サイモン&ガーファンクル 大ブレイク! パートⅣ
今回は短い活動に終止符をうったサイモン&ガーファンクルのアルバム『明日に架ける橋』を様々な角度から検証し、ポール・サイモンの音楽を考えます。
サイモン&ガーファンクルの集大成『明日に架ける橋』
前作、『ブックエンド』はサイモン&ガーファンクルが本来持ち合わせていた内省的な部分とポップロック的部分を融合した完成度の高いアルバムとなりました。
当時サイモン&ガーファンクルの音楽はレコードショップでは「ニュー・ロック」という種別で棚に置かれていました。実際にポール・サイモンの音楽ジャンルは何かと問われればファースト・アルバムの時点ではフォークとカテゴライズされるでしょう。
卓越したアコースティック・ギターの技術を持つポールから紡ぎ出される楽曲はフォークテイストは強いもののフォークとも違った味わいも内包していました。
しかし、アルバムを重ねるにつれ、彼の音楽はフォークというカテゴリーには収まらない類の音楽に拡大をしていったのです。そして音楽的すそ野はフォークやロックなどに限定されることのない、ポール・サイモンミュージックになっていきます。
ポール・サイモンの音楽がポップかと言えば決してそうばかりではなく、中にはポップ的要素の強い曲もありますが、そこから一捻りしたものも多く見受けられます。我々はその捻りの中にポールが生まれながらにして持つ「心の闇」や「寂寥」を感じ取ることができます。それこそがポールの持ち味なのだと思います。
もし、ポールがポップソングを作ることを命題にしていたのなら、多分この世から彼の音楽は消えていたでしょう。だからこそ彼は生き残ってきたのだと思います。
ポール・サイモンの悩みの種はアートだった
一方、ポール・サイモンは悩みの種を抱えていました。その種は盟友であるアート・ガーファンクルです。アートは映画俳優としても活躍していたため、映画出演の際にはポールとの音楽制作ができませんでした。デュオという音楽ユニットで片割れが不在ということは決定的な齟齬を招きます。サイモン&ガーファンクルと名乗る必要もなく、ポール・サイモンのソロアルバムでもいいわけです。しかし、アートの歌声がポールにとってはなくてはならないものでした。ポール自身も歌いますがエンジェル・ボイスと言われたアートの歌声はポールの音楽を表現する上で圧倒的なピースだったのです。
2人の綻びはこのアルバムで決定的になります。
■ 推薦アルバム:サイモン&ガーファンクル『明日に架ける橋』(1970年)

ラストアルバムとなる『明日に架ける橋』は1970年1月にリリースされ、ビルボードで6週連続の1位を獲得。また、年間チャートでも1位という商業的にも大成功を収めた。グラミー賞では最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞など、4部門を受賞し、アルバムは最優秀アルバム賞と最優秀録音賞を獲得した。
『ブックエンド』から更に飛躍したサイモン&ガーファンクルを聴くことができる。そしてポール・サイモンの楽曲制作力がこの時点でピークに達したことも容易に理解できる。その根拠は楽曲の質の高さからも推し量ることができる。ポールの持つ抽斗が増え、タイトル曲である「明日に架ける橋」をはじめ、「ボクサー」「いとしのセシリア」「コンドルは飛んでいく」「ベイビー・ドライバー」「フランク・ロイドに捧げる歌」など、彼らの代表曲がこのアルバムには詰まっている。
このアルバムではサイモン&ガーファンクルのフォーキーな部分は薄れ、楽曲的にもロック寄りの楽曲が増えている。特にアレンジ面からみると「明日に架ける橋」や「ボクサー」などエレクトリックな手法や壮大なアレンジなども取り入れ、新しい化粧をほどこされた楽曲が印象に残る。
このアルバムはサイモン&ガーファンクルの金字塔的アルバムであることは間違いないが、一方で俳優業に精を出していたアートとの不仲が決定的状況になったアルバムでもある。
推薦曲:「明日に架ける橋」
サイモン&ガーファンクルの最大のヒット曲。1,000万枚以上のセールスを記録。君が困難にあった時に逆巻く水に架ける橋の様に身を投げ出すという内容。
ピアニスト、ラリー・ネクテルの名演が光る。ポール・サイモンの作曲であるが、ポールは歌わずにオリジナルキーを変えてアート・ガーファンクルが全てを歌っている。アートの澄んだ声がこの楽曲により強い説得性をもたらしている。ポール・サイモンはゴスペルからインスパイアされこの曲を制作しているため、S&Gの楽曲中、1番黒人的な要素が強い。
サビのアウトロ部分で曲に合わせてシンバル部分に数回「バッシャーン」という音が入る。この音は自転車のチェーンを円状にしてスタジオの床に叩きつけた音を録音したもので、楽曲の壮大さを演出している。
推薦曲:「ボクサー」
サイモン&ガーファンクルの重要曲の1つ。大都市ニューヨークに住む貧しい少年がボクサーになる過程を描いている。少年~青年~第三者と人称の視点が変化する歌詞、ニューヨークという大都市の疎外感や孤独感などポールが自身の想いと重ねている様子が覗える。
とっつきやすい曲である一方で単純な側面もあるため、各箇所に工夫が見られる。インターバルの郷愁を誘うペデルスィールやラストコーラスで歌われる背景にバスハーモニカ、アウトロ部分のライ・ラ・ライ~♪のシンバルが入る部分ではスタジオのドアの閉る音を録音して深いリバーブをかけシンバル音と重ねるなど、「明日に架ける橋」同様、制作者の楽曲に対する熱い思いが伝わってくる。
推薦曲:「コンドルは飛んでいく」
ポール・サイモンはスカボロー・フェアでイギリスの民謡を引用し、楽曲作りをしたが、このアルバムでもそういった曲作りの手法は健在だった。ポールの音楽的な手法の1つとして世界の音楽に目を向けるという志向がある。「コンドルは飛んでいく」も同様な手法で制作されている。
この曲はポールがペルーの民族音楽を元に制作されている。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ポール・サイモン、アート・ガーファンクル、ラリー・ネクテル
- アルバム:「明日に架ける橋」
- 曲名:「明日に架ける橋」 「ボクサー」「コンドルは飛んでいく」
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