この10年でポッドキャスティングが大幅に普及し、飛躍的に進化しました。それは、大量の視聴可能なポッドキャスト、膨大なテーマ、制作技術の向上、ポッドキャスティングによるビジネスの活性化、制作する人々の多様性(特に女性)を見るとよく分かります。Edison Research社の統計によると、ポッドキャストのリスナーは現在、女性が49%にまで増えています。今日のポッドキャスティングで最も影響力があるのは女性です。
先日、ポッドキャスト界をリードする3人の人物を取材しました。
Kathleen Russo氏
Alec Baldwin出演の「Here's the Thing」などのプロデューサーであり、ニューヨークのSouthamptonにあるStony Brook大学のAudio Podcast Fellows Programのディレクター。
Elsie Escobar氏
Academy of Podcasters Hall of Fameに選出され、ポッドキャスト・コミュニティ「She Podcasts」の共同創設者であり、Libsynの公式ポッドキャスト「The Feed」のプロデューサー。
Espree Devora氏
Inc.誌の「Tech分野の女性トップ30」に選ばれ、「Women in Tech」ポッドキャストの制作・司会を担当。
Kathleen Russo

今年で4年目を迎える、Stony Brook大学におけるAudio Podcast Fellowのポッドキャストプログラムを運営しています。コスモポリタン誌で2019年のベストポッドキャストにノミネートされたポッドキャスト「TBD」(Wondery)では、元Vanity Fair/New Yorker編集長のTina Brownとともにエグゼクティブプロデューサーを務めました。Kathleenは、Alec Baldwinが出演する「Here's the Thing」をiHeartRadio局で制作するとともに、同じくiHeart Radio局を通じて、ヒラリー・クリントンがホストを務める「You and Me Both」という新しいポッドキャストに着手しています。また、「The Moth」、「This American Life」、「StoryCorps」にも寄稿しているほか、スティーブン・ソダーバーグ監督の映画(「Gray's Anatomy」、「And Everything Is Going Fine」)の共同プロデュースや、Obie賞を受賞した舞台「Spalding Gray: Stories Left To Tell」のプロデュースも手がけています。
ポッドキャスティングの状況はどのように変化していますか?
私がAlecと一緒にポッドキャストやラジオ番組「Here's the Thing」の制作を始めた10年前は、ポッドキャストは100種類程度しかありませんでした。今では300万以上のポッドキャストがあります。パンデミック後に起きた最大の変化は、高度に作られたポッドキャストである必要がなくなったことです。家で簡単に録音できるようになりましたし、内容が良ければリスナーも細かいことは気にしません。また、多様なトピックを聞くことができるようになりました、これはとても嬉しいことです。
特に女性にとって、ポッドキャスティングはどのように変わりましたか?
最近のポッドキャスト「Call Her Daddy」のような数百万ドル規模の契約については、正当な報酬が支払われています。さらに、女性がホストを務め、女性のために取り上げられるテーマは、今の私たちにとって大きな分野であり、他の分野と対等の存在だと考えています。ポッドキャスティングに携わるすべての人にとって、ビジネス面での最大の変化は、テレビ、映画、演劇、書籍などの大きなプロジェクトを立ち上げるためにポッドキャストが利用されるようになったことだと考えています。ポッドキャストはテレビの先行製作版(パイロット版)よりもはるかに低コストで制作できるので、より大きくプロジェクトを成長させられるのです。ポッドキャスト発祥で大きなプロジェクトが生まれるのは、とてもエキサイティングなことです。
ポッドキャスティングのためのツールキットはどのようなものですか?
