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Rock’n Me 10 洋楽を語ろう:スティクス

2021-12-10

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第10回目では、アメリカのイリノイ州シカゴ出身のバンド、スティクス(Styx)を紹介します。デビュー当時はプログレッシヴ・ハードロックが主体でしたが、後にポップ度を増し、その人気が高まる一方で「産業ロック」の代名詞としても取り上げられてきました。活動休止・再集結・メンバー交代を経て、現在も精力的にアルバム制作・ツアーを続けています。

デビューは1972年に遡り、当時はデニス・デ・ヤング(vo, key)、ジェームス・ヤング (vo, g)、ジョン・クルリュウスキ(g)、双子のパノッツォ兄弟(チャック: bとジョン: dr)、の5人組でした。プログレッシヴ・ハードロックバンドとして複雑で長い楽曲を特徴としていましたが、バラードからハードロックまで歌いこなせるデニスの歌唱力はデビュー当時から抜群でした。一方、ジェームスはダミ声とハードに歪ませたギターで、バンドの野性的な面を担当していました。1973年『Styx II』に収録されていた”Lady”が、発表から2年後に遅れてシングル・ヒットしました。しっとりとしたピアノとムーグ・シンセのフレーズから始まり、ミュージカル調のデニスの歌声、ギターのパワーコード、ボレロでのバンド・ユニゾン、という目まぐるしい曲展開は初期らしいものでした。

■ Lady

“Lady”がブレイクした後、ジョンが突然脱退し、その後任として加入したのがトミー・ショウ (vo, g)でした。金髪に童顔、というアイドル的なルックスを持ちながらも、抜群の作曲能力とバランスの取れた歌声、ハードなギターもアコースティック・ギターもこなせる万能性は、バンドに新たな彩りを加えました。トミーの加入により、3人の個性的なソングライター・ヴォーカリストを交え、バラードからハードロックまでこなす幅広い音楽性で、”Come Sail Away”(1977年『The Grand Illusion』収録)、”Babe”(1979年『Cornerstone』収録)などのシングル・ヒットを飛ばし、名声を高めていきました。

キャリアの頂点となったのは『Paradise Theatre』(1981年)で、シカゴに実在した劇場の栄枯盛衰を題材としたコンセプト・アルバムでした。デニスがシャウトするロックンロール“Rockin’ the Paradise”、シンセベースのリフとハードなツイン・ギターが組み合わさるトミーの”Too Much Time on My Hands”、デニス得意のミュージカル風バラード”The Best of Times”、ジェームスとトミーのツインヴォーカルによる、おどろおどろしく始まり切なく終わる”Snowblind”などのシングル曲もヒット、アルバムは3週間全米1位となる大ヒット・アルバムとなりました。

■ Too Much Time on My Hands

しかし、商業的成功を収めるにつれ、アンチな人々も増えました。スティクスなど当時の成功したロック・バンドは、その商業性が揶揄され「産業ロック」(corporate rock)と揶揄されるようになりました。また、とある宗教団体は「”Snowblind”を逆回転再生すると、悪魔へのメッセージが聞こえる」と言いがかりをつけて、政治的問題にまで発展しました。このような動きの中、デニスはそれを次のコンセプト・アルバムのテーマにしようと試みました。「ロック音楽が発売禁止になる」というコンセプトで『Kilroy Was Here』(1983年)を発表しました。しかし、シングル曲”Mr. Roboto”はこれまでとは全く異なるシンセ・ポップとなっていました。なおこの曲では「どうもありがとうミスター・ロボット、また会う日まで。どうもありがとうミスター・ロボット、秘密を知りたい~」など、日本語の歌詞が使われていました。これは、来日公演時、デニスが当時最先端だった日本のロボット産業を知り、感銘を受けたことによるものでした。

■ Mr. Roboto

プロモーション・ビデオやツアーでも、コンセプト的演出がエスカレートしました。バンドに嫌気が差したトミーは脱退し、スティクスは活動休止しました。トミーはソロ活動を始め、1989年にはテッド・ヌージェント (vo, g)、ナイト・レンジャーのジャック・ブレイズ (vo, b)とともにダム・ヤンキーズを結成し、2枚のアルバムを発表しました。1990年、トミーの代わりにグレン・バートニックが加入し、スティクスは再始動しました。ジョンは病気のため離脱し、ジョンの死後は、代役のトッド・ザッカーマン (dr)がメンバーに昇格しました。1995年、トミーが再加入しましたが、バンド内の軋轢は解消せず、1999年のツアーに参加しなかったデニスはバンドから外されてしまいます。

普通ならば、ここでバンドが終わってもおかしくないのですが、トミーとジェームスが中心となりバンドを続けました。デニスの代わりにカナダ人の(文字通り)凄腕アーティスト、ローレンス・ゴーワン(vo, key)を招き入れ、健康上の理由で退いたチャックの後任としてグレンがベースに転向しました。2003年にはベースがグレンからリッキー・フィリップス (元バンド・イングリッシュ、ザ・ベイビーズ)に交代し、現在のラインアップとなっています。デニスは激怒し、バンド名の所有権を巡ってトミー側を訴えました。デニスからすると「俺がバンドの顔だ、若造のトミーがバンドを名乗るなんて百年早い」という心境だったのでしょう。しかし、法的係争の結果、トミー側がバンドを継承することが確定し、「スティクス表千家」となりました。

スティクスはツアーとアルバム制作を続け、2021年には新作『Crash of the Crown』を発表し、ツアーも再開しています。片やデニスはソロ名義で活動を続けて、トミー的なギタリスト&ヴォーカリストがトミーの曲も披露する、という「スティクス裏千家」のコンサート活動を続けています。意外なところでは、デニスの最新作『26 East, Vol. 2』(2021年)に同郷のトム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)がゲスト参加しています。トムのインタビューによると、デニスからのお誘いはものすごく控えめで、「あのー、私の音楽は知らないかもしれないんですけど」というノリだったのですが、トムは「やめてください!地元に帰ったら、いつもスティクスを一晩中かけているんです!イリノイ州仲間として名誉なことです!」と二つ返事で快諾したそうです。

個人的な思い出になりますが、私が小学生の頃、生まれて初めて買ったレコードが『Paradise Theatre』でした。そして、2000年代になり、彼らの演奏を3回観ることができました。2000年の東京公演(厚生年金会館)、2003年のワシントンDC公演 (MCI Center:ジャーニー、REOスピードワゴンとの3本立て!)、2004年のバージニア州ブリストウ公演 (Nissan Pavilion:前座はピーター・フランプトン)で、アメリカらしい豪華絢爛なラインアップでした。

■ 2003年7月23日、MCI Center公演フライヤー

■ 2004年6月26日、Nissan Pavilion公演チケット

しかし、個人的に一番印象的だったのは来日公演です。当時、主催者の招待企画に当選してバックステージにお邪魔でき、トミーとジェームスに直接話すことができたからなのです。トミーは本当にきさくな方で、デニスの脱退についても率直に話してくれました。ジェームスは「日本のファンと話せて本当に嬉しい」とハグまでしてくれました。当時のメンバー全員がサインした『Paradise Theatre』のレコードは一生モノの宝物になっています。レコードを買った当時、「将来トミー・ショウと話すんだ」って私が言っても、周りは誰も信じてくれなかったことでしょう!

■ 2000年2月10日、東京厚生年金会館公演チケットとセットリスト(実物コピー)


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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