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中古楽器のものがたり、または音を受け継ぐということ

2026-08-07

テーマ:管楽器

こんにちは、ワンコフ博士です。
以前、私は楽器に関して「中古界隈の住人」だと書いたことがあります。
実際、工房へ特注したものを除けば、新品の楽器を購入したことはほとんどありません。
今では演奏活動の中心は古楽器(すべて工房特注品)ですが、モダントロンボーンを吹いていた頃は、個性豊かな中古楽器たちとともに、数え切れないほどの舞台に立ってきました。
アメリカから日本へ本格帰国した際、その多くは新しい持ち主のもとへ旅立ち、一時はモダントロンボーンを一本も持っていない時期もありました。現在はテナートロンボーンとバストロンボーンを一本ずつ所有していますが、もちろんどちらも中古です。メーカーはどちらも(今はもう管楽器を作っていない)河合楽器。今ではなかなか出会えないような珍しい楽器に巡り会えるのも、中古楽器ならではの魅力だと思っています。

子どもの頃は、誰も触っていないピカピカの新品に憧れていました。
しかし、使い込まれた楽器でも、自分の思い描く音は十分に出せる。そして、新品では手が届かないクラスの楽器が手頃な価格で手に入る。その魅力に気付いた瞬間から、私の「中古沼」は始まりました。
今回は、私がこれまで出会ってきた思い出の楽器たちをご紹介しながら、中古楽器の魅力について書いてみたいと思います。

01. Kurt Schertzer Tenorbass-posaune

ドイツ・アウグスブルクの名工、クルト・シェルツァーによる一本です。
戦後の製作ではありますが、ドイツ・ロマン派らしい重厚で深みのある響きを持った楽器で、「なんちゃってピリオド楽器」としてブルックナーの交響曲で3番トロンボーンを演奏する仕事のために探していました。
セクションの他のメンバーがピーリング製の楽器を使用していたため、本当は同じピーリング製、あるいは少なくとも同時代の楽器を探していましたがみつからず、出会ったのが、このシェルツァーです。結果として期待以上の働きをしてくれました。
そして、この楽器にはもうひとつ特別な物語があります。
前の持ち主が、シカゴ交響楽団の前首席奏者、ジェイ・フリードマン氏だったのです。
ドイツ製ポザウネ(トロンボーン)のコレクターとしても知られる同氏ですが、この楽器こそが1970年代のシカゴ交響楽団ドイツ演奏旅行中に購入した、記念すべき最初の一本だったそうです。
フリードマン氏が何本か手放そうとしていると人づてに聞き、ご本人へ直接連絡。最終的に提示された二本のうち、私が選んだのがこのシェルツァーでした。
演奏者だけでなく、楽器そのものにも歴史がある。そんな中古楽器ならではの魅力を教えてくれた一本です。

02. King 607F

この楽器は、ミュージカル『シカゴ』の連続公演のために購入しました。
狭いオーケストラピットでも扱いやすいように、F管(※1)付きの小ぶりな楽器が必要だったからです。
この楽器は、ラッカーはほとんど剥がれ落ち、凹みも目立つ、見た目だけなら完全に"使い込まれた中古"でした。ジャンク品といってもいいかもしれません。
ところが吹いてみると驚きました。
スライドもバルブも驚くほど滑らかで、おそらく私がこれまで所有した楽器の中でも一、二を争うほど手に馴染む相棒だったのです。
その公演では、観劇に来ていた公演地(シカゴ郊外の某市)の市長から名指しでお褒めの言葉をいただくという、とても珍しい経験もさせてくれました。
見た目だけでは楽器の価値は決まらない。そう実感させてくれた一本です。

※1 F管:レバー操作で使用する延長管。スライドを最大まで伸ばさなくても演奏できる音域が広がります。

03. Edwards T350-E

大学4年生の頃、「英語でも勉強してみるか」という軽い気持ちで渡米しました。
ところが、留学先の大学で観たオペラ公演に圧倒され、「これをやらねば!」とそのまま音楽留学を決意します。
当時は楽器を持って行っていませんでしたが、ちょうど現地の学生が売りに出していたのが、このEdwardsでした(ありがとう、ジェイソン!)。
ベルのラッカーはすべて剥がされ、新品の輝きなどまったくありません。
当時の私はまだ新品への憧れが強く、「同じモデルの新品を買えばもっと良いはず」と考え、翌年メーカーへまったく同じモデルをオーダーしました。
しかし、結果は完全に予想外でした。
まったく同じモデルであるにもかかわらず、音色も吹き心地も、すべてが最初の中古の方が自分には合っていたのです。
これは今でも、大きな失敗談として強く印象に残っています。
結局、その楽器は大学卒業まで使いましたが、その後は手放し、再び気に入った中古楽器へと戻りました。
あの時の経験が、私の中古楽器に対する考え方を大きく変えたのだと思います。

楽器は使い捨てではない

中古楽器の魅力は、何といっても一期一会です。
今回紹介した楽器も、これまで出会ってきた数々の相棒たちも、叶うならもう一度手元に迎えたいと思うほど思い入れがあります。
もちろん今使っている楽器に不満があるわけではありません。さらにこれからまた、新しい「運命の一本」と出会えるかもしれない。その期待もまた、中古楽器ならではの楽しみです。
弦楽器では数百年前の楽器が現役なのは珍しくありませんが、管楽器もきちんと手入れをすれば親子三代、あるいはそれ以上に受け継がれていきます。
私自身も、ニューヨークの音楽祭のピリオドオーケストラで100年以上前に作られたフランス製トロンボーンを演奏したことがあります。
生産終了でメーカーの純正部品がなくなっていても、腕のあるリペア職人であれば必要なパーツを製作して修理してくれます。往年の名器であれば、そんな職人さんとの会話が盛り上がるのも楽しみのひとつです。
楽器は、決して使い捨てではありません。
中古の魅力をご存じの方は、ぜひ一緒にこの奥深い"沼"へ。
そして新品派の方も、もし手元の楽器が自分のもとで役目を終えたと感じたら、捨てたり押し入れにしまい込んだりせず、ぜひ次の演奏者へつないであげてください。
きっと、その楽器の物語はまだ続いていくはずです。

※サウンドハウスでも中古楽器の売買・買取を行っています。大切な楽器の次の持ち主を探す際は、ぜひご利用ください。

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海外部 / ワンコフ博士

ルネサンス~初期バロックの音楽に魅せられ、海を越えて勉強しながら奏でていたらいつの間にか博士になっていた、周りに流されがちなアニマル動画ウオッチャー。自分は犬派だと思っていましたが、友人の猫にものすごく懐かれたことから猫も好きになりました。なお、主に週末ごろ、違う動物が一番好きになることもあります。好きな作曲家はモンテヴェルディとシュッツ、好きな馬はカレンブーケドール。

 
 
 
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