私は技術者でもないし、テクノロジーにも疎いのですが、Samsonは私が使用してもプロ品質のレコーディングをとても簡単に実現してくれます。私が使っているのは、SamsonのQ9Uダイナミック・ブロードキャスト・マイクロホンです。コンピューターに接続するだけで、すぐに録音を始めることができます。この使い勝手の良さには本当に感謝しています。
Elsie Escobar

15年間ポッドキャスターとして活躍してきたElsieは、独立系のポッドキャストではヨガを教えた最初の女性の一人で、「Elsie's Yoga Class」はこれまでに400万回以上ダウンロードされています。2007年には、ポッドキャストのホストおよび配信プラットフォームであるLivesynに参加しました。Livesynを通じて、何百人もの独立系ポッドキャスターと仕事をし、より良い制作のためのツールを共有し、ポッドキャスティングの急速な進化を伝え、ポッドキャスターの教育にも貢献しています。また、"ポッドキャスティングを維持する "ことを目的としたThe Feedのプロデュースと共同ホストも務めています。
この10年でポッドキャスティングはどのように進化してきたと思いますか?
私にとっての最大の変化は、「典型的な」ポッドキャスターが大幅に多様化したことです。2006年当時、ポッドキャスターの大半は、30代半ばから後半の男性、白人で、技術もある熟練の人たちでした。2014年9月、iOS 8がリリースされ、Apple PodcastsアプリがOSのネイティブアプリとして追加されました。これがきっかけとなり、ポッドキャスティングが大きく成長しました。そして2014年10月、「Serial」ポッドキャストがスタートしました。このポッドキャストは、優れたポッドキャスターとリスナーをスムーズに繋げました。これは画期的なことで、これまでポッドキャストに触れたことのなかった新しいリスナーを獲得することができました。その結果、より多くのリスナーがポッドキャスターになるきっかけとなったのです。
ここ数年、50歳以上の人々がポッドキャスティングに参加するようになり、起業家も増えました。Joe RoganやMarc Maronのような有名人の成功を受けて、ポッドキャスティングのコメディー/モノローグ/インタビューのジャンルが急成長しました。Podcast Movement、She Podcasts、Entrepreneurs on Fireなど、多くの重要なポッドキャスティング・コミュニティが5、6年前に誕生しました。独立系ポッドキャストの大物インフルエンサー、有名な従来の放送メディア・パーソナリティ、そして脚光を浴たクリエーターたちに、Appleのポッドキャスト・ネイティブ・アプリが加わり、ポッドキャストに才能の多様化の波が押し寄せています。これまで十分な発言ができなかった人々による、創造的で示唆に富むコンテンツが爆発的に増えています。新興勢力だけでなく、賢く、熟練した、不屈の先駆者たちも、彼らがいなかったら実現しなかったであろう方法で、メディアを成長させている、と私は考えています。
私の感覚では、新しいポッドキャスターをゆっくりと育てるコミュニティと、ソーシャルメディア(ツール、技術、アルゴリズム)の出現が相まって、ポッドキャストのコンテンツだけでなく、この分野の隆盛をもたらしたと考えます。
ポッドキャスティングにおける女性の活躍の場はどのように広がっていますか?
ポッドキャスターの人口統計に関するデータはありませんが、女性のポッドキャスターがクリエイター全体の半数に近づいているように思います。私が2014年に共同作成したコミュニティと組織の中では、現在、Facebookグループのメンバーが2万人を超えています。2017年には7,000人だったのが、2021年6月には2万人の大台に乗りました。She Podcasts Facebookグループのユニークな点は、ポッドキャストを持っている、あるいはポッドキャストを始めようとしている女性やXジェンダーのグループだということです。企業や組織、サービスプロバイダー、さらにはジャーナリストではなく、ポッドキャストを作成している人たちにサービスを提供することを優先しています。2018年、スポティファイは「Sound Up Boot Camp」を立ち上げました。その目的は、ポッドキャストの世界により多くの多様な声、特に有色人種の女性を取り込むことにあります。最初の募集では、わずか10のスポットに対して18,000件もの応募がありました。
昔からあまり変わっていないのは、従来からのメディアや有名人に焦点を当てた大規模な組織によるメディア報道です。また、ポッドキャスト業界の大企業や団体の役員や幹部の構成が、あまり多様化してないこと。そして、主要なポッドキャスティング・アプリやディレクトリで、大きな広告を出したり、注目を集めたりするのは、たいてい有名人や有名なプロデューサーに限られていることです。しかし、本当に変化してきたのは、様々なニュースレターや草の根運動によって、素晴らしい独立系ポッドキャストが前面に出てきたことです。また、リスナーがコンテンツを見つけたり、プロデューサーと繋がりやすくするWebサイトやアプリも登場しています。
今後、数年先を見据えて、ポッドキャスティングのビジネスをどのように考えていますか?
