「知識が増せば悩みも増す!」――これが聖書に記されている不滅の格言です。日本にも「知らぬが仏」ということわざがあります。知らなければ気にも留めなかったことが、知ってしまったばかりに、悩みや苦しみの種になってしまう。まさに同じような意味でしょう。
つい先日、西日本で5番目に標高の高い、徳島県の三嶺をトレイルランしました。その日は真夏の炎天下。山道を駆け足で登るのは、半端な気持ちではできません。しかし、自分のモットーは「頂上までノンストップ」。足を止めず、一気に頂上まで登り詰めました!実は3か月ほど前、新卒社員との登山ツアーで石鎚山を駆け足で登った際、10年ぶりにふくらはぎを肉離れしてしまい、それから2か月以上、走ることができませんでした。それだけに今回の登山は慎重です。
久しぶりの山登りに、わくわく、どきどき。「もう肉離れはしないぞ」と、おそるおそる駆け足で登っていきます。ところが、最後の300mが想像以上にきつい。「まいった!」と思わず言いたくなるほど、足が止まりそうになります。それでも何とか頂上に到着。ひと息つく間もなく引き返し、下山しました。そして車に戻り、着替えているときです。ふと見ると、両腕が赤い。何と、日焼けしているではありませんか。
3年前、ドクターから「きちんと日焼け止めはしてくださいね」とアドバイスされ、65歳にして生まれて初めて、日焼け止めを顔に塗るようになりました。いろいろ試してみたのですが、やはり、自分の肌に合うもの、合わないものがあるのです。合わないものは、すぐにチクチクしてくるし、かゆくなる。試行錯誤しながら、行きついた結論は、資生堂のアネッサ。これが自分の肌にピッタリ合っていることを確認しました。しかしながら、腕までは日焼け止めを塗っていなかったため、ショートスリーブの先から手のグローブまでの間が日焼けしてしまったのです!標高2000mの紫外線は、平地よりもかなり厳しいことを忘れていました。
そもそも自分は半世紀以上前、テニスの選手として活躍し、アメリカにテニス留学していたのです。そしていつも、日焼けして顔は真っ黒。腕も足もこんがりと日焼けしたことを自分の誇りにしていました。みんなに見せてあげたい。雑誌にまで掲載された自分の雄姿を。だから、日焼けは当たり前のことだったのです。ところがそれから50年後、ちょっとした腕の日焼けが気になっている自分に驚きます。時代は変わったものだと。一番の要因は、日焼けはシミの原因になると、教わったことにあります。そしてショッキングなことに、登山から数日後、自分の腕を見ると、生まれて初めて、自分の腕にシミがいっぱいついているのを確認したのです。と言うより、腕のシミがとても気になってしまったのです。まさか腕にシミができるとは。。。しかもシミだけでなく、紫外線にやられて、前腕の肌が荒れ、ざらざらになってきたのです。
そもそも標高2000mでは、紫外線のきつさが違います。平地と比べて、紫外線は少なくとも20%ほど強くなります。しかも晴れの日の登山では5~6時間、強烈な紫外線を受けっぱなしになるのです。そのため、4月の石鎚山登山では、日焼け止めを塗る量が足りなかったこともあり、せっかくきれいにメンテナンスしていた顔の肌が、赤くなりシミができてしまいました。それをなんとか直そうと努力してきたのに、今度は腕が気になってしょうがなくなりました。「おいおい、なんで気になるの?」と言いたいのですが、日焼けによるシミの現実を知ってしまったからには、仕方がないのです。
日焼けなんか気にしなかった10代が、ふと、懐かしくなります。なぜか今では、太陽が照り始めると、「姉さん!」、いや違う、「アネッサ!」と言わんばかりに、そのボトルがないと外に出たがらない自分がいます。この歳になって、まさに日焼けによるシミへの嫌悪感にブレーンウォッシュされた自分に驚いています。それにしても、気になる腕を時々見ることがあります。ほんの1~2㎜程度の小さなシミなので、普段なら見向きもしないはずのどうでもいいことに、なぜか目が向けられる。そして、「やばい、シミができた」と思ってしまう自分は、まさに「知識が増せば悩みも増す!」の重症です。
そんな思いに苛まれている昨今、東京では男性諸君が日傘をさす姿を見かけるようになりました。それも、つい数か月前からです。それまでは東京育ちである自分の人生において、都会で日傘をさすような男子は一度も見たことがありません。ところが本日、町中で3人の男性が日傘をさしている姿が目に入りました。これは自分にとって、とても新鮮で、かつ衝撃的な光景でした。それは昭和30年代、男女が手をつなぐことなど、もってのほかと思われていた時代に、渋谷ハチ公前で手を繋いでいる若者を見たときと同じような衝撃です。つまり、時代は激変し、男性が日傘をさす時代になったのです。WOW...
