SONYのヘッドホン・イヤホンと言えば1990年代はMDR-CD900ST、2000年代はMDR-EX90と時代毎に伝説的な名機を輩出してきた。
私はフラットな音響特性とコストパフォーマンスにSONYの魂を感じるが、では2010年代の代表機種は何かと問われると難題だ。
例えるなら今のSONYヘッドホンは大艦隊の様相で、間違いなく旗艦は「MDR-Z1R」と言えるが、
実戦を踏まえて改修され続けているのはMDR-1シリーズ、
最前線に立っているのはh.earシリーズ、
「とにかく低音重視」という最近の流行に応えたXBAシリーズとEXTRA BASS。
このように時代を作った1機種、というモデルは無い。
2010年代は特定の大ヒット機種ではなく、SONYなら必ず個人の好みに応え得る、ラインナップこそが魅力と言える。
強いて10年代がSONYヘッドホンにとって何であったかを語るなら、それは「ワイヤレス(Bluetooth)」と「ノイズキャンセリング」の完成だろう。

■Bluetooth、ノイズキャンセリング対応 ヘッドホン・イヤホン
メーカーを問わずBluetooth、ノイズキャンセリングに対応したヘッドホン・イヤホンは2000年代半ばから普及し始めた。しかし音声コーデックに由来する低音質やバッテリーの持続時間など、音楽をストレス無く高品質に楽しむハイエンドモデルとして選択肢に入るかと言えば、難しいところがあった。
2010年代に入るとBluetooth規格が大きくバージョンアップ。ケーブルレスの装着性と持ち運び性能、そして音質を両立した機種が各メーカーから出揃う。
そんな中、2016年に登場したMDR-1000Xは衝撃的だった。
新技術はそれほど搭載されていないモデルだが、集大成とも言える「SONY技術の全部入り」はシンプルながら驚異的だった。 MDR-1BTで採用されたハイレゾ相当のBluetooth接続。かつてのノイズキャンセリング機能とは一線を画す消音性能。ノイズキャンセリング機能特有の耳を突くような高周波の抑制。ノイズキャンセリングとは逆に外音を取り込むアンビエントサウンド機能。これらの機能をフルに詰め込んだ上で20時間のバッテリー性能を実現。話題になるのも頷ける、決定版の登場だった。
そんなMDR-1000Xの特徴をそのままに、技術を1世代進化させた後継機・WH-1000XM2は2018年現時点でのワイヤレスヘッドホンの最高の選択肢の一つだろう。
音質はSONYらしく原点に立ち返ったフラットな特性・・・と思いきやフラットなのはMDR-1000Xの方で、WH-1000XM2は低音を持ち上げてより音楽を楽しめるように仕上げている。
もっともWH-1000XM2はスマホ用アプリのイコライザーによりユーザーの好みによって色を変えるヘッドホンだ。

より低音を盛ってもいいし、高音を伸ばしてもいい。フラットに近づけてもいい。プリセットによって気分で変えてもいい。WH-1000XM2はユーザーが思うままに好みのヘッドホンに仕上げることができる。
「SONYなら必ず個人の好みに応え得る」―――WH-1000XM2は2010年代のSONYヘッドホンを象徴するモデルの一つだろう。