ポッドキャスティングに携わる"個人"や、リスナーのために話をしたり、アドバイスをしたりするのが好きです。以前、東部のメディア企業の資金力と横暴ぶりに腹を立てていました。しかし、これらは上位10パーセントにのみに影響を与えるものであり、残りの90パーセントにはあまり関係がないということをすぐに理解しました。ここで言うポッドキャスティングに携わる"個人"とは、ホストだけでなく、プロダクションやオーディオの専門家、マネージャー、コンサルタント、広告チームなどすべての人を意味します。これらのプロフェッショナルは、繁栄し続ける市場にサービスを提供するため、活気に満ちたインフラを作り続けるでしょう。コミュニティや様々な業界の中のニッチな分野にサービスを提供するために、確かな経済を発展させていきます。
エンターテインメント業界やラジオ、公共メディアは、新しいやり方を再構築しようと努力していますが、権力構造や文化を作り直すのは難しいでしょう。しかし、ポッドキャスティングは、"個人"が自分の家で自分のやり方で行い、成長してきました。私たちの中には、独学で学んだ"何でも屋"タイプの人間がたくさんいて、10年以上の経験を持ち、既存の放送機関の方法や権力構造にとらわれずに、しっかりとした技術を持った作品を作ることができます。私たちは、まずポッドキャストの制作者である新世代のクリエイターを教育し、指導し、サポートします。進化し続けるポッドキャスティングの魂と精神は、これまでと変わりません。
ポッドキャスティングで重要な技術は何ですか?
私は6年間Samsonの機材を使ってきましたが、Samson製品に対する私の信頼は相当強いものがあります。私のお気に入りのマイクのひとつSamson Q2Uを長い間酷使してきました。恵まれないオーディオ環境で録音することが多く、そのマイクを持ち歩き、デジタルレコーダー、コンピューター、iPhone、iPadに録音してきましたが、このマイクが私を失望させたことはありません。
Samsonにはより洗練されたマイクがあることは知っていますが、このマイクは、状況に関わらず録音できる自由を与えてくれて、しかも素晴らしい音質です。理想的な録音場所やセッティングを準備することは現実的でなく、より洗練されたマイクへの投資は私の環境には合いませんでした。新しいポッドキャスターの大半は、高価なハイエンドのハードウェアへの投資は困難です。私にとってSamson Q2Uは、最小限のコストでオーディオ性能をアップする最初のステップであり、将来的なステップアップの入り口となるでしょう。 新しいポッドキャスターにとっては、優秀なハードウェアを理解し、将来的なハードウェアへの投資の意義を知ることができるでしょう。
Espree Devora

Espree氏のポッドキャスト「Women in Tech」は、タイトルが示すように、技術分野の女性たちが感動的なストーリーを共有する場であり、その目的は、「彼女にできるなら私にもできる」という気持ちをリスナーから引き出すことにあると彼女は言います。また、彼女はロサンゼルス内に広く点在するスタートアップ企業から構成されるエコシステムの統合を目的としたポッドキャスト「WeAreLATech startups」の制作者でもあります。また、ソーシャル・オーディオ・アプリ「Clubhouse」の顔としても活躍し、スタートアップを扱うテクノロジー・ニュースにも寄稿しています。
ポッドキャスティングの進化については、どのようにお考えですか?