無論、その背景のひとつには、紫外線が強い日が、1990年と比べると現在は2倍に増えていることがあります。それに加え、昨今の男性による美容ブームがあります。特に若い世代では、男性も化粧やスキンケア、美容に関心を持つことが珍しくなくなりました。かつてのように、「男子は外で真っ黒に日焼けして遊ぶもの」という価値観そのものが、変わりつつあるように思います。いつしか男子の興味も多様化し、スポーツだけでなく、ファッションや化粧、料理、ショッピングなどを楽しむ若者が増えてきました。その結果、日焼けを避け、肌をきれいに保とうとする男性が増えてきたことも、男性用の日傘が売れる背景のひとつではないでしょうか。一方で、太陽の光を浴びることが心身の健康にとって大切であることも知られています。果たして、そこまで紫外線を恐れていいものでしょうか。
たまたま、本日の日本経済新聞の夕刊の1面の記事が、何と、「紫外線対策メンズ熱視線」と題され、紙面を飾っていました。アネッサを愛用する自分は知りませんでしたが、資生堂は男性向けの日焼け止め「アネッサ・マルチコントロールUVジェル」の販売を開始したということです。サントリーも男性をターゲットにした日焼け止めの商品の販売を始めたそうです。そして驚くことに、今や雑貨店では男性向けの日傘の販売が、大きく伸びていると書かれています。しかもその市場を支えているは、20代の若者だというのです。ハンズがプロデュースする「男の日傘」シリーズは、つい最近、商品数が4割も増えたそうです。また、洋服の青山でも、日傘を取り扱う店舗が、昨年の5倍となる260店舗になりました。販売数も前年比で5倍近くに伸びているという、驚きの事実です。
関連記事:【日本経済新聞社】紫外線対策、メンズ熱視線 日焼け止めやアームカバー 各社が相次ぎ新商品 新規顧客取り込む(2026年8月22日掲載)
若い世代の男性にとって、化粧をすることも、もはや珍しいことではなくなりました。日焼け止めだけでなく、エステサロンに通い、美容に気を使うことも当たり前になりつつあります。美容整形に対する心理的なハードルも、以前とは比べものにならないほど低くなりました。しかも女子と同じように、バイトしてお金を貯める理由のひとつに、「顔を整形するため」という理由も多く聞かれるようになりました。そう考えれば、日焼けによる顔のシミを避けるために、男性用の日傘が売れるのも不思議ではありません。そしてアツギも「約5年ぶりにアームカバーを投入した」といいます。男性がアームカバー?腕の日焼けまで気にする時代になったのでしょうか……。そう考えて、ふと自分の腕を見る。人のことを言っている場合ではありません。
こうした社会的な変化は、アウトドアスポーツの人気にも少なからず影響を与えていくのではないかと見ています。夏に海に行って日焼けするなどは、もはや考えられないことになりそうです。山登りも避け、どうしても登山する場合は、全身を衣服でまとい、日光の直射を避ける手段をとります。そして、自分の大好きだったテニスも、当然ながら人気は下火になるのでしょうか。以前はリッチでかっこ良かったテニスが、今では、日焼けの害をもろに受けるスポーツとみられてしまう危険を孕んでいます。服で体を隠せないスポーツだからです。それゆえ、サッカーくらいでしょうか。日焼けをものともせず、堂々と日向でプレーし、かつ、人気のあるスポーツは。だからこそ、日焼けして走っているスポーツ選手は、甲子園の高校生球児と同様に、かっこいい、と思ってはいるのですが、その考えもあと数年で消え去っていくように思います。もはや、日本の夏は暑すぎて、野外で野球をするような環境ではないからです。
何が言いたいのか。自分でもわからなくなってきます。結局、行きつくところは聖書の格言どおりです。「知識が増せば悩みも増す!」いろいろと知ってしまったがために、自分の体のことまで思い煩うようになりました。昔はそんなことなど気にもせず、誰もが海に釣りに出かけ、畑では農作業をし、山では猟に出かけ、太陽の光を思う存分浴びていた時代がありました。日焼けした肌は、むしろ健康の象徴だったのです。それが今では、わずか1~2mmの腕のシミを見つけて、「やばい!」と思っている。そして街では、若い男性が日傘をさして歩いている。時代は変わりつつあり、それにつれて自分も変わっていくのでしょうか。猛暑の最中、次に炎天下を歩くとき、自分は日傘をさすのかな?……その可能性は、かなり高そうです。








