■ コルグの財産の一角、バーチャル・トーンホイールオルガンCX-3
コルグのワークステイションシンセサイザー、ノーチラスの探求リポートPartⅢです。
前回 はノーチラスの俯瞰状況と操作における簡単な入口、CX-3のオルガンエンジンのさわりなどをご紹介しました。
今回はノーチラスの9つあるサウンドエンジンの主軸でもあるバーチャルオルガン、CX-3をメインにご紹介します。
KORG ( コルグ ) / ノーチラス NAUTILUS-61
CX-3はコルグが1980年にリリースしたオルガン専用機で、ハモンドオルガンのトーンホイールサウンドを独自の技術で再現した名機として知られています。

KORG CX-3(1980,front), CC BY 2.0 (Wikipediaより引用)
CXシリーズは息の長さでも他社に類を見ない存在でした。
そんなCX- 3のサウンドエンジンがノーチラスには搭載され、更に磨をかけたスペックが提示されています。
CX- 3はハモンドオルガンをシミュレートしたバーチャルオルガンです。
CX-3は、ハモンドオルガン特有のノイズまで忠実にモデリングした「Vintage」バージョンと、ノイズを排した「Clean」バージョンの2種類の音色を持っています。
さらに、ハモンドオルガンが音を出す場合、内部に回転するホーン(スピーカー)がある「レスリー・スピーカー」を使うのが王道です。CX-3はホーンが回転することでレスリーが常に発しているノイズまでも忠実にモデリングしています。
また、ハモンドの音作りの中心となるドローバーやパーカッションに、新たにEXというドローバーやパーカッションが加わり、これまでに存在しなかったハモンドオルガンの新しいサウンドを生み出すことも可能です。
その他にも、オルガントーンの設定カテゴリーは数多くありますが、今回のリポートは「Vintage」音と「Clean」音の2種類のサウンドと、ハモンドには欠かせないレスリー・スピーカー回りのパラメーターを中心に話を進めていこうと思います。
■「Vintage」と「Clean」の音の違いは…
「Vintage」
ハモンドの中でもヴィンテージ・オルガンと言われる特有のサウンドです。ハモンドの音は発音装置であるトーンホイール(金属の円盤)が回転することでサイン波を発生させ、ピックアップでその音を増幅します。
ピックアップはサイン波だけでなくトーンホイールの回転音(ノイズ)も拾います。
また、オルガン内部で漏れる回転音をリーケージ・ノイズと言いますが、このリーケージ・ノイズ音がハモンドオルガンの特徴といっても過言ではありません。そういう意味ではリーケージ・ノイズ音は「ハモンドらしさ」の象徴と言えるでしょう。
ノーチラスはこのリーケージ・ノイズ音のレベルもコントロールすることができます。
下の画面がCX-3のVintageが選択されているディスプレイです。文字が小さいので分かりにくいですが、左側の項目、ToneのWheel Type(ホイールタイプ)にVintageとCleanを選択するカテゴリーがあり、黄色くVintageが選択されています(画面2参照)。

【画面1】ノーチラスのオルガン音色設定のディスプレイ

【画面2】上記ディスプレイのアップサイズ
Toneの上から4番目、リーケージ・レベル(Leakage Level)が30になっているのが確認できます。このリーケージ・レベルというのが、トーンホイールの回転から発生するリーケージ・ノイズレベルを設定するパラメーターです。このパラメーターの最大レベルは99です。
このレベルを最大にした場合はオルガントーンの高音部がクリップしたような音になります。表現は難しいのですが、オルガントーンの高音部にシャーシャー、キーキーといった電気的な音(ノイズ)が乗っているのを感じます。録音レベルが高い時に音が歪む…あんな感じです。99というレベルは極端ですがレベルを0にすると、この音(ノイズ)は無くなります。
どのレベルが適正かと言えば、このオルガントーンのデフォルトが30ですから、演奏家は自分の好みに合わせてそのレベルを決めればいいと思います。
演奏する音楽ジャンルによって変えるのもいいかもしれません。ハードロックを演奏する場合はこのリーケージ・ノイズを高めに設定すればいいですし、ボサノバを演奏する場合は低めにすればそれに近い感じが出るでしょう。
とはいえ、リーケージ・ノイズがオルガントーン設定の全てではないのでバランスを見て…ということになると思います。
私はどうかと言えばリーケージ・ノイズが少し多めの60以上が好みです。このリーケージ・ノイズはハモンドオルガンのイメージと直結する音のファクターなのでノーチラスでオルガントーンを弾く場合は是非、確認してほしいと思います。
「Clean」
トーンの設定をCleanにすると、これはこれで綺麗なオルガントーンになります。ハモンド特有のノイズ感はありません。でも音的には間違いなくハモンドオルガンです。しかし、あの独特なハモンドオルガンの音が好きな方は少し物足りない感じがするかもしれません。
■ レスリー・スピーカーの設定
次にレスリー・スピーカーの設定です。マニュアルではロータリー・スピーカーと表記されています。
オルガンサウンドを出すためにどうしても必要なのがレスリー・スピーカーです。ノーチラスではこのレスリー・スピーカーの設定も可能です。
まず音色画面からオルガン音色を選択し、画面3、左上のMODEボタンを押します。

【画面3】クイックアクセスボタン MODEボタンは左上
その後、モードセレクト(画面4)から中央上のプログラムをタップし、画面上のレスリー・スピーカーをタップすると画面5が現れます。この画面から2つのレスリー・スピーカーの選択をします。

【画面4】モードセレクト
レスリー選択はクラッシックCX-3(Classic CX-3)かカスタム(Custom)の2種

【画面5】レスリー・スピーカー選択画面

【画面6】レスリー・スピーカー選択画面
画面5、6の左側にあるレスリー・スピーカーの画像にはClassicCX-3とCustomがあり、それぞれ音が異なります。
Custom はレスリー・スピーカーの裏側の画像であり(画像5)、ClassicCX-3はレスリー表側の画像で表記されています。レスリー表側の画像はまるで箪笥のようです。異なる画像表示により、一目でどちらのレスリータイプが選択されているのかが分かります。
マニュアルによるとClassicCX-3はコルグ初期のクロノスなどで使われていたバージョン。Customはそれに改良を加えたものです。
Custom方が音的には優れているのかもしれません。聴き比べるとClassicCX-3の音は若干平べったい音像という印象を受けます。Customの方がよりふくよかで立体的な音でした。
ヤマハYC61でも、新しいバージョンでは「スタジオ」というレスリー・スピーカーのカテゴリーが加わり、その音が旧バージョンよりも段違いに良かったことから、とりあえずノーチラスでも改良バージョンのCustomを選択しようと思います。
また、ボリュームペダルを使った時には歪み方も違ってくるようなのでこの辺りは後程、確認していきたいと思います。
今回はオルガンサウンドの大きな要素であるノーチラスにおけるリーケージ・ノイズ設定とレスリー・スピーカーの設定を分け、その成り立ちや音の印象などを説明しました。
ハモンドオルガンの音を形作る要素は数多くあり、とてもこのリポートでは書ききることはできませんが象徴的なファクターであると考えていただければ幸いです。
次回はハモンドオルガンの音色を決める心臓部であるドローバー関連などのリポート考えています。お楽しみに!
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