U 87 Aiなど業界定番とも言えるマイクを数多く生み出したNEUMANN。マイクメーカーとして名を馳せますが、近年はスピーカー等モニタリング製品もリリース。この記事では小さなボディから想像できない音が出るということで話題のKH 80 DSPを紹介します。
NEUMANN ( ノイマン ) / KH80 DSP A G パワードモニタースピーカー
筆者も機会があって自宅で鳴らしてみたら、そのサウンドに衝撃を受け、すぐに導入してしまいました。その特徴や魅力を、半年ほど使ってみての感想なども交えながら紹介していきます。
サウンドハウスにNEUMANNのデモブースが完成し、KH 80 DSPを体験できるようになっていますので、その様子もあわせて紹介します。
4インチながらも密度のある「使える低域」を再生
製品概要としては、4インチウーハー/1インチツイーターを持つバイアンプのパワードモニタースピーカー。アンプ出力はウーハー120W/ツイーター70W※1となっており、小型のスピーカーでありながらパワフルなアンプを搭載していることがわかります。
周波数特性は+/-6dBで53Hz〜21kHz、+/-3dBでも57Hz〜21kHzとなっており、先述の通り4インチウーハーでありながら5インチウーハーを持つモデルに迫る低域再生能力を持つことが特徴です。実際に聞いてみてもサイズからは想像できないしっかりとした密度のある、「使える低域」が飛び出してきます。

<KH 80 DSPの周波数特性>
6畳程度の自宅スタジオでは、ややサイズオーバーであるとは知りながらも低域をしっかり聞くために5インチスピーカーを選択せざるを得ないというのが実情でした。5インチモデルを導入しつつ、ポテンシャルを使い切れないという状況が多かったと思います。
しかしKH 80 DSPはコンパクトサイズながらもしっかりした低域が出るので、自宅スタジオ用のモニターとしては、この音が出るなら5インチは不要であると感じました。設置自由度が高くなりますし、何よりスピーカーの能力にマッチした音量で鳴らせるので、自然なサウンドでモニタリングすることができます。適当な低音ではなく、密度のあるしっかりした低音というところもポイントです。

<PCディスプレイと比較してもコンパクト>
裏付けを探していくと、NEUMANNが誇る技術力が背景にあることがわかってきます。独自のコンピュータ・シミュレーションがベースになっているそうで、スピーカーから出る音、拡散や回析が緻密に計算されたキャビネット・デザインが音の良さにつながっているようです。
バスレフ・ポートにも独自技術が投入されており、パイプ共振減衰を考慮した高性能バスレフポートが搭載されています。また、ユニット自体もロングスロー・バスドライバーが採用され、分割振動の低減により、大音量でも低歪みを実現しています。聞いてみるとバスレフ・ポートを感じさせない、まるで大きなサイズのウーハーが鳴っているかのような、繋がりの良い低域を聞くことが出来ます。

<ロングスロー・バスドライバーとバスレフポート>
樹脂で成形された筐体ではありますが、手にとってみると堅牢です。そして、ただの四角い箱ではなく三次元的な曲面を持っていることがよくわかります。コストパフォーマンスは抜群ですが安い製品ではありませんから、サウンドハウスモデルルーム等で手にとって確認していただきたいところです。
※1:THD+N with limiter deactivated: 10%
まるで空間から音が出ているよう。キャリブレーション機能で発揮される真価。
スピーカー単体でも音質調整機構を持つため設置場所にあわせた調整が可能ですが、KH 80 DSPはキャリブレーションを行うことで真価を発揮します。この機能は用意されている専用のソフトウェアとNEUMANN MA 1マイク(別売)を使用して設置場所の音響特性を計測し、部屋の特性にあわせてスピーカーの出力音を自動調整する機能です。
スピーカーにおいて本体の設計はもちろん重要ですが、同等に置く場所も重要です。どんなに良いスピーカーでも設置が悪ければ良い音では鳴ってくれません。スピーカーを置く場所の材質が硬いか柔らかいかだけで音質は変化しますし、壁からの距離や壁の材質でも変化します。スピーカーの音というのは本体と部屋で決まるのです。
つまり、良い部屋が無いと良い音は得られなかったのです。レコーディングスタジオ等、音響特性に優れた場所で良いモニタリングができるのはこのためです。
このような環境による音質差をかなり少なくしてくれるのがキャリブレーション機能。簡単に言えば、レコーディングスタジオのような良い場所に置いた時の音が自宅で手に入ります。
キャリブレーションの方法は簡単で、KH 80 DSPと専用ソフトウェアを使用するPCをLANケーブルで接続※2します。また、パソコンにオーディオインターフェースを接続し、MA 1測定用マイクとKH 80 DSPを接続します。接続が完了したら画面の指示に従って信号音の計測を行うと、自動的に補正が行われます。補正結果は手動での微調整も可能です。

