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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その128 ~隠れたJポップ名盤紹介 国内編~

2023-03-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

隠れたJポップ名盤特集

これまではJポップや海外のロックにおけるシンセサイザーアンサンブルやシンセサイザーソロを紹介してきました。その中でシンセサイザーソロを探すのは記憶の抽斗をたどる難解な作業となりました。それだけ楽曲中のシンセサイザーソロは少なかったのです。海外に目を向ければまだリストアップは可能ですが、国内だと特集できるのは私の知識ではあと1-2回位が限界だったと思います。
その中で私の頭に常にちらついていたのはJポップの隠れ名盤、松下誠さんのファーストアルバム「ファースト・ライト」に収められたモノフォニック・シンセサイザーのソロでした。松下誠さんのアルバムは単独で紹介したいという強い想いもあったことから、シンセサイザーソロを含んだ松下誠さんのアルバムを隠れ名盤として紹介し、Jポップなどの知られざる名盤を紹介しようと考えました。

松下誠さんとつながる!瓢箪(ひょうたん)から駒…

就職先で初めて組んだバンドのベーシスト、T君が松下誠さんのアルバムを教えてくれました。そのアルバムが「ファースト・ライト」でした。そしてあろうことかT君はこのアルバムの曲をバンドで演りたいと言い出したのです。神をも恐れぬ暴挙です(笑)。
松下さんの曲はかなり高度な音楽で、それなりの技術とそれなりの耳を持ち合わせなければ曲のコピーはできません。今はインターネットで耳コピーをしなくても情報が入る時代です。しかし、1981年当時はそんな便利なものもありませんでした。私は「無理じゃないか」と答えました。しかし大学時代の友人の姉の旦那さんが八神純子バンドのベーシストで、その旦那さんの友人が松下誠さんだったので、松下さんからオリジナルの譜面をいただくことができました(感謝!)。その譜面は手書きで単にコードが書かれているものではなく、ピアノやシンセサイザー、ギターなど各パートの音符が丁寧に記されていました。

Jポップかシティポップか?カテゴリーを超えた名盤!

松下誠さんは静岡県掛川市出身でギタリスト、作曲家、アレンジャーなど広範囲をカバーする音楽家です。ヤマハのネム音楽院で音楽を学びました。松下さんはギタリストとして名を馳せてはいますが、ギターに固執することなく音楽全般を俯瞰する志向が強かったとインタビューでは語っています。
また多くのギタリストが志向するブルースをルーツとする音楽にはあまり興味を示さず、ブルースとは距離のあるプログレシブロックやアース・ウインド&ファイヤーといった音楽を聴いていたといいます。好きなギタリストはアースのカッティングギターの巨匠、アル・マッケイが志向の対象となっていました。松下さんのアルバムを聴くとブルース臭を殆ど感じることがないのは、そんな理由があるからでしょう。
泥臭いブルースとは距離を置いた音楽は洗練を極め、シティポップの萌芽となるアルバムになりました。
元々、ギタリストではなく画家になりたかったという松下さん、ファーストアルバムの「ファースト・ライト」が歴史的隠れ名盤と言われる所以は音楽を一枚の画として捉えた総合的アプローチが奏功した結果であったと思われます。

■ 推薦アルバム:『ファースト・ライト』/ 松下誠(1981年)

松下誠さんのJポップ、永遠の金字塔的アルバム。1981年にリリースされた際には夕暮れの写真がアートワークとして用いられた(左側)。後にイラストによるジャケットに変更されている(右側)。
最初にこのアルバムを聴いた感想は日本にこれほど洗練された音楽を作る人がいたのか…ということ。元々ポップスを志向し制作されたアルバムは松下さんお得意のハーモニーの構築が見られ、細かなモザイクのピースを精緻に積み上げたような印象を受ける。とはいえ松下さんはギタリスト。ソロのフレーズには先述のとおり、泥臭さは全く無く、見事に構築されたソロを展開している。そのフレーズは巷のギタリストが弾くフレーズではない。私は松下さんの様なギターフレーズを聴いたことが無く、どういったスケールを使っているのかを聞いてみたい。

完璧主義者の松下さんは手癖でギターを弾かず、スタジオに入る前にギターソロのメロディを譜面にした「書き譜」で対応する。
「イントロを聴いた時に映像が浮かばなければ話が進まない」とは松下さんのコメント。画家を志向していた松下さんを垣間見ることができる。

このアルバムに呼ばれたのは富倉安生(b)、宮崎全弘(ds)、松田真人(keys)、ミルキー・ウェイの信田かずお(keys、synth、cho)、富樫春生(synth、 prog)などの腕利き達。私が痺れたシンセサイザーソロもこのアルバムにおける白眉の1つ(後述)。

推薦曲:「ONE HOT LOVE」

私が松下さんからいただいた譜面がこの「ONE HOT LOVE」。冒頭にリズム隊のバッキングに被るギターソロは松下誠の真骨頂ともいえる。生ピアノ、エレクトリックピアノ、ストリングス、ドラム、ベースのアンサンブルの妙が聴ける。リズムを複雑に分断し、構築されるリフが曲の輪郭を作るという松下さんらしい楽曲。そんなアンサンブルにボーカルが乗り、松下ワールドが鮮やかに展開する。中間部で聴ける松下さんのギターソロは冒頭ソロと同様、ワンアンドオンリーなもので、楽曲のムードを象徴したソロになっている。

推薦曲:「THIS IS ALL I HAVE FOR YOU」

このリズムはスティーリー・ダンを思わせる。タイトでグルービー。日本語のボーカルが出てくるまではニューヨークの音なのではと勘違いしてしまう。
この楽曲で素晴らしいシンセサイザーソロを聴くことができる。ボーカル終盤部から被る早いパッセージのソロはピッチベンドやモジュレーションを巧みに操作し、表情豊かに歌う。松下さんのギターソロとはまた違ったタッチをこの楽曲に与えている。是非、このソロを聴いて欲しい。アルバムクレジットによれば、シンセサイザー担当は富樫春生氏で、オーバーハイムシンセサイザーを使用していることが記されている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:松下誠、富樫春生など
  • アルバム:「ファースト・ライト」
  • 曲名:「ONE HOT LOVE」「THIS IS ALL I HAVE FOR YOU」
  • 使用楽器:オーバーハイムシンセサイザーなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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