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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その196 ~YC61でJポップの難関曲「アイノカタチ」にトライ!鍵盤狂ライブ機材リポート PART3 最終回~

2024-08-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

■ まさか!? MISIAの「アイノカタチ」を演ることになるとは!

ある日突然、JK電気ジャズバンドにてボーカリストの女子高生からMISIAの「アイノカタチ」をやりたいという提案がありました。
「アイノカタチ」は初めて聴くと、よくあるポップソングのように聴こえます。とてもいい曲です。テレビの番組で以前聴いた記憶がありました。私は特にMISIAのファンでもないので、なんとなく聴き流してしていました。しかし演奏のために聴き込むにつれ、一筋縄ではいかない曲だということが分かってきました。

まず、この楽曲はボーカルのバックに壮大なオーケストレーションがあり、ギター、ベース、ピアノ、ドラムの4リズムで演奏できるような形態ではありません。完全なコピーは到底無理な話です。
イントロからAメロを経て、サビの冒頭まではピアノとベース、サビからドラム、ギター、ベルなどが入ってきますが、そのバックには美しいストリングスが流れています。MISIAバンドの編成は弦楽隊が大フィーチャーされていて、楽曲のイメージを作っているのはこの壮大なオーケストレーションです。

4人ではこの楽曲に取り組むのに厳しい状況であることに加え、それ以外にも大きな壁が私の前には立ちはだかっていました。

「アイノカタチ」の調は♭6個の変ト長調です。私はこの♭6つの調をあまり弾いた記憶がありませんでした(クラッシックピアノを習っている方なら別かもしれません)。「君の瞳に恋してる」の途中の転調部分がこの調だったと思いますが、コード譜を見て私は直ぐに弾くことができませんでした。

しかも楽曲内に多くの分数コードが含まれています。分数コードは今となっては普通に使われる音楽的な手法です。80年代初頭にエアプレイでブレイクしたキーボーディスト、デイヴィッド・フォスターが好んでこの分数コードを使いました。
例えばDのコードのボイシングはDとF#とAでベース音はDを弾きますが、分数コードはF#やCといったルート音とは異なるベース音を弾きます。そうすると何ともお洒落な響きになります。この分数コードが多用されているのです。そして分数コードに呼応したベース音が楽曲の展開に素晴らしい効果を上げているのです。

その他にもポイントポイントで仕掛けやキメも多く、構成も複雑等々……。できない理由は山ほどありました。

楽曲アレンジのクレジットを見て私は腑に落ちました。アレンジャーは亀田誠治さんだったのです。普通であるはずがありません(笑)。亀田さんは椎名林檎などのアレンジや演奏を手掛けるベース奏者として知られ、Jポップ界に広くその名を轟かせています。MISIAの楽曲を亀田さんがアレンジするのは初めてらしく、力の入れ具合は桁違いでした。

■ 紹介楽曲:『アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)』MISIA(2018年)

TBS火曜ドラマ『義母と娘のブルース』の主題歌。MISIAとGReeeeNのコラボレーションにより制作された楽曲。
先日、某局での亀田氏のインタビューで、その内容に驚かされた。太宰治を師と仰ぐ亀田氏は「太宰の小説は見事に構築された作品。その設計力に影響を受けた」という内容だった。そのコメントを念頭に置き、「アイノカタチ」を聴くと亀田氏はこの楽曲アレンジを「設計」しているということに気付かされる。

■ YC61で作った音は…

女子高生に楽曲のアレンジやアンサンブルなどが分かるはずもなく、全く別物のアレンジとして、なんとかイメージに近付けるために頭をひねりました。
YC61にはピアノ系のサンプリング音でも、使えるプリセット音が沢山入っています。実際の「アイノカタチ」には素晴らしい弦のアンサンブルがバックに流れています。
私はピアノの音の後ろに弦が鳴るプリセット音を探しました。

YC61はピアノタッチの鍵盤ではなく、オルガン用に独自開発されたウォーターフォール鍵盤が使われています。この鍵盤でアコースティック・ピアノ系の音を弾くと、弾き手側にある種の違和感が生まれます。アコピのニュアンスが何故か出ないのです。ピアノとはタッチの異なる鍵盤に起因している要素が強いと思います。

そこでアコースティック・ピアノとはまた違ったピアノ音をイメージし、プリセットされたCP80 Stage(ヤマハ・エレクトリックグランド)の音とアコースティック・ピアノの音と弦の音が同時に鳴るPiano Synthを重ねることにしました。エレクトリック・グランドのサンプリング音はまさに「あの音」であり、このエレクトリック・グランドの音を軸にすることにしました。エレクトリックグランドの音はアコースティックピアノの音をウォーターフォール鍵盤で弾くよりも違和感は緩和されました。バックにはストリングスの音も混じるので少しは音の隙間を埋めることができたのではないかと思います。

YC61には幅広いジャンルに対応する質の高い音がプリセットされています。「アイノカタチ」用に作った音もヌケが良く、私のサンプリング音への拒絶感も薄れました。

「アイノカタチ」用に作ったピアノ+ストリングス音

■ YC61はオルガン系シミュレート機ではベスト!

少なくとも私が購入したオルガン・シミュレート機の中ではこのYC61がベストなキーボードです。その理由はハモンドの音が良かった!これに尽きます。

このYC61は私がこれまで購入したハモンド・オルガンのシミュレート機の中で音色のレベルが高く、オルガン系の音だけでなく、アコースティック・ピアノ系、エレクトリック・ピアノ系、シンセサイザー系、それに加えFM音源系など、沢山の使える音が揃っています。音抜け的にも良く、とても重宝する機材であることを現段階で断言することができます。そして軽量なのも嬉しい要因です。

もちろん、ウエイト鍵盤であるYC73やYC88というハンマーアクションなどの選択肢もあります。実際ピアノ系をメインで弾く演奏家でしたらこちらの選択でしょう。
私のようにスタジオやLIVE会場にピアノ系、オルガン系とシンセ系(リード系)2台を持っていく人間にはYC61はうってつけです。あとはお好みで……

少し褒めすぎかとも思いますが、円安の影響を受ける海外系機材よりも安価で購入できることも大きなメリットではないかと考えています。
私の機材でまた、新たな発見、おすすめ機能などがありましたら不定期でリポートさせていただきます。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

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¥222,700(税込)

ステージキーボード、61鍵

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