「残暑よ、サラバ!」ボサノバのJジャズ系の女性アーティスト 第1巻
残暑を吹き飛ばすサンバやボサノバ名盤、名曲を作曲家や演奏家などから検証するボサノバ大特集。
今回はボサノバの重要曲をカバーしているJジャズ関連の女性アーティストの名盤を取り上げます。
「残暑よ、サラバ!」としたのはボサノバを聴くと音楽的にも気分的にもとても涼しい気持ちになるからです。是非皆さん、ボサノバを聴いて涼しくなって下さい(^^♪
女性アーティストがブラジル音楽に魅了される
ブラジルのボサノバを歌う女性アーティストは多く存在します。その筆頭がこのコラムでも紹介したアストラット・ジルベルトです。アストラットの他にも、ナラ・レオン、ホーザ・パッソス、エリス・レジーナなどです。また、楽器プレイヤーと同様に女性ジャズシンガーもボサノバのアルバムをリリースしています。
ジャズシンガー、エラ・フィッツジェラルドは「エラ・アブラカ・ジョビン」でジョビンの曲を歌っていますし、サラ・ヴォーンも「アイ・ラブ・ブラジル」でもブラジルものを取り上げています。ジャズピアニストであり、シンガーのダイアナ・クラールもアルバム「クワイエット・ナイツ」でジョビンの曲など、ボサノバのアルバムを制作。また、ジャズシンガーのカーリン・アリソンも「イマージナ~ソングス・オブ・ブラジル」というボサノバを含んだブラジル系ソングスのアルバムを制作するなど、多くの女性ミュージシャンがボサノバに魅了されています。
■ 推薦アルバム:小野リサ『エッセンシア』 (1997年)

B&W(黒白)のアート・ワークがアルバムの持つ、空気感を象徴している。
プロデューサーはファーストコールのトロンボーン奏者で売れっ子アレンジャーの村田陽一さん。
村田さんが集めたメンバーはベーシスト、マーク・イーガン、キーボード、ギル・ゴールドスタイン、ホーンにアンディ・スニッツァー、ランディー・ブレッカー、マイケル・ブレッカーなどニューヨークの腕利きが揃う。ここに変化球としてのトニーニョ・オルタが参加。トニーニョ・オルタはブラジルのギタリスト、ボーカリストでソロアルバムも多くリリースしている。トニーニョの存在感がアルバムに好影響を与えてる。
私は村田陽一さんと番組制作の為、1997年にバリ島でロケを行いました。
その時にホテルの一室で小野リサ、「エッセンシア」のアルバムの一部を聴かせてもらいました。村田さんのDATから聴こえるニューヨーク人脈を駆使したアルバムは、どこか耽美的でボサノバのもつカテゴリーとは趣が異なる印象を受けました。
ギル・ゴールドスタインのアントニオ・カルロス・ジョビンを思わせるアコースティックピアノのプレイは、まるでジョビンが降臨したかの様でした。 「ギルはジョビンそっくりにピアノが弾けるんですよ」とは村田さんのコメント。
村田さんの譜面が波打つ程、高湿度なバリのハイヤットホテルの一室。DATから聴こえたあの音は部屋の湿度を少し下げてくれたように感じました。
推薦曲:「レッド・ブラウス」
ジョビンの名盤「WAVE」に入っている「レッド・ブラウス」。
オリジナルトラックよりも早めで、小野リサさんのスキャットがメロディをなぞっている為、爽やか感が強い。
リズムセクションは初期パット・メセニーグループのダン・ゴットリーブとマーク・イーガン。聴きどころはボブ・ミンツァーのバス・クラリネットソロとそれを受けてのランディー・ブレッカーのフリューゲルホーンソロ。こういった贅沢なソロ回しも含め、村田アレンジはいい味を出している。2人のソロは洗練の極みで、ファーストコールミュージシャンによる効果が最大限に生かされている。
推薦曲:「タイランドの午後」
このアルバムの功労者としてトニーニョ・オルタが挙げられる。ニューヨーク人脈の中にあって異彩を放つトニーニョの存在がアルバムのアクセントになっている。
「タイランドの午後」は美しいメロディラインを持つ、トニーニョ・オルタの名曲。
小野リサさんはこういった素朴な曲を歌わせるととても上手い。トニーニョのギターソロは美しく、マーク・イーガンのフレットレスベースソロの配置も村田アレンジの好例。
■ 推薦アルバム:菊岡ひろみ『キ・ボン』(2003年)

ボサノバシンガー、菊岡ひろみの2003年の2ndアルバム。踊りだしたくなるようなラテンな曲や「リカード・ボサノバ」「おいしい水」など、ボサノバの重要曲も含まれている。これまでにない新しく、カラフルな楽曲アレンジが新鮮。
コ・プロデューサーに鍵盤狂漂流記で紹介したボサノバアーティスト、中村善郎さんもクレジットされている。
推薦曲:「ヘカド・ボサノバ」(ザ・ギフト)
イージー・ゴーメのヒット曲であり、ジャズの名曲のカバー。曲の良さから多くのミュージシャンがカバーしている。
このトラックには若手ジャズギタリストの小沼ようすけさんが参加し、素敵なソロを弾いている。ソロの最後にボサノバの名曲、「ディサフィナード」の一節を弾いている。
ジャズではよくやる手法ではあるが、オシャレ!
推薦曲:「オ・グランジ・アモール」
名盤「ゲッツ=ジルベルト」に入っている名曲。この曲も小曽根真さんなど、多くのジャズミュージシャンが取り上げている。コ・プロデューサーを務める中村善郎さんがアレンジをしている。このトラックは中村さんが関わっているだけあり、トラディショナルなアプローチがされている。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:小野リサ、菊岡ひろみ、村田陽一、トニーニョ・オルタ、ボブ・ミンツァー、ランディ・ブレッカー、マーク・イーガンなど
- アルバム:「エッセンシア」「キ・ボン」
- 曲名:「レッド・ブラウス」「タイランドの午後」「ヘカド・ボサノバ」「オ・グランジ・ア・モール」
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