こんにちは。
正直、今回は本編のボリュームが結構大きいので「前置きとか別にいらないかな」とも思ったのですが、今までずっとこの感じでブログ書いてきたので、「まぁとりあえずいつものように始めておくか、書かないとなんか気持ち悪いし」と思いながらPCに向き合っている者です。
というわけで始まりましたが、先ほど書いた通り、今回は本編から手をつけてみたら想定以上に内容が多めになってしまいました。
ちょっと長いですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
よろしくお願いします!
先月はTOM(チューン・O・マチック)ブリッジのサドル溝切りについてお話ししましたが、今回はその反対側、ヘッド側で弦を支える最重要パーツ「ナット」についてお話しさせていただきます。
ナットも他のパーツと同様に、価格帯による大きな違いとしてまず「素材」が挙げられます。
お手頃なモデルではプラスチックなどの樹脂系が主流で、中級モデル以上になると「牛骨」が使われるようになります。
この牛骨は、ギターのナットの素材としては最もポピュラーです。
さらにシグネイチャーモデルやハイエンド機になると、ブラス(真鍮)、カーボン、水牛の角などの素材を採用したものもあります。
※このように書くと「樹脂=悪い」と思われるかもしれませんが、これはあくまでコスト的な面でお手頃価格のギターに多く採用されているというだけで、高価なギターでも音質面を考慮し、ナットやサドルに樹脂素材を採用しているものもあります。
とはいえ、ナットの大きさはわずか40数ミリ程度の小さなパーツですし、宝石がついているわけでもないので、素材が変わったからといって原価面だけで考えれば、何万円もの価格差が出るとは考えにくいですよね。
そこで今回お伝えしたい本質は、素材そのものではなく「ナットの成形と溝切り」についてです。
前回のブログでも申し上げましたが、高価なギターとお手頃ギターの差は、「目に見えにくい細かい部分にまで、しっかり手が行き届いているかどうか」という点に表れます。
ということで、ナットの成形と溝切りについて深掘りしていきましょう。
ナットには弦を正確に乗せるための溝が彫られています。
この仕上げ工程にこそ、価格差の理由がはっきりと表れます。
お手頃価格なギターの加工
お手頃な価格帯のギターでは、優れたコストパフォーマンスと安定したクオリティを両立させるため、効率的な生産技術が活かされています。
主に以下の2つのパターンが多く見られます。
成型済みナット
あらかじめ金型によって溝や輪郭が作られた樹脂製ナットを採用するパターンです。
パーツ自体の品質のバラつきが少ないため、手頃な価格帯でも安定した弾き心地を提供できる大きなメリットがあります。 一方で、ギター1本ごとに異なるフレットの高さや指板のR(曲線)に合わせた「個体差の微調整」や、上面を削り落とす手作業の追い込みまでは施されていないケースが一般的です。(写真①正面 / 写真②斜め / 写真③側面)
機械による溝切り
専用の回転刃などを用い、機械制御によって6本分の溝を正確かつ均等なピッチで切り込むパターンです。
機械加工ならではの「寸法のブレの少なさ」と「均一な仕上がり」を誇り、安定したクオリティを手頃な価格で実現しています。
価格帯によりますが、その中でも安価なモデルの仕上げは機能性を最優先した直線的でプレーンな形状(四角いブロック形状)が多く、面取りなどの手作業の割合を最小限に抑えることで、合理的なコストパフォーマンスを生み出しています。
どちらも「手に取りやすい価格で安定した楽器を届ける」ための合理的な工夫ですが、ここからさらに踏み込んで職人が1本ずつ追い込んでいるかどうかが、高価なギターとの大きな違いになってきます。

写真①

写真②

写真③
高価なギターの加工
機械による荒加工は全体の8〜9割程度に抑え、残りの追い込みは熟練の工場員や職人が手作業で行います。
メーカーやモデルによっては最初の切り出しから完全手作業で仕上げられているものもあります。



