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メーカー、ビルダーのこだわりについて語りたい・第二部【ネモト×Cheenaコラボ記事】

2021-08-20

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

Cheena:前回に引き続きこだわりの話をしていこうと思います。今回はどちらかというと細部に目を向けますね。

〜プロフィール〜

Cheena:楽器本体もエフェクターもシンプルに、というのが第一なのだがシンプルと複雑の境界線がおかしい。 バリトーンスイッチや各ピックアップのキルスイッチ、FRT以外のトレモロは全部シンプルだと思っている。
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ネモト:「機械で分析すれば変わったのはわかるが人間の聴覚で感知できない変化は変化と呼ばない」が音作りのモットーです。 そういうのを沢山組み合わせて誰でもわかるようにするのがプロ、金がない言い訳するなとか言わないでね…。
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Cheena:前回は各メーカーを見ていったわけですが、長すぎるということで最後に私のFホール好きが発動せずに終わったんですね。

ネモト:ではそこから始めましょうか。私も好きだし。

Cheena:さて、セミアコやフルアコ、ピックギターのサウンドホールの意匠であるFホール。
本来はバイオリン族弦楽器の駒の位置を示す、という機能もあったのですがブリッジを固定するセミアコ、ブリッジ位置がボディエンドに寄るベースでは事実上形骸化していますね。フルアコでは必要ですが。
ゆえにこのホール、デザインによりこだわりが明確に表れる場所の一つなのです。
たとえば至って普通のFホールであっても、バインディングのあるギブソン系や穴だけで簡素に済ませるフェンダーシンライン。Ibanezのホロウシリーズではオリジナルより幅を取りポットを導入しやすいように。
BacchusのWoodlineシリーズでは桜や雪のデザインのホール、.strandberg* Salen Deluxeでは花と円形の穴をいくつか設置しています。

ネモト:シールで済ませて実際は穴が空いていないモデルもたまにあります。 ホールの形状だとtuneはイチョウ葉のような形をしていて、アトランシアは鳥形とかバリエーションはかなり多いですねー。オベーションのサウンドホールとか割と複雑な形状をしております。

Cheena:そうだ、Ovation!
あれもThundercatベースと同じくホロウ構造のバックプレート付きとなっていて、わざわざサウンドホールから配線しなくてもいいようになっています。
Ovationらしいというか、合理性が高く見た目に振ることができていいですね。

ネモト:うんうん。ネック細めで弾きやすいし、ゴダンとはまた違ったベクトルで現代化されてる感じがして大変良いと思う。

Cheena:Godinも面白いですよね。GK対応、シンセ搭載、アクティブでボルトオンのエレガット。

ネモト:思い切った現代化がなされていて大変良いと思う。欲しい。ヤマハのサイレントギターもクオリティ高いよね。

Cheena:Yamahaのサイレントシリーズはギターに限らず造形への深いこだわりが見えていいですね。 変な見た目になりがちなサイレントギターやバイオリンの、他とは一線を画す優美さは必見です。

ネモト:2cellosやリー・リトナーも使っているし評価は高い。EUBはヤマハより好きなのあるけど。 ヤマハだととにかく独自のパーツを使うことに強いこだわりが見えるよね。スピーカーにも伝統技法を使ったり。世界一大きい楽器メーカーならではの名は伊達じゃない。

Cheena:改造しづらかったり修理が大変だったりしますけどね。
そういえば、Yamahaのエレアコのプリアンプもかなり独特です。A3以上のモデルではボディの横から直接、背の低いノブが生えているという形。廉価なA1ではいわゆるアコギプリの四角いプレートマウントなんですけどね。 どういう配線になってるんだろう…

ネモト:これはヴァンパイアのキャビティなんだけど

ポットひとつひとつに小さな基板がついているのが見える?こういう風にデザインしてあれば複雑なコントロールを持つアクティブであっても側板にマウントできると思うよ。

Cheena:EMGとかのソルダーレスワイヤリングに近い作りなんですね。確かに行けそうだ。
そうだ、ちょっと脱線するんですがアクセサリー回やピックアップ回で紹介できなかったものを…
このGuitarFetishのKwikplugシステムですね。

https://www.guitarfetish.com/GFS-Guitar-Pickups_c_7.html
フォンジャックをピックアップ裏に搭載し、ケーブルを差し込むだけで配線が完了するソルダーレスワイヤーです。これもある種作業簡略化へのこだわりですね。

