&person

モノフォニック(単音)からポリフォニック(和音)へ

モノフォニック(単音)シンセサイザーの最大の欠点は和音が出ないことでした。1960年代後半から1970年代中盤あたりまでの話です。モノフォニック・シンセサイザー複数台をまとめ、1台で和音が出るマシンを作ることが技術的に難しかったという背景があります。4音ポリフォニック(和音)にするにはミニモーグ4台(1台60万円以上)を1つにまとめるだけでも(そんな簡単な問題ではないのですが・・・)高価な製品になってしまうし、重くもなり、ミュージシャンがツアーに持っていくのは現実的ではなくなります。
モーグ社は別な発想で全鍵盤発振するエレクトーン的な、ポリフォニック・シンセサイザーもどきのポリシンセ、ポリモーグを、コルグからはPS-3100が発売されています。しかし、これらは完全なポリシンセではなく、あくまで「もどき」でした。
各鍵盤を独立した形で電圧制御するポリシンセは1977年にヤマハがGX-1を発表。鍵盤部分と椅子が一体化して300kg以上もありました。価格も700万円と高価でした。スティービー・ワンダーやキース・エマーソンが使用していましたが、使い易さからは程遠い楽器でした。その後、改良されたのがCS-80。6音ポリで価格128万円でした。ポリシンセでは名機と云われています。ボイスメモリー数は4つのみでした。

ヤマハ CS-80

UK / キーボード奏者:エディ・ジョブソン

ポリシンセの名機、CS-80の名プレイヤーといえばエディ・ジョブソンです。エディ・ジョブソンはロキシーミュージック、フランク・ザッパ・バンドなどを渡り歩き、1978年にプログレッシブ・ロックのスーパーバンド、UKに参加します。UKのメンバーはキーボード、バイオリンのエディ・ジョブソン、元キング・クリムゾンのジョン・ウェットン(Bass、Vo)、元イエス、キング・クリムゾンのビル・ブルーフォード(Dr)、元ゴングのアラン・ホールズワース(G)というプログレファン垂涎といえるメンバーの集合体でした。
ジョブソンはCS-80を使い、英国伝統ともいえるプログレッシブ・ロックの世界を見事に表現しています。また、ジョブソンはバイオリンの名手でもありました。


■ 推薦アルバム:『憂国の四士(U.K.)』(1978年)

推薦曲:「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト(In the Dead of Night)」

UKの代表曲といえば「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト」です。ベースとドラムの変拍子的イントロにポリシンセCS-80のコードワークが加わります。中間部分ではドラムとベースの上を泳ぐホールズワースのソロは聴きものです。ホールズワースのソロの中、CS-80の曇ったガラスのようなパッド音(LFO変調を巧みに使っている)が聴けます。モノシンセでは成しえなかった新しい音楽表現がポリシンセの登場で可能になりました。

推薦曲:「アラスカ(Alaska)」

UKでCS-80の真骨頂が聴けるのがこの「アラスカ」です。「ポリシンセもどき」では和音でのポルタメントを掛けることはできません。それを可能にしたのがCS-80です。ポルタメントは音と音の間の音程変化の時間を設定できる機能です(ギターでいうのであればコードを弾きそのままフレットをスライドさせる効果をイメージしてください)。CS-80のポリフォニック機能、ポルタメント機能を合わせて奏でるアラスカはポリシンセがオーケストラにも匹敵する可能性を示したともいえます。

推薦曲:「ネバーモア(Nevermore)」

UKのファーストアルバムは技術を披露する為のソロパートやソロの掛合いパートが多くみられます。ネバーモアでは中間部、ホールズワースのギターとジョブソンのCS-80によるソロの掛け合いがあります。この掛け合いではCS-80の機能(ポルタメント、LFO等の変調効果等)を使ったジョブソンのプレイはソロ、バッキング共、想像力に溢れています。CS-80は単音としてモーグのように太さはありませんが、ジョブソンのプレイを聴くと、CS-80の音像が知的で高品位な印象となって耳に届きます。


■ 推薦アルバム:『デンジャー・マネー(Danger Money)』(1979年)

推薦曲:「ランデブー6:02(Rendezvous 6:02)」

UKのセカンドアルバムは音楽性の違いからギタリスト、アラン・ホールズワースとドラマー、ビル・ブルーフォードが抜け、新たにフランク・ザッパ・バンドのテリー・ボジオが加入。トリオとしてのスタートになりました。ボジオは以前、ジョブソンが過去にフランク・ザッパ・バンドに在籍していたことからの参加となったようです。
ギタリストが抜けトリオとなったUKはジョブソンの独断場になります。とはいえ、前作のプログレムード一色ではなく、UKのポップに振れた一面も見ることができます。ベーシストのジョン・ウェットンの嗜好や分かりにくかった(失礼!それがイイのですが...)ドラムに替え、手数は多いもののストレートなドラムを叩くボジオのテイストも反映されたといえるかも知れません。
このアルバムでもCS-80の特徴を生かした曲があります。「ランデブー6:02」です。
美しいピアノのアルペジオ奏でる後方にユニゾンで寄り添うCS-80の音が聴けます。この滲むような音がCS-80の特徴といえます。


■ 推薦アルバム:『ナイト・アフター・ナイト(Night After Night)』(1979年)

UKの3枚目、ライブアルバムにしてラストアルバム。1979年の日本青年館ではトリオになったUKがどのような演奏をするのかを期待した観客で溢れていました。私もその一人でした。分厚いUKの音をライブで出すことが可能なのか、複雑な構成の曲の再現ができるのか等、期待と不安が入り混じっていました。しかし、私の思いは3人の音が出た途端に吹き飛びました。1曲目はセカンドアルバムタイトル曲の「デンジャー・マネー」。ジョブソンはCS-80で分厚く、重苦しいAのオーギュメントコードを弾いていました。ウエットンのボーカルにはジョブソンとボジオのコーラスが乗り、音の厚さに一役かっていました。このライブアルバムを通して音の薄さを感じるシーンは殆どありません。唯一、ジョブソンがキーボートを弾くのをやめ、透明なバイオリンを持ってフロントでソロを弾くシーンではドラムとベースの2人の音になり、トリオの演奏なのだと、あらためて感じました。

推薦曲:「ランデブー6:02」

実際のライブではCS-80の滲んだ音からスタート。アルバムはこのCS-80の音にヤマハのCP-70の音がスタジオでダビングされている。中盤の野太いシンセソロはミニモーグによるもの。

推薦曲:「アラスカ」

UKのライブで私が一番聴いてみたかったのがアラスカ。オーケストラを想起する音をライブで出せるのか、実際のスタジオ盤は多くのダビングをされているのではないか等、想いが交錯する。ジョブソンのCS-80から出た音を聴いたわたしはひっくり返りそうになりました。スタジオ盤の音と全く変わりなかったからです。CS-80恐るべし!でした。


今回取り上げたアルバム、曲名、使用鍵盤

  • アーティスト:UK / エディ・ジョブソン
  • アルバム:「憂国の四士」「デンジャー・マネー」「ナイト・アフター・ナイト」
  • 曲名:「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト」「アラスカ」「ネバーモア」「ランデブー6:02」
  • 使用楽器:ヤマハ CS-80、CP-80、ミニーモーグ2台、ハモンド C-3、プロフェット5など

音楽ライター / シンセ鍵盤卿

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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