ちなみにベースですとこんな感じです。


高価なギターは、外側の角を綺麗に丸め、上面を削り落として弦の埋まり具合を整え、溝の深さを1本ずつ追い込みます。 まさに「紙一重」とも言える、100分の1ミリ単位のシビアな精度で調整されています。
では、なぜそこまで手間をかけるのでしょうか。
手作業による丁寧な成形には、楽器としての性能を最大限に引き出す明確な理由があるからです。
手間をかける理由
1. 外側の角を丸める(面取り加工)
【メリット:演奏性の向上・怪我の防止】
ローポジションでコードを押さえる際、特に親指をネックの上に回すシェイクハンドスタイルでは、人差し指の付け根や手のひらがナットの角に接触します。
角が立っていると演奏中に強い引っ掛かりや痛みを感じ、集中を削がれる原因になります。
滑らかに面取りされているだけで、長時間のプレイでもストレスがなくなります。
また、不意にぶつけた際のナットの欠けを防ぐ効果もあります。
そして何より、ギターを見た時の印象がまるで違います。
滑らかな曲線を持つ丁寧に仕上げられたナットは、それだけでギター全体のルックスをぐっと引き締め、高級感を演出してくれます。
2. 高さを揃える(上面の削り出し)
【メリット:チューニング安定性の向上と抜けの良いトーン】
理想的なナット上面の高さは、「巻き弦の半分〜1/3程度がナット上面から露出している状態」と言われています。
溝が深すぎて弦が完全に埋没してしまうと、弦とナットの接触面積(摩擦抵抗)が増加します。
その結果、チョーキングやアーミングの際に溝の中で弦が引っ掛かり、元の音程に戻らなくなる「チューニング狂い」の主原因になります。
上面を落として摩擦を最小限に抑えることで、弦がスムーズに滑り、かつ開放弦のサステインやクリアな倍音が損なわれにくくなります。
3. 溝の深さを揃える
【メリット:ローコードの押弦の軽さとピッチの正確さ】
溝の深さは、指板のラジアス(R)とフレットの高さに合わせて1本ごとに調整が必要です。
機械の一発切りで溝が浅い状態だと、ローコード弾きなどで無駄な力が必要になり、強く押し込むことで弦が引っ張られてピッチがシャープ(音が高くなる)してしまいます。
逆に深すぎると、開放弦でフレットに当たってビビりが出ます。
限界ギリギリまで深さを均一に追い込むことで、「軽い力で押さえられ、ローポジションの和音が濁らない正確なピッチ」が得られます。
ここで、ナットの溝切りがいかに重要でデリケートな作業であるかを示す具体的な例として、Fender系に代表される「ストレートヘッド(段差はあるが角度がついていないヘッド)」のお話をいたします。
ギブソンなどのアングルヘッド(角度付きヘッド)に比べ、ストレートヘッドは構造上、ナットにかかるテンションが不足しがちです。
ストリングリテーナーで補ってはいるものの、ナットにかかる圧力は依然としてデリケートです。
テンションが弱い状態では、溝の幅、底の形状(R)、そしてペグに向かって落とし込む角度がほんのわずか狂っているだけで、弦の支点がブレてしまいます。
すると、開放弦を鳴らした際に「ビーン……」「ミーン……」というような耳障りな共振が発生します。
しかし、共振を起こしているギターでも、「専用のヤスリで溝の底面をヘッドの角度に合わせて軽めに1回なぞるだけ」で、接点が正常化してピタリと共振が止まるケースは珍しくありません。
高価なギターは、一流のクラフトマンが耳と指先を研ぎ澄まし、この「ほんのわずかな調整」に大きく時間を割いているからこそ、鳴りと安定性が保証されているのです。
ナットの調整・交換について
前回のサドル溝切りでは「ご自身で挑戦してみたい方向けのツール」もご紹介しましたが、ナットの交換・溝切りに関しては、迷わずプロのリペアマンやクラフトマンへ依頼することを強くおすすめします。
ブリッジサドルであればパーツ単位での買い替えが比較的容易ですが、ナットはそうはいきません。
- ネックの仕込み角や反り具合
- フレットの正確な高さ
- 指板のR
- 使用する弦のゲージや弦間ピッチ
- ナットの取り外し
- スロット底面とネック木部との完全な密着
これらすべての要素を複合的に計算し、1本の未加工のブロックからゼロベースで成形していく、非常に手間と時間と経験が必要な作業だからです。
一度溝を深く切りすぎたり幅を広げすぎたりすれば、完全に元通りにはできません。
ナットは小さなパーツですが、ギターの「弾きやすさ」「ピッチの正確さ」「チューニングの安定性」「開放弦の音色」などを支配する、まさにギターの心臓といっても過言ではないパーツなのです。
先ほどプロへの依頼を推奨しましたが、もし作業をご依頼される際は、できれば弊社(サウンドハウス)でご購入のうえ、お持ち込みなどでご依頼いただけると、私共といたしましても大変喜ばしいです。
もちろん「絶対に弊社から!」とは言いません。できれば(小声)で構いませんので、頭の片隅に置いておいていただけると嬉しいです。
「見るだけ」でも構いませんので、よろしければ以下のリンクからチェックしてみてください。
MONTREUX ( モントルー ) / Oil Bone Nut Fender unbleached [705]
MONTREUX ( モントルー ) / Oil Bone Nut Gibson unbleached ver.1[706]
GRAPHTECH ( グラフテック ) / PQ-5000-00
GRAPHTECH ( グラフテック ) / PQL-6060-00
今回は「ナットの成形と溝切り」についてお届けいたしました。
ナットと聞くと、ギター改造の定番であるピックアップやポットなどの電装系、ブリッジやペグといったパーツと比べるといささか地味に感じますが、実はとても大切なパーツだということがご理解いただけたかと思います。
今回は内容が多くて書ききれませんでしたが、ナットの加工や溝切りに対する考え方は本当に多種多様で、同じような形状のヘッドでも異なる形状や溝の切り方がされていたりします。
今後、町の楽器屋さんやご友人のギターを見る際は、ぜひナットにも注目してみてください。
これまで気に留めていなかった小さなパーツのこだわりに気づくことで、ギターに対する見方が変わり、楽器としての奥深さをより感じていただけるはずです。
そしてきっと、もっとギターが楽しくなると思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、またサウンドハウスのスタッフブログでお会いしましょう。
さようなら。





![MONTREUX / Oil Bone Nut Fender unbleached [705]](https://www.soundhouse.co.jp/images/shop/prod_img/m/montreux_705yy.jpg)
![MONTREUX / Oil Bone Nut Gibson unbleached ver.1[706]](https://www.soundhouse.co.jp/images/shop/prod_img/m/mont_706aaa.jpg)




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