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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その248 ~天才ミシェル・ルグランの音楽~

2025-06-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

今回もサウンドトラックの巨匠でありジャズ・ミュージシャンの巨匠を

前回は映画音楽の巨匠であり、ジャズピアニストとしても知られているラロ・シフリンの音楽について書かせていただきました。
ラロ・シフリンはアルゼンチン生まれなだけあり、南米系音楽の影響が色濃いミュージシャンです。今回はラロ・シフリンとはある種、対局とまではいかないかもしれませんが、成り立ちの異なるフランス、パリのミュージシャンのお話です。
その名はミッシェル・ルグラン。彼も世界を代表するジャズ・ミュージシャンであり、映画音楽の巨匠です。
ラロ・シフリンも活動の本拠地となったパリで音楽を学んだものの、身体に流れる血は変えることができないのか、2人の音楽性には大きな違いがあります。
どちらがいいという議論は成立しないものの、その差異を感じるのは私だけではないと思います。でも2人には1つだけ共通項があります。その共通言語はジャズです。

アカデミー賞3回、グラミー5回の受賞歴!音楽の巨匠ミシェル・ルグラン

ミシェル・ルグランは1932年フランス生まれのピアニストであり作曲家、編曲家です。ジャズのレジェンドであるマイルス・デイヴィスとも共演し、作品をリリースするなど、ジャズ分野での活躍にも目を見張るものがありました。
特に1958年にはジャズ史に残る名盤を録音しています。当時、ミシェルは若干26歳!マイルス・デイビスも認めたミシェル・ルグランのアルバムは世界がその名を認知するきっかけとなりました。

60年代以降、ミシェル・ルグランは映画音楽の世界にも進出。カトリーヌ・ドヌームが主演の名作『シェルブールの雨傘』をはじめ、数多くの映画音楽で傑作を残します。『シェルブールの雨傘』はアカデミー賞にも輝きます。ミシェル・ルグラン32歳での快挙でした。

■ 推薦アルバム:ミシェル・ルグラン『華麗なる賭け』(1968年)

スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』。
この映画を観たのは私が中学生の頃だったと記憶している。自宅の近くには洋画を上映する「キネマ」という小さな映画館があった。映画が好きだった私は土曜日や休日に「キネマ」に足を運んだ。そこでこの『華麗なる賭け』を観た。内容は殆ど覚えていないが、音楽だけははっきりと記憶している…というよりも映画を観ながらこの音楽を覚えてしまった。特に音楽的才能がない中学生にも覚えられる簡単なメロディだった。
そして音楽に付随している…という表現はおかしいかもしれないが、空に鳥が旋回している映像に「風のささやき」が流れていた。付随と書いたのは自分の中での主体が映像ではなく音楽だったという意味だ。それだけ内容や映像よりも音楽が優位にあったのだと思う。本当にどうってことのない(ミシェルさんスミマセン)フレーズを繰り返す音楽がここまで強烈に脳内に焼き付くとは…と思う。
でも、それがミシェル・ルグランの音楽なのだ。繰り返されるシンプルなメロディの重複と微妙に変化するメロディを連ねることで、構成される手法は映画鑑賞者の想像や感情をある種の高みに持ち上げていく。
それがミシェル・ルグランの魔法なのだろう。この楽曲はアカデミー主題課歌賞を受賞している。

■ 推薦アルバム:ミシェル・ルグラン『Summer of 42』(1971年)

ニュー・イングランドの小さな島に、家族と休暇に来た15歳の少年と島に暮らす美しい人妻との甘酸っぱいショートラブストーリー。1942年の夏の話だ。名匠ロバート・マリガン監督による 1971年作品。
ミシェル・ルグランはアカデミー作曲賞を受賞。この楽曲も『華麗なる賭け』、「風のささやき」と同様、美しくシンプルなメロディのリフレインで聴かせる楽曲だ。
少年の人妻への淡い想いを美しい映像が描き出す。そこに寄り添うのがミシェル・ルグランの甘く切ないメロディのリフレインだ。
映像と音楽の理想的な関係をこの作品に観ることができる。音楽の持つ力を知らしめるミシェル・ルグランの傑作だ。

■ 推薦アルバム:ミシェエル・ルグラン『ネバー・セイ・ネバー・アゲイン』(1983年)

この作品でタイトル楽曲を聴いた時、「何、このサビ?」と思い、クレジットを見た。そしてミシェル・ルグランの名前を見て納得した。
タイトルの「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」のサビのメロディは色々な意味で強力だった。悪く言うと何か人を喰ったようなメロディラインであり、一度聴いたそのメロディが病みつきになる印象を受けた。何故か「やられた~」という想いがした。
私はミシェル・ルグランの違う一面を見たような気がしてとても嬉しくなったことを記憶している。
そしてとても優雅でボサノバでヨーロッパの気品に溢れていた。それはまさにミシェル・ルグランの音楽だったのだ。

■ 推薦アルバム:ミシェル・ルグラン『ルグラン・ジャズ』(1958年)

面子を見ただけで悪いわけがないと断言できるほどのレジェンド達による演奏。マイルス・デイヴィス(Tp)、ビル・エヴァンス(Pf)、ジョン・コルトレーン(Sax)、ポール・チェンバース(B)。これでドラムのジミー・コブとアルトのキャノンボール・アダレイが加われば1958年に録音された名盤「1958マイルス」の面子になる。私が一番好きなマイルス・デイヴィスのバンドだ。
このバンドには7か月程しか在籍しなかったピアニストのビル・エヴァンスが参加している。そしてこのルグラン・ジャズでもビル・エヴァンスがピアノを弾いている。
ミシェル・ルグランはマイルス・バンドを自身のアルバムに使うことでマイルス絶頂期のエネルギーを自身のアルバム『ルグラン・ジャズ』にもパッケージすることに成功した。当時のミシェル・ルグランは若干26歳。アレンジと指揮を担当したミシェルの創作したジャズにミシェルの才気が溢れている。

推薦曲:「ザ・ジターバグ・ワルツ」

冒頭のマイルスによるミュート・トランペットの音を聴いた時にマイルスの名曲「フラン・ダンス」が頭をよぎった。この手のメロディを吹かせるとマイルスは非常に上手い。そして美味い味を出す。そういうことを知っていたのだろうが、イントロなしでマイルスにメロディを吹かせるのはアレンジャーの勝利としか言いようがない。キュートなメロディラインと4ビートを冒頭で交錯させるというアイディアの素晴らしさ。パリのそよ風と嵐という白日夢を見る?聴く想いがした。
端正なマイルスとジャズなマイルスを引き出すのに貢献したのはミシェルのアレンジのなせる技と共に、マイルスの音を鮮やかにしたビル・エヴァンスの絶妙なバッキングによるものと確信する。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ミッシェル・ルグラン、マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、ジョン・コルトレーン、ポール・チェンバースなど
  • アルバム:『華麗なる賭け』『Summer of 42』『ルグラン・ジャズ』
  • 推薦曲:「シェルブールの雨傘」「風のささやき」「Summer of 42」「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」「ザ・ジターバグ・ワルツ」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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