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蠱惑の楽器たち 92.u-he Filterscape Q6 レビュー

2024-11-11

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

u-he Filterscapeには3種類のプラグインが付属しています。 今回はモーフィングEQを備えたQ6を紹介したいと思います。

u-he ( ユーヒー ) / Filterscape

Q6の概要

Q6は、掴みどころが難しいエフェクトで、既存エフェクトの代替になるようなものでもなく、すぐに便利に使えるという手軽さはありません。カテゴリー的にはEQであることは間違いないのですが、通常のミキシング用EQという感覚で使うだけでは、全くポテンシャルを生かせていないように感じますし、それほど使い勝手がよいわけでもありません。そんなQ6なので、その能力を有効活用するには独自の使い方を編み出すしかないように思います。

ネットやYoutubeを検索してもQ6をがっつり扱っている記事は皆無です。 u-he公式のマニアックな説明を得意とするDan Worrallでさえ、歯切れの悪い説明になっています。 u-he製品全般にいえることですが、明らかなニーズがあるところに向けた製品づくりというよりは、シーズを優先しているように感じます。どう使えるかは開発者も分かっていない節があります。 このままでは、どうしたら有効活用できるか分からないので、今回試行錯誤してみようと思います。

備えている機能としては、まずIIRのローシェルビングフィルター、ハイシェルフフィルター、そして4つのピークフィルターを備えた6バンドのEQがあります。 他のFilterscapeが4バンドなので、EQ専用のQ6は、いささかゴージャスな仕様となっています。 このパネルのポイントをマウスで操作すると、上のディスプレイに正確な周波数とゲインが表示されます。 通常は目盛りがあるので、見なくても問題ないと思います。

EQには各バンドごとにFREQ(カットオフ周波数)、Q(帯域幅)、ゲインなどの基本パラメータがあり、数値で管理できます。さらに各パラメータは、EF等による変調が可能で、他のEQとは一味違った側面となります。 GLOBALとSNAPSHOTの2種があるので、うまく使い分けることで柔軟な対応が可能です。 注意点としては、このパネルでは、0~100の数値で管理します。周波数やdBを見たい場合はグラフィカルなパネルで動かす必要があります。

また4個のEF(エンベロープフォロワ)があり、入力音に対するセンサーのような働きをします。 そして上記の各パラメータを変調することができます。 フィルタの種類、カットオフ周波数、閾値、アタックリリースなどを制御できるので、これらを連携させることでダイナミックEQのように機能させることができます。

また他Filterscape同様のスナップショットによって、モーフィングEQが可能なため、DAWのテンポに合わせた動的なEQも可能となります。ここが他EQと最も違うところなので、有効活用するための鍵となりそうです。

Q6の基本機能は上記だけなので、他Filterscapeと比較するとEQに特化したシンプルな構成といえます。

普通のEQとして使ってみる

Q6は、今どきのスペクトルアナライザ付のEQと比較してしまうと、使い勝手で見劣りしてしまいます。 入力と出力波形が見えないと、耳と知識だけが頼りになります。 実際にはそれほど不便に感じませんが、やはり印象としては地味に感じます。

下は今どきのEQですが、入力、出力波形が見れて、視覚的に細かく制御できる良さがあります。 オートゲインなども付いて、至れり尽くせりです。副作用としては視覚的情報に頼りすぎて音をちゃんと聞かなくなってしまうところでしょうか。

ダイナミックEQとして使ってみる

通常のEQは、設定後は固定のままなので、常時EQが有効となってしまいます。 それに対してダイナミックEQでは、必要な時だけEQで補正します。 具体的には特定の音域のレベルが上がった時だけ補正し、それ以外は何もしません。 EQが不要な時は何もしないので悪影響が出ないというメリットがあるわけです。

Q6をダイナミックEQとして使ってみます。まず分かりやすいのはディエッサーでしょうか。 ディエッサーはボーカル等の耳につく歯擦音を軽減し、聞きやすく整えます。 入力音に対してのセンサーとして、Q6ではエンベロープフォロワーを使用します。 エンベロープフォロワーは、フィルターを選べるのですが、今回はバンドパスで10kHz前後に反応するようにしてみました。 下サンプルは極端に歯擦音を強調したボーカルを、Q6で極端にカットしてみました。 Q6はレスポンスがよく、アタック、リリースのコントロールもできるため、かなり優秀なディエッサーになるという印象です。

下動画はQ6の動きです。 必要に応じて歯擦音の10kHz当たりが反応しているのが分かります。

下図は上記の波形ですが、明らかなに歯擦音が軽減されているのが分かります。 分かりやすく極端にしています。

DAWに合わせてEQを動かしてみる

通常のEQの使い方から、はみ出してみます。 ギターをEQでワウワウのようなサウンドにしてみました。EQの周期はDAWの1/4に同期しています。 通常のEQでは、DAWのテンポに合わせて変調するという使い方はしないので、やや独自性があるかもしれません。 ただ、ワウワウであれば、そういうエフェクトを使う方がダイレクトです。 サンプルは最初ノンエフェクトで、途中からQ6を通しています。

下サンプルは打楽器に別のパターンを採用してみました。 原始的な音に対して、電子的なエフェクトという感じにしてみました。 最初がノンエフェクトで、途中からQ6オンです。

ドラムに使う

公式サンプルもドラムが多く、ドラムとの相性は良さそうです。 ややフランジャー的な扱いにも思えますが、無限に上昇していくようなイメージです。 ドラムソロなどにはよいかもしれません。

サンプルは全てQ6を通してします。

同じくドラムですが、より過激にして、ちょっとスクラッチ風にしています。 これぐらいの使い方をするとQ6の独自性が出てきたかもしれませんが、やり過ぎのようにも感じます。

ギターの刻みを強調

ギターのバッキングの刻みを、少し歯切れよくさせてみます。 サンプルは8分で刻むギターに対して、スナップショットを1/8で行うことで、アタックなどをジョリっと強調させています。これは普通のEQでも、ダイナミックEQでも難しい作業なので、Q6ならではの使い方だと思います。ノンエフェクト、そしてQ6という順番です。

シンセベースに使う

多少トーキングぽくしてみました。ノンエフェクト、そしてQ6という順番です。

フレーズの一部として使う

エフェクトというよりも楽器の一部としても使ってみました。 16部音符で、せわしなくモーフィングEQすることで、トレモロ演奏のような効果を生み出してみました。

まとめ

Q6は補正用EQとしては専用EQに及ばず、楽器の音色づくりの延長線上のような派手な使い方としてはFilterscape FXに及ばずというところで、やはり中途半端感は否めません。 結局のところテンポに合わせたモーフィングをうまく使って補正の延長線上で使うのがよさそうです。 原音を跡形もなく変えてしまうよりは、雰囲気をわずかに変化させるような、渋い使い方が一番合っているように思いました。


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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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