Filterscape VAはu-he社にしては珍しく、標準的なアナログシンセの構成となっています。 記事では主にアナログシンセ共通の部分を取り扱いますので、他シンセでも応用できる内容となっています。今回はシンセサイザーによく搭載されているコーラス、そしてよく使われるディレイについてです。
Filterscape VAのエフェクトの接続順
Filterscape VAにはCHORUSとDELAYが内蔵されています。 エフェクトはAMPを抜けた後の工程となります。AMPの前段階まではモノラルで扱っていますが、AMPでステレオ化され、そのステレオ信号がCHORUSに入ります。その後Delayへ入り、最終アウトプットのリミッターとレベルを通ってDAWへ出力されます。
エフェクトの接続順ですが、CHORUSからDELAYという順番となっており、これは変更できません。普通は、この順番に違和感はないと思います。しかしu-heのFilterscape VAから切り出されたPodolskiという無料シンセがあるのですが、DELAYからCHORUSという接続順になっています。これは違和感のある順番です。過激な設定にすると狂ったようなサウンドになります。これはこれで面白いと思いますが、不思議な接続です。エフェクトを駆使するギタープレーヤーもディレイの後にコーラスを接続する人は少ないと思いますが、いかがでしょうか。
CHORUS
アナログシンセに搭載されるエフェクトの代表はコーラスでした。 1982年のRoland Juno-60に搭載されたコーラスなどは特に有名です。 コーラスエフェクトの役割としては、名前の通り多重演奏的な効果と同時に空間的な広がりをもたせることができます。何よりも味気ない音でもコーラスをかけることでゴージャスに聞こえるようになります。 また弾いていて気持ちよいという感想はよく聞きます。 そんなこともあり、コーラスは当時から大人気でした。 80年代はBBD素子などが安価に使えるようになり、アナログ回路で作られたコーラスをよく見かけました。Filterscape VAもバーチャルアナログシンセなので、ご多分に漏れず、コーラスが搭載されています。
一般的なコーラスエフェクトの仕組み
コーラスはディレイを利用したエフェクトになります。 例えばディレイ回路が3つであれば、ディレイタイムを5~30msec程度に設定し、取り出し位置を変調により変化させます。 そして開始位置を2pi/3ラジアンずらして合成します。 またコーラスにはフィードバックがありません。フィードバックがある場合は、別のエフェクトであるフランジャーとなります。
変調と言われても、あまりピンとこないと思いますので、下図のようにイメージを描いてみました。 最近あまり見かけませんが、カセットテープが分かりやすいと思います。 まず2つの再生ヘッドがあり、DrySoundという再生ヘッドは通常の音を再生します。 もうひとつのDelayTimeの再生ヘッドはDrySoundよりも少し遅れて再生します。 このヘッドが-1~1の間を滑らかに行ったり来たりします。 その移動スピードは0.1~10Hzの範囲で往復。 動きはサイン波を使い、振幅値が移動地点になります。
この再生ヘッドの移動で、音はどう変化するのでしょうか。テープの進行方向にDelayTime再生ヘッドが移動するときはテープ本来のスピードよりも、ゆっくりになるので音程は下がります。 逆方向に移動するときはスピードが速くなるので、音程が上がります。 Dry音と同じピッチは+1と、-1のときで、サイン波を微分して0の位置になったとき。つまり再生ヘッドが一時的に停止した状態のとき。こういう仕掛けで、音程が微妙に上がったり下がったりします。 このDelayTime再生ヘッドが3つあって、それぞれがDelayTime位置を0として、0、2pi/3、4pi/3ラジアンの位置からスタートしたものをグラフにすると下図のようになります。 Xが時間で、Yが再生ヘッドの移動量となります。
LFO制御による移動再生ヘッド3つとドライ音を合成すると、微妙なピッチのズレが発生するので、多重演奏的な効果が得られます。Filterscape VAのCHORUSもおおむねこのような構造となっています。FEEDBACKというパラメータがあるので、本来のコーラスに加えてフランジャー的な効果も行えます。
Filterscape VAのCHORUSのサンプルです。比較のために最初がコーラスなしで、次のサンプルがコーラスONになっています。 明らかに左右の広がりが出ているのが確認できると思います。
DELAY
Filterscape VAに組み込まれている、もうひとつのエフェクトはディレイです。 空間系のエフェクトの基礎はディレイにあると言ってもよいぐらい基本となるエフェクトです。 原理としては入ってきた音を遅らせるというものです。原音とミックスすればエコー効果が得られます。たったそれだけのエフェクトですが、ディレイとして使うだけでも様々な効果が得られますし、その応用エフェクトも無数に存在します。
Filterscape VAのディレイは簡易的なもので、あくまでもオマケです。 よく使われるピンポンディレイのようなことはできません。 またフィルターも内蔵されていないため、クリアな音が繰り返されます。 本格的にディレイを駆使したい場合は、外部のディレイを使うことをお勧めします。
ディレイタイムは絶対時間ではなく、DAWのテンポと同期するようになっています。 タイムは1/64 ~ 1/1 で調整します。付点や三連なども可能なので、音楽的に扱いやすいと思います。 左右独立して扱えるので、ステレオ感を出すのは容易です。 FEEDBACKは、出力した信号を入力に戻す量となります。同チャンネルと、反対チャンネルに戻せます。 他は原音とエフェクト音のミックスバランスのみです。 下図は、減衰する1音を1/4でディレイした場合の波形で、1拍ごとに繰り返されますが、振幅は小さくなっているのが確認できます。
簡単なサンプルをつけておきます。はじめにディレイなし、直後にディレイONにしています。 コーラスは使っていませんので、ステレオ感はディレイによるものです。
以上でFilterscape VAの紹介は終了です。次回はFilterscape Q6の概要を紹介したいと思います。
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