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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その279 ~プロ、アマチュア皆大好き楽曲「The Chicken」の魅力を探る パートⅠ~

2025-12-16

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

先日の日本を代表するアレンジャー村田陽一さんの音楽を聞いて

先日、静岡市出身の日本を代表する作曲家であり、アレンジャーであり、プロデューサーの村田陽一さん率いるビッグ・バンドを聴きに行きました。 日本を代表するアレンジャーが集めたビッグ・バンドの面子もまた、日本を代表するミュージシャン達でした。 ドラムは渡嘉敷祐一さん、ベースは納浩一さん、キーボードは松本圭司さん、パーカッションは八尋知洋さんなど、鬼のようなメンバーが集まっていました。

デューク・エリントンの楽曲以外は全て村田陽一さんのオリジナルでした。ブラジル音楽やファンクに傾倒する音楽家の作り出す音は端正であり、ある種の優雅さも感じました。渡辺貞夫さんが信頼するミュージシャンの矜持を感じたライブでした。 そのライブでアンコールとして演奏されたのが『The Chicken』でした。凄腕メンバーが集まるビッグ・バンドの『The Chicken』は強力でした。 『The Chicken』は村田さんのソロアルバム『フック・アップ』のトラックにインタールード的にも収められ、ランディ・ブレッカーと共演したアルバムでも演奏されていることから、かなりのフェイバリット曲であることが想像できました。

「The Chicken」といえば・・・あの「The Chicken」

ウェザー・リポートの名盤『ヘヴィー・ウェザー』で大ブレイクしたベーシストで、誰もが敬愛してやまないジャコ・パストリアスが、自身のオーケストラで演奏した「あれ」です。 一度聴いたら忘れることのできないイントロのベースライン。Aメロのブラススタブ的なキメからつながる印象的なメロディー、そして最後のキメ。一度聴いたら誰をも虜にするあのメロディーとフレーズが1つの圧倒的な塊となって存在し、完結している無敵の楽曲です。 様々なセッションでも『The Chicken』は取り上げられることが多く、皆さんが大好きな定番曲といえます。あの短い楽曲の中に音楽人が好む要素が余すことなくパッケージされたのが『The Chicken』なのではないでしょうか。

■ 推薦アルバム:ジャコ・パストリアス『Truth, Liberty & Soul - Live In NY』(2015年)

1982年、ニューヨークのクール・ジャズ・フェスティヴァルでのライブ盤。元々は番組用に収録された放送ソースの一部が海賊盤として出回っていたものをCD化したという、いわく付きのライブ盤。内容が素晴らしかったため、多くのジャコファン、ジャズファンに知られることになった。 特筆すべきは何といっても演奏のクオリティだ。 オリジナル音源が24チャンネルマルチで録音されていたため、スタジオ録音盤に匹敵する音質であり、ジャコの超絶技巧は勿論のこと、ビッグ・バンドのゴージャスな響きも堪能できる。この演奏を聴くとプロデューサー、アレンジャーとしてのジャコの才能にも気付かされる。

ウェザー・リポートの朋友ピーター・アースキンをはじめとする、ランディ・ブレッカー、ボブ・ミンツァー、ドン・アライアスといったメンバーを中心にジャズ界のスター・プレイヤーを招聘。そこにオセロ・モリノーのカリビアンなスティール・ドラムの音や、通常は呼ぶことがないチューバやフレンチ・ホルンといった管楽器プレイヤーもフィーチャーする。更にハーモニカの天才、トゥーツ・シールマンスも花を添え、ジャコ・パストリアスのプロデュース力が垣間見える稀有なアルバムとなった。 演奏された楽曲も『The Chicken』をはじめ、『ドナ・リー』、『スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット』、『リバティ・シティ』、『ソフィスティケイテッド・レディ』、『ジャイアント・ステップス』、『アイ・ショット・ザ・シェリフ』、『パープル・ヘイズ』など、バラエティー豊かだ。この選曲からもジャンルに線を引かないニュートラルな音楽志向が見て取れる。

推薦曲:「The Chicken」

このライブ盤で『The Chicken』が多くの音楽ファンに認知されることになった。 グルーヴしまくるフレーズがまさにジャコ・パストリアスだ。このベースラインが後の『The Chicken』のスタンダードになる。 ランディ・ブレッカーのトランペットにかけるシンセサイザーエフェクトも様になっているし、オセロ・モリノーのスティール・ドラムも効いている。当然、ジャコのベースがリズムの屋台骨を支えているし、ウェザー・リポートの一番いい時代を担った盟友、ピーター・アースキンのドラムプレイも素晴らしい。この2人のリズムセクションにより『The Chicken』の素(もと)が作り出されたといっても過言ではない。

■ 推薦アルバム:ジェームス・ブラウン『THE POPCORN』(1969年)

1969年リリースのファンキー帝王、ジェームス・ブラウンの名作アルバム。キラー・ファンクの名曲『The Popcorn』と『In The Middle』も収録。全編インストでファンキーな楽曲が押し寄せる。『The Chicken』はシングルカットされた楽曲のB面に収録されたものだ。

推薦曲:「The Chicken」

『The Chicken』はジェームス・ブラウン・バンドのサックス奏者、アルフレッド・エリス(ピー・ウィー・エリス)のペンによるもの。 ブラスの短いイントロがあり、ドラムフィルの後にあのメロディーが登場する。この短いブラスのイントロ、ジャコが味付けをしてオーバーチュア的なオープニングに仕立てあげる下地となったのは想像に難くない。 ジャコが演奏するあのベースのイントロはオリジナルには存在しない。 冒頭の短いブラスからのドラムフィルに至るまで、別の楽曲だ。というかジャコのあのベースのイメージが強いので何とも「?」な気持ちになる。 一方、ジェームス・ブラウン版『The Chicken』の根幹を担うのはグルーヴィーなギターのバッキングだ。オリジナルの『The Chicken』はジャコのそれとは全く別物であることが分かる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジャコ・パストリアス、ピーター・アースキン、ランディ・ブレッカー、ボブ・ミンツァー、オセロ・モリノー、ジェームス・ブラウン など
  • アルバム:『Truth, Liberty & Soul - Live In NY』、『THE POPCORN』
  • 推薦曲:「The Chicken」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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