オーディオインターフェイスやUSBマイクの仕様書を見ると、ダイレクト・モニタリングという言葉をよく目にします。ダイレクト・モニタリングとはどのような機能なのでしょうか。
タイムディレイ
ダイレクトモニタリングが解決するのは、オーディオがアナログからデジタルへと行き来する際に発生する時間的な遅れ、つまりレイテンシーです。
人間の耳はとても敏感です。環境によっては、1ms(1ミリ秒、1,000分の1秒)以下の時間の遅れを感知することができます。
当たり前のことですが、音は音速で伝わります。つまり、1msあたり0.3メートルの速さです。アコースティック(生音の)楽器を演奏しているときは、耳までの距離が非常に短いため、すぐに音が聞こえてきます。しかし、その距離が長くなるとどうなるでしょうか。
あなたがバンドのギタリストで、そこそこの大きさのステージに立っていて、部屋にはマイクもミキサーもないとします。バンドのメンバー3人がそれぞれ6メートル(20ミリ秒)離れていれば、時間の遅れはすべて同じになると思いますよね?しかし、そうではありません。
ギタリストはステージの片側にいて、1.5メートルほど離れたところにギターアンプを置いています。ベーシストはステージの反対側、ギタリストから6メートルほど離れたところにいて、さらに1.5メートルほど離れたところにベースアンプを置いています。

まず、ギターの音はギターアンプから出ています。ベーシストも同じです。ギタリストとギターアンプ、ギタリストとベースアンプなど、他のすべての距離はそれぞれ異なっています。さらに重要なことは、バンドメンバーはあなたが数ミリ秒前に演奏した音に反応し、あなたは他のメンバーが数ミリ秒前に演奏した音に反応しているということです。これにより、大きなステージでは、演奏のタイミングが崩れてしまいます。
電気の力を借りる
そこで活躍するのが、マイクとミキサーです。電気信号は光速で動くため、時間的な遅れは無視できるほどです。そのため、心地良い演奏を実現することができます。
上記バンドのセットアップは変えずに、すべての音源にマイクがついていて、すべての信号がミキサーに送られ、エンジニアがすべてのミュージシャンにモニターミックスを送り返している状態を想像してみてください。
マイクがドラムやアンプの近くにあり、信号が光速でミキサーとの間を行き来するため、すべての楽器がどんなに離れていても同時に聴こえ、同時にミックスされ、演奏された瞬間にミュージシャンに送り返されます。

Samson RSXM10AやRSXM12Aのようなステージモニターが近くにあれば、時間の遅れを最小限に抑えられ、全員が同時に演奏することができます。つまり、マイクとミキサーとモニターは、音響の法則に沿った「近道」をオーディオに与えるのです。
この状況では、時間的な遅れは極めてわずかなものであり、タイミングや演奏に影響を与えないものになります。これを「ニアゼロ」または「ゼロレイテンシー」と呼んでいます。
レイテンシーの発生
ご存知のように、デジタルレコーディングのプロセスには、アナログ・デジタル・コンバーター(ADCまたは単にA/D)とデジタル・アナログ・コンバーター(DACまたはD/A)が必要です。これらのコンバーターは、オーディオをサンプリングし、コンピューターが処理できるようにデジタルデータに変換、処理したオーディオデータをユーザーが聴けるようにアナログ信号に戻します。D/AおよびA/D変換によってわずかな遅延が発生しますが、これは最初のステップに過ぎません。
ソフトウェアが途切れることなく安定した流れでオーディオを受信できるようにするために、オーディオは入力バッファーを通過します。非力なバッファーは結果的にコンピューターを酷使し、音のドロップアウト、クリック、ポップなどのリスクが高くなります。一方、強力なバッファーは信頼性が高いですが、より多くのレイテンシーが発生します。
最も一般的なオーディオプログラムは、デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)です。DAWは、コンピューターの中にあるレコーディングスタジオと考えることができます。オーディオトラックを録音し、プラグインと呼ばれるエフェクトで処理し、編集して、完成した曲にミックスすることができます。DAWには、さまざまな種類が存在します。高価なものもあれば、AudacityやGarageBandのように無料で使えるものもあります。
DAW内で行われるオーディオ操作(録音、ミキシング、編集、エフェクトの追加など)には、それぞれ異なるレイテンシーが発生します。これらの違いによって同期が取れなくなったオーディオチャンネルには、速いものを遅いものに合わせて遅延させ、より長いレイテンシーを加えて元に戻します。その後、オーディオはDACに戻され、出力バッファーによってスムーズな動作が保たれますが、これにさらに長いレイテンシーが発生します。
ギターの弦を弾いた瞬間から、コンピューターで処理された信号を聞くまでに、はっきりと分かるタイムディレイが発生します。この時間的な遅れは、あなたの演奏を狂わせるのに十分すぎるほどであり、あなたの演奏をぎこちないものにしてしまうでしょう。

ダイレクトモニタリング:電気の力を借りて(再び)
これには電気的な解決方法があります。それは、ダイレクトモニタリングです。前述したように、遅れた信号に合わせて演奏するのは難しいものです。しかし、もし無加工のドライ信号があったらどうでしょう?
この回路は、入力された信号を取り込み、A/Dコンバーターに到達する前に即座に信号を返し、再び出力してあなたの耳に届けます。ミキサーやステージモニターが音響的なタイムディレイを回避するのと同じように、このダイレクトモニタリング回路により、デジタルによるレイテンシーを回避することができます。
ダイレクトシグナルは未処理のドライな状態です。自分の声にリバーブやコーラスをかけて聴きたいボーカリストや、デジタルのオーバードライブやエコーなどを使わないといけないギタリストにとっては、あまり魅力的ではありません。しかし、ダイレクトモニタリングにはもう一つの仕掛けがあります。それは、クリーンなダイレクトサウンドとコンピューターから戻ってくる処理済みのサウンドをミックスしてヘッドフォンに供給できます。

例えば、Samson G-Track Proの楽器入力でギターを弾くと、各音のクリーンなアタックがすぐに聞こえ、短いディレイの後に完全に処理された音が聞こえます。アタック音はテンポを維持するのに役立ち、処理されたサウンドもすぐに追随してきます。
Samson Q9U XLR/USB Broadcast Dynamic Microphoneのように、USBマイクの中には、ヘッドフォン出力にダイレクト信号とコンピューターの信号が常にミックスされているものもあれば、G-Track ProやSatelliteのように、コンピューターの音声を単独で聴きたい場合に備えて、ダイレクト信号をオフにできるモニタースイッチを備えているものもあります。
DAWから戻ってくる信号の量を調整して、ダイレクトシグナルとのバランスを取って演奏したいと思うかもしれません。ダイレクトシグナルが少なくて済むこともありますし、100%(未処理な)ドライ・サウンドの方がいいと思うこともあるでしょう。そこは自分の感性に従ってください。
話し言葉、ボーカル、楽器など、どのような録音でも、ダイレクト・モニタリングはあなたの最高のパフォーマンスを助けてくれます。良いレコーディングにある唯一の近道は、ダイレクト・モニタリングです。
この記事はSAMSONによるImprove Your Performances With Direct Monitoringの翻訳です。