近年はスピーカーからヘッドホンまで積極的にモニター機器をリリースするNEUMANN。筆者も自宅6畳スタジオにてKH 80 DSP + MA 1を導入していますが、6.5インチウーハーモデルのKH 150を使用する機会を頂いたので、KH 80 DSPに代えて制作で使用してみました。
<NEUMANN KH 150>
NEUMANN モニタースピーカーの新しいスタンダードモデル KH 150

<KH 150リリース前のNEUMANNモニタースピーカーラインナップ>
KH 150はNEUMANNモニタースピーカーラインナップの中では中間に位置するモデルで、前述の通り6.5インチウーハーを持つモデルです。
以下の画像はKH 150リリース前のものですが、左からKH 80 DSP、KH 120、KH 310となっており、KH 80 DSPとKH 120はそれぞれ4インチ、5.25インチウーハーの2ウェイモデル。KH 310は8.25インチウーハーの3ウェイモデルとなっていますので、KH 150はこれらの中間にラインナップされます。

<背面のイーサネットコネクター>
KH 150のモデル名には「DSP」が入っていませんが、DSPを搭載していることも特筆すべきでしょう。モニターアライメント機能に対応しており、背面にネットワークコントロール用のイーサネット端子を装備しています。
NEUMANNのモニターアライメント機能は比較的新しい機能で、KH 80 DSPとサブウーハーKH 750 DSPにしか搭載されていませんでした。KH 310やKH 120でモニターアライメント機能を使用するためにはKH 750 DSPとの組み合わせが必要であったため、サブウーハーを必ず導入する必要がありました。加えてKH 80 DSPやKH 120は広いスタジオではやや役不足でしたから、各方面から6インチクラスのモニターが切望されていたと聞いています。KH 150は満を持して登場した「NEUMANNモニタースピーカーの新しいスタンダードモデル」という位置づけになるでしょう。
KH 80 DSPとの比較試聴 〜低音が増強されただけ、驚くほど同じ傾向のサウンド〜

<XLRと電源ケーブルは下から挿入する>
スペック比較はさておき、使用しているKH 80 DSPと入れ替えて比較試聴してみました。
アナログ音声入力と電源インレットはKH 80 DSPと異なりますので、KH 80 DSPから入れ替える場合は準備が必要です。KH 150の音声入力端子はロック付きのXLRキャノンとなっており、また、電源インレットはIEC 3ピンインレットとなります。
電源インレットが深い位置にあるため、ホスピタルグレードの電源ケーブルはそのまま使用できません。今回は付属していた通常の電源ケーブルを使用しました。ホスピタルグレードのケーブルに換装したい場合は、延長コネクターのようなものを用意するか、端子部が小さい電源ケーブルを用意する必要があります。

<MA 1を使用してキャリブレーションする>
接続後はMA 1(別売)とソフトウェアを用いてキャリブレーションを行いました。MA 1はKH 80 DSPで使用していたものがそのまま使用できます。ソフトウェアでは複数のセットアップを記憶できるので、KH 80 DSPのセッティングを残したまま新たにKH 150のキャリブレーションができました。

<KH 80 DSPとKH 150>
サウンドを聞いてみると、ウーハーが大型化され39Hzまで再生可能(+/-3dB)とされているため、KH 80 DSPよりもはっきりとした低音が感じられます。バスドラムの胴鳴りやウッドベースのボディ、シンセベースのディープな低音など、KH 80 DSPでは再生しきれないボトムが綺麗に再生されます。KH 80 DSPの場合はサブウーハーが欲しくなりますが、KH 150であればサブウーハー無しでもかなりのところまで対応できるのではないかと感じました。
ただし低音以外の特性については、驚くほどKH 80 DSPと同じなのです。低域に目をつぶって聞いていると、まるでKH 80 DSP。200Hz以上の帯域はほとんど同じような音だと感じました。KH 80 DSPと同じくスピーカーではなく空間が鳴っているような、位相の良いクリアなサウンドです。KH 150をセッティングしても音に慣れるための時間が全く必要なく、そのままスムーズに移行ができました。本当に同じでびっくりしたほどです。

<6畳スタジオにKH 150はなかなかのサイズ感>
KH 80 DSPとKH 150はウーハーのサイズこそ違いますが、逆に言えばそれ以外は同じなので、当たり前なのかもしれません。ツイーターはKH 80 DSPと同じ1インチユニットであり、エンクロージャーの構造や材質も同様。ロングスロー・バス・ドライバーや、ツイーター周辺の3D形状も同じコンセプトのままサイズアップしているだけなのです。NEUMANNがこのシリーズに対して掲げているコンセプトが徹底されていることを感じる結果となりました。
もちろん、この結果は筆者のスタジオでモニターアライメントを行った状態であり、より広いスタジオで使った場合は異なる結果となる可能性はありますが、素性の良さ、ラインナップ間で音質が共通であることは確認できました。設置するスタジオにあわせて最適なサイズを選んでいけば良いでしょう。
筆者の6畳スタジオでは視覚的な圧迫感が少々大きかったのでKH 80 DSPを継続することにしましたが、感覚的には10畳以上のスタジオではKH 150が有効な選択肢になると思います。また、余裕があればサブウーハーを同時に導入することをお勧めします。KH 150もかなりの低域再生能力ですが、サブウーハーKH 750 DSPは18Hzからの再生能力があり(+/-3dB)、加えてサブウーハー使用によって再生能力に余裕がでてきますから、ラージモニターのようなサウンドが出せると思います。
モニターアライメント無しでも十分に高い品質を感じさせる

<KH 150の楕円型 (MMD™) ウェーブガイドは彫りが深い>
DSPによるモニターアライメントが優秀であるために注目されますが、モニターアライメント無しでも十分にクオリティが高く、低価格帯のスピーカーとは一線を画す存在です。
エンクロージャーはコンピューターモデリングで設計されており、楕円型 (MMD™) ウェーブガイドと呼ばれる独特の3D形状が特徴です。左右は広く、上下は狭い指向特性に調整されており、コンソール上に設置した際でも反射の影響が少ないとされています。
エンクロージャー表面を実際に触ってみると、樹脂製でありながら相当に堅牢な印象を受けます。まるで鉄のような質感です。この特徴的な質感は、素材に採用されている低共振材料(LRIM™)によるものと思われます。

<背面の音質調整機構>
NEUMANNのモニターアライメント機能はイコライジングに不自然さがありませんが、嫌う場合はモニターアライメント無し(ローカルモード)でも使用できるように作られており、背面には音質調整機能を持っています。
また、KH 150独特の特徴としてはS/P DIFデジタル入出力の搭載が挙げられます。筆者のスタジオでは使用しませんでしたが、デジタルのまま入力することでADDAによる遅延も減りますし、ワードクロックも供給されます。環境やこだわりによっては便利な機能でしょう。
以上、KH 150を紹介させていただきました。今回試用したのは通常タイプのKH 150ですが、AES67(Dante)接続に対応したモデルもラインナップされているとのこと。本数の多いセットアップにおいては便利な選択肢になるかもしれません。
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