ネモト:何これ便利。 ソルダーレスだとスピコン端子とかギロチン(裸線)接続もそうかな。ギロチンはこだわりじゃなくて未熟だっただけだけど。 ケーブルの話が続いたから面白いケーブルの紹介。

http://briseaudio.jp/portable/product/hprecable/mikumariref2.html
Brice AudioのMIKUMARI-Ref.2
ヘッドホン用高級ケーブルで有名なメーカー。
様々な技術が使われているんだけど、1番好きなところは物理的にノイズから信号を守っていること。
具体的にいうとメーカー独自の強力なシールドとカーボンナノチューブによって外来ノイズや振動から芯線や信号を保護している。
欲しいけど高い。現場で使うケーブルの値段を知っているからケーブルに出すのは5万円でも悩むくらい。14万は買えないわ。

Cheena:うっひょー高い。ノイズへの殺意と執念の結晶だ。

ネモト:物理で殴りに行くスタイル、好き。
あとはこだわりというか何があったんだろうか?という感じなんだけど、マイケル・トバイアス。
彼は以前トバイアスというブランドで楽器を作っていた。後にトバイアスはギブソンに売却、mtdを設立するんだけど、トバイアス時代はラミネイトネック+スルーネックで楽器を作っていて、mtdは1ピースネックとボルトオンなんだよね。7弦でも1ピースネックを採用してるメーカーはほぼないなー。 mtdはものすごく使いやすくて良くも悪くも普通の範囲を逸脱しないんだけど、今のシンプルな作りが寄与しているんだろう。

Cheena:こう言ったらなんですけど、見た目も「普通のエレキベース」という方向性ですし、そこらへんのジャズべやプレベより圧倒的に普遍的なエレキベースかもしれない。 ハイエンド使いたいなぁ…

ネモト:値段の割に色々地味だし10代の頃はたとえ金があっても買わなかったんじゃないかな。実際のところリハやライブみたいにポンポン違うのに持ち替えられない状況だったりそもそも1本しか持っていかないならJBPBより使えると思う。バランサーだけで違ったベクトルの使える音を出せるのが1番いいところ。アルダーボディの35インチ6弦が4.3kgと軽めなのも嬉しい。
ハイエンド1本あると勉強になるよ。昔は安ベースでも弄り倒せばハイエンドに負けない!と思っていたけどいざ所有してじっくり比べると越えられない壁はあるとしみじみ思った。

Cheena:ほぼ概念みたいなもんですけど、「安く手に入るハイエンド」って何かありますかね。中高生にも手が出せる程度の、って。

ネモト:うーむ…。難しい。
Mike Lullが真っ先に思い浮かぶ(アメリカ産ハンドメイドブランドでは多分最安値) 非フェンダーシェイプだとBossa、TUNE、Phoenixあたりは安いタマが出てくるかな。 海外ブランドの場合、代理店が変わる際に安値で大量に放出するからこまめにチェックしてみるといい。
例えば今のワーウィックだと新品定価50万程度のマスビルがアウトレットで新品20万以下とかある(これはめっちゃ安い個体で平均だと25万〜くらい)レギュラーラインだけどドイツ製が20万以下でゴロゴロ。
代理店は大量に買って倉庫にしまっておくことがある(イベント展示、販売用として買い込んでおいたのがイベント後もそのまま売れ残っていたりする)数年間しまいっぱなしになったものだから調整、補修が必要なものも出てくる。それを捨て値で楽器屋に売って楽器屋が補修して売る。これに打痕や退色等楽器屋ではどうしようもない瑕疵が加わるととんでもない安値で出てくる、というわけだ。製造から数年経っていても新品だから保証つき。 〜万円以上をハイエンドとするとか予算〜万円とか決めてくれればもっと挙げられると思う。

Cheena:中高生縛りが入りますからねぇ……限界まで捻り出せたとして30万程度でしょう。
となるとやはりWarwickか。それか案外Ibanez BTBあたりも良い部類に入るかしら…

ネモト:30万円なら結構選べるかな(中古を含む) Mike Lull、Benavente、Blast Cult、Black Smoker、Warwick(マスビル)、Fullertone Guitars、Fender CS(TBC)、F-Bass、Phoenix、MAYONES 他にもいっぱいあるけどパッと思い浮かぶのはこんなもんかしら。個人的にこれってハイエンドなの?と思うメーカーもあるんだけど、楽器の商品ページにハイエンドと記載されていればハイエンドとします。 ちなみに私がこの中から選ぶとしたらMike LullかF-Bass。