<計測の様子、左上がMA 1測定用マイク>
補正結果はKH 80 DSPの本体に内蔵されるDSPに記憶されるため、計測後はLANケーブルを外すことができます。他社のPC内でキャリブレーションを行うシステムは運用面で手間が多いのですが、KH 80 DSPはスピーカーという終端機器で補正が行われるため、補正機能の存在すら忘れてしまうほどです。
補正後の音質は一聴の価値ありで、スピーカーではなく空間から音が出ているような印象を受けます。まるでスタジオのラージモニターを聞いているような感覚です。自宅だけでなくデモブースのような特殊環境でも効果が高いので、ぜひデモブースで補正サウンドを体験してみてください。

<補正結果は本体DSPに記憶される>
なお、KH 80 DSPとMA 1がセットになった「Monitor Alignment Kit 2」という製品もありますので、これから購入する人はMonitor Alignment Kit 2がお勧めです。
※2:接続にはイーサネットハブが必要です。
スピーディーな音作りに貢献する効率的なサウンド。
実際に使用してみての感想ですが、まず、音の信頼性が高いことが挙げられます。
KH 80 DSPの音は良い意味で特徴がないため、KH 80 DSPでミキシングした音については他の再生環境で再生した時の違和感が非常に少ない印象です。ミキシング後に様々な環境でチェック再生しその修正点を反映するという作業を繰り返しますが、修正の回数が少なくなりました。もちろんミキシングに依りますが、KH 80 DSPでうまくミキシングした音はどの再生環境でも許容範囲に収まってきますので、結果、スピーディーに作品を仕上げることができています。これは仕事で音作りをしている人には大きなメリットとなるのではないでしょうか。
また、音が大きく聞こえるため、実際のモニタリング音量をひとまわり小さくできています。自分で聞いていると大きな音でも、部屋の外から聞くと従来よりも小さい、という感じです。計測した訳ではなく感覚値なのでその点はご了承ください。

<背面の調整機構とパワーアンプ部>
総じて、色々な意味で効率的なスピーカーであるように感じられます。音質は先述の通り良い意味で色付けがなく、モニターライクなサウンドです。しかし音の密度は高くくっきりとした輪郭があり、様々なことを判断しやすい音です。キャリブレーションやNEUMANN独自の緻密な設計によるものだと感じられます。写真で見るよりもカッチリとしたスピーカーなので、ぜひ実物を見てみてください。
KH 80 DSPについてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。一言で言えば、自宅モニターの旅はこれで終焉だと感じています。様々なスピーカーを使ってきましたが、最も衝撃的なサウンドでした。今お使いのスピーカーが「そこそこ良い」と思っている人こそチェックしていただきたいモニタースピーカーです。
筆者はバンドサウンド等が多いのでKH 80 DSPだけでも十分音が作れますが、サイズは4インチとコンパクトなので、さらなる低音が必要な制作が多い場合はKH 750 DSPサブウーハーを追加すると良いでしょう。広いスタジオだとややパワー不足になるかもしれませんが、6畳〜8畳の自宅制作環境においては最も有力な選択肢のひとつと言えると思います。ぜひ体感してみてください。
実際に聞いてみたいという方に朗報です!!千葉県成田市にあるサウンドハウスのショールームにNEUMANN視聴ブースが設置されました。こちらDTMルームの左奥にあるのがそれです。


PRESONUS/MONITOR STATION V2で「KH80」と「KH120+KH750」を聴き比べることができます。

興味のある方はぜひ実際のNEUMANNサウンドを体感しに行ってみてはいかがでしょうか。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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