私が「WeAreLATech」ポッドキャストを始めた2013年、多くの人はまだポッドキャストが何であるかさえ知りませんでした。私でさえ、ポッドキャストをほとんど理解していませんでした... Startup Podcastが初めて放送された2014年、Alex Blumbergは、自分のポッドキャスト・ネットワークに投資する価値があることを投資家に信じてもらうために苦労していました。その後、年を追うごとに、Googleやその他のプラットフォームがポッドキャストを聴くためのアプリを開発し始めました。それまでは、ポッドキャストを聴くには、iPhoneでなければ簡単にはできませんでした。アップル社でさえ、iPhoneにはまだポッドキャストアプリがデフォルトで入っておらず、インストールしなければなりませんでした。しかし、ポッドキャスティングが普及し、自動車のオーディオシステムにポッドキャスティングが組み込まれるようになると、状況は一変します。ポッドキャスティングは、技術やオーディオのマニアだけしか理解できないものから、数年前のブログやウェブサイトのように、あらゆる人や企業がポッドキャストを持たなければならないと感じるようになりました。ポッドキャスティングが文化的に拡大したことにより、あらゆる民族、文化、地域の視点から多くのストーリーが語られるようになり、さまざまなトピックが取り上げられ、世界的な影響力がより一層高まっています。
ポッドキャストを始めたばかりの女性にアドバイスをお願いします。
私は2014年に「Women in Tech」ポッドキャストの制作を開始しましたが、その頃、ポッドキャスティングをしている女性にとって最も価値のあるリソース、Facebookグループ「She Podcasts」が誕生しました。このグループでは、ポッドキャスティングで活躍する女性たちを、人気のあるコンテンツ・クリエーターになるためにナビゲートしてくれます。必要とする技術的、マーケティング的なサポートはすべてこのグループに用意され、必要なだけ質問することができます。そして、コミュニティ全体が私を応援してくれます。このように、視聴者から直接報酬を得る"クリエイター・エコノミー "に足を踏み入れるには素晴らしい時代であり、映像や音声メディアを通してインパクトを与える情報の収集、編集、公開に参加する女性が世界中で増えていくのはとても喜ばしいことです。ポッドキャスティング業界の求人情報は、Rachael King氏が設立したPod Peopleというサイトが参考になります。彼女はポッドキャスティング・コミュニティに仕事の機会を提供していて、利用にはお金がかかりません。
ビジネスの状況、ツール、到達点など、今後10年間でポッドキャスティングはどのように進化していくと考えていますか。
ポッドキャスターであることを定義しようとすると、まだ少し混乱してしまいます。業界としては、自分たちのアイデンティティがまだ定まっていません。Clubhouseなどの音声SNS(ソーシャルオーディオ)が台頭してきているので、それをポッドキャスティングと考える人もいます。YouTubeはメディアの巨人なので、「ビデオポッドキャスト」を作る人もいますが、私はそのようなビデオクリエーターをYouTuberと呼びます。その他、私のような人は、より伝統的なオーディオ寄りのクリエイターであり、ポッドキャストのポストプロダクションに多くの時間を費やし、Apple、Spotify、Google Podcasts、Amazon Podcastsといった標準的なオーディオプラットフォームを使用してポッドキャストを配信しています。ポッドキャストへの広告掲載は急増しています。ポッドキャストの買収は状況を大きく変えています。最近では、「Call Her Daddy」がスポティファイと6,000万ドルで契約しました。そのクリエイターのアレクサンドラ・クーパーは2018年にポッドキャストを始めたばかりです。まだ無一文で、多くのルームメイトと一緒にニューヨークに住んでいました。この様にポッドキャスティングと、そしてそこに投資されるお金は、今後も増加していくでしょう。例えば、新しいポッドキャスティングプラットフォーム「Racket」は、数百万ドルの投資資金を調達したばかりです。ポッドキャスティングは親しみやすいメディアであり、リスナーはポッドキャストのホストと深く有意義な関係を築くことができ、それ自体が大きな力を持っています。
ポッドキャスティングのために使っているツールを教えてください。
Samson G-Track Proというマイクを使っていて、USBでコンピューターに直接接続します。インタビューの際にプロフェッショナルな印象を与えてくれますし、使い方も簡単で、透明感のある高品質な音声を得ることができるので、とても気に入っています。必要に応じて、設定を調整することができます。ポッドキャスターが使用する機材は、どのブランドを信用しているか、優れたポッドキャストを作成するためにどの機材が最適か、を表しています。