Cheena:というか30あったらなんだかんだリッケンバッカーも買えるんですよね。ものによればESPとかも。

ネモト:それもそうだね。 2021年8月現在だと圧倒的にWarwick推し。 何故なら新代理店は「嘘だろ…?」と思うほど値上げするとの観測が出ているから。本当にそのレベルで値上げするなら中流家庭の学生が買える値段ではなくなりそうなのよ。私のヴァンパイアがそれくらい値上がりすると仮定したら150万くらいになると思う…。
なので、今は間違いなく買いのタイミング。音が好きなら是非とも探してみて。

Cheena:うひい。本国にオーダーしたり個人輸入の方が良い、となるのも時間の問題か…

ネモト:ところがそうでもない。というのも旧代理店の営業が超有能で本国価格の2割引き程度で売っていたのよ。輸入してるんだから輸送コストがかかるのに。つまり本国価格に合わせるだけでかなりの値上がり。個人輸入するかどうか悩むある意味絶妙な値上げ…。

Cheena:最初からある程度安かったんですね…そりゃ仕方ないというかなんというか。
楽器一本あたりの送料は空輸で1万越え+関税付きとなるので本当に微妙なところですね…

ネモト:とにかく今は買い時なのと海外ブランドは異様な安値で出てくる可能性があるからってことで。
軌道修正しようか…。Warwickのこだわりなんだけど、

トップ材が分厚い(上がWarwickで下がmtd) 一般的にトップ材が音を変えると思われていないけど、ここまで厚いと音変わるんじゃないかな。

Cheena:トップというか2枚組ですね。 薄い材を活用しつつ音質変化と強度が得られるのか…

ネモト:反面オーダーする際はトップ材の音まで考えないといけないかもしれない。見た目のみでトップ材を選べないのはマイナスかも…。

Cheena:突板オプションは無理なんですかね?
バック-トップ-突板、という形で提案すれば(材の消費を抑える意味で採用してるなら)やってくれる気がする。

ネモト:ものすごく融通効くからやってくれると思う。セミオーダーなのにPUやストラップピンの位置みたいな選択肢にないオプションにも対応してくれる。

Cheena:流石ですね。
そういえばWarmothのキットも案外聞けばいけることが多いんですよね。
もちろん割増とか取られることありますけど、選択肢がないネックのリバースヘッドとか加工を減らす方向でのカスタムぐらいなら無料でやってくれる。 あとトップとかバックの選択肢が多い。
便利です。

ネモト:安くていいメーカーだねぇ。逆にあまり細かいオーダーを受け付けてくれないのはフェンダー。マスビルにラージヘッドの'57ストラト作ってくれってお願いしても断られるとか。結構前の話だから今は違うかも。

Cheena:だんだんカスタムオーダーの話になってきましたね。
Fenderは公式の解釈が強いというか、向こうの提示する最適解を使ってくれってイメージなんでしょうか…

ネモト:上手く言えないけど、フェンダーが作ったことがない仕様を作るのは嫌だって感じなのかな。アーティストは別だけど。ギブソン程じゃないけど保守的なイメージがある。Pawn Shopシリーズがリリースされたあたりからは多少はっちゃけてきているとは思うけど。

Cheena:Pawn ShopとParallel Universeあたりは遊びが出てきてる感じですね。Troublemakerなんか、名前も仕様も結構攻めてるし… ただまぁ、古強者故のこだわりと考えればそれもそうなんですけど。

ネモト:ビンテージリイシューはスペックに制限をかける。モダンスペックやオリジナル色の強いものはお好きにどうぞ、みたいにカテゴリを分けているのかもしれないね。 皆様、これは昔の話なので今は受け付けているかもしれませんよ。

Cheena:Mod Shopで遊んでみるのもいいかもしれないですね。
https://www.fender.com/ja-JP/mod-shop.html カスタム幅が広いわけではないけど色々できます。

ネモト:へー、これ面白い。

Cheena:これ系のサービスだとWarwickのシステム、Fujigenのウェブオーダーもあります。
https://www.warwickbass.com/en/Home.html
https://mi.fujigen.co.jp/web_order_system/weborder_about.html

ネモト:そういやWarwickもあったね。オーダー見積もりまで取っておいて忘れていたわ…。

Cheena:Warwickはなんというかサイト自体がシステムみたいになってるんですよね。
案外楽器メーカーのサイトってそれぞれの美学みたいなのが反映されてて面白い。

ネモト:確かにメーカーによって色々ある。
セミ、フル問わずオーダーできるメーカーは特に顕著かな。タイトル通りこだわりが見える。

Cheena:Wish Instruments(Wishbass)とAtlansia、Inyen Vinaの古期インターネット感も凄いですけどね。
ちなみに皆さん、楽器メーカーか否か問わずどこかのサイトの過去の状態を見たいときはWayback Machineなどのオンラインアーカイブを見るといいですよ。
コピーリクエストが出ていればですが、当時のものが確認できます。

ネモト:サイトリニューアルとかディスコンとかで公式ページでも見つけられないのは珍しくないからありがたい。

Cheena:リンク切れなんかも多いですけどないよりマシ、って感じですかね。 ちなみに2000年3月1日のEpiphoneのサイトがこちら。
https://web.archive.org/web/20000301010015/https://www.epiphone.com/

古という感じだ。

ネモト:私が中学生の頃か。確かにこんなレイアウトのサイト多かったなぁ。使っていたPCはWindows98。モノクロームな思い出が蘇る…。
ともあれ、次の話題に移りましょうか。
次は伝説のエンジニア、ルパート・ニーヴの話。
彼がこだわったのはトランス。元々トランスの設計技師だったこともあってか自分で設計したトランスを製品に載せていた。ニーヴやRND(Rupert Neve Design)のサウンドを支える重要なパーツ。
トランスって複数の種類がある(トロイダルトランス、Rコアトランス、EIコアトランス等)適当に巻くとうまくいかないからしっかりしたところのトランス使ってますというのはそれだけでセールスポイントになる(マイダス製トランス採用してますって書いてあるミキサーは多い) 電源ユニットに採用されているコンデンサみたいなイメージ。自作erじゃないとわからない表現かな…。

Cheena:トランス=変圧器です。分かりやすいやつだと電柱の上の方についてるでかい筒がそれですね。
基本的には鉄の塊にコイルを2回路分巻いた形をしていて、2つの巻数の比率が昇圧/降圧の比率になります。
理想的なコイルでは出力電圧も一定、電流の波形にも歪みがないのですが、現実にはそうはいかない。そこに手を入れて理想に近づいたのがルパートというわけですね。

ネモト:そういうことだね。レコーディングコンソールを開発し、アナログ回路を極めた男と言われただけのことはある。
少し脱線を。
ニーヴのミキサーには強い憧れがある。特にロックバンドから支持されていて、実績もすごい。私が大好きなNirvanaの「NEVERMIND(累計4000万枚)」はじめ名盤を大量生産した超名機だ。1073が大量に載っていると考えればすごいよね。1度でいいから使ってみたい。 どうでもいいけどNEVERMINDのレコーディングに使われたニーヴのミキサーはデイブ・グロール(元Nirvanaのドラムで現在はFoo Fighters)が所有してるとのこと。
現在、RNDはミキサーを作っているのだけど

RUPERT NEVE DESIGNS ( ルパート・ニーブ・デザイン ) / 5060 CENTERPIECE (Selford Color) デスクトップ・ミキサー

コンパクトな5060でこのお値段。
フルサイズの5088は400万円〜というなかなかの額。

Cheena:まあプロ用機材の最上級ってなったらそんなものかぁ…って値段ですね。ヴィンテージギターと同じぐらいな。

ネモト:エッセンスだけ味わいたいなら1073あたりを買っておけばいいのかな。ビンテージは楽器としては難ありってものがかなり多いから買おうとしている人は安いトコじゃなくて信用できるトコで買った方がいいですよ。マジで。
さて、大分長くなってしまったのでここらで一旦終いとさせていただきます。
ありがとうございました。もし続きがあったらまたよろしくお願いします!

Cheena:ありがとうございました!

 

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元プロでベーシストのネモトとクラフトマンでベーシストのCheenaによる、楽器への深すぎて自由すぎるこだわりトークをお送りします!
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RUPERT NEVE DESIGNS / 5060  CENTERPIECE (Shelford Color) デスクトップ・ミキサー

RUPERT NEVE DESIGNS

5060 CENTERPIECE (Shelford Color) デスクトップ・ミキサー

¥1,573,000(税込)

デスクトップ・ミキサー

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