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蠱惑の楽器たち 15.楽器の音律

2021-10-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

■ 現在の平均律が使われるようになるまで

音律とは各音程の相対的な配置です。現在は1オクターブを12音に均等に分割した平均律が主流で、音階としては、その中の7音を使った長音階(アイオニアン・スケール)と短音階(エオリアン・スケール)が基準となっています。元々世界中に様々な音階と音律が存在していましたが、現在では強引に平均律で演奏してしまうことが多いです。西洋楽器のほとんどが平均律で作られていますので、その方が都合がよいためです。西洋楽器を使わない伝統音楽の場合は、独自の音律が健在です。また平均律以前に作曲されたクラシック曲などを再現する場合は、現在でも古典的な音律を使うこともあります。また半音をさらに分割する微分音という考え方もあります。これらを使うことで、民族音楽の再現ができます。

音律がどのように作られてきたか諸説ありますが、西洋音楽の場合は、紀元前のピタゴラス教団のピタゴラス音律からと言われていますが、昔過ぎて、現在の音楽との関連がどこまであるか、よくわかっていません。

音律を作る場合、基準となる音があって、次の音を、どう決めるかがポイントとなります。世界的に共通しているのは基準となる音に対して、1オクターブ差の音です。どの地域でもオクターブという認識はあります。最も似ている違う高さの音として認識されたのでしょう。

次に1オクターブの間をどう区切るかという問題になりますが、ここからは地域ごとに様々です。ただ多くの場合、基準となる音に似ている音を採用しているようです。つまり倍音に含まれている音が優先されます。下図は1音を鳴らしたときの倍音構成ですが、3倍音(完全5度上)、5倍音(長3度)、7倍音(短7度)などが採用されやすい音です。完全5度上の音は、完全4度下とも言えますので、これらを組わせた音階は、倍音的にも素直な5音階となります。平均律と比較すると、長3度と、短7度はズレていて、平均律に慣れていると、ちょっと気持ち悪い感じに聞こえますが、ハーモニーとしては美しく響きます。しかしながら、多くの地域ではハーモニーという概念は希薄で旋律を重視する傾向にあります。

世界的に5音階が最も多いと言われています。日本の伝統的な音階も基本5音階です。ただし、上に書いた5音階とは違っていて独特な響きがあります。また音階は少なければ少ないほど覚えやすいですが、メロディを作るには5音階ぐらいが適当だったのでしょう。

■ ピタゴラス音律も自然倍音からの発想

ピタゴラス音律は構造的な説明があるので、よく引用されます。オクターブを12個に分ける考え方は以下のような考えです。 基準となる音に対して最も調和するのは3倍音の5度上の音という考えがベースにあります。たしかに基準となる音を鳴らすと、すでに5度上の音が倍音として強く入っているので調和するわけです。ここが他の地域での発想と大きく違います。ピタゴラス教団はハーモニーとして初めから考えているということです。整然としたハーモニーを体系化した功績は大きいと言えます。 2番目の音は5度上の音ですが、次の音は、この音のさらに5度上の音を導いていきます。そうやって芋づる式に導いていくと、12個の音が導かれ、最初の基準音に戻ります。ただし、実際にはちょっとずれます。これをピタゴラスコンマと言います。こうして出来た12音は平均律とは違いますが、うまく作った12音のように見えます。そして1オクターブを12音で分割する根拠にもなるわけです。しかしハーモニーとなると、重要な長3度などがズレが大きく、気持ち悪いわけです。いろいろ欠点だらけで、その後様々な音律が生み出されます。

ピタゴラスの芋づる式は、音階という意味でも面白いです。重要な音から順番に登場しているように思えるわけです。 Cを例に5度上へと7つ並べると、

C、G、D、A、E、B、F#

さらに並び変えると

C、D、E、F#、G、A、B

という具合です。スケール的にはリディアン・スケールになります。現在主流のアイオニアン・スケールではありませんが、昔はこちらの方がよく使われていたようです。 また5音までしか導かないと、

C、G、D、A、E

これも並び変えると

C、D、E、G、A

となり、ペンタトニック・スケールとなります。

ただ、ピタゴラス教団の音律がどれぐらい継承されてきたか不明です。現在のピアノを見ても明らかですが、7音階がベースとなっています。転調できるようにと、後から黒鍵を取って付けたデザインになっています。ピタゴラス音律から発想するなら、12音階がベースとなってもよいと思えるわけです。

その後も様々な音律が生み出されますが、有名な音律としては純正率があります。整数比による倍音に忠実な音律でハーモー二ーが最も濁らないことで現在でも使われています。ただし長調、短調が存在し、調ごとに調律が必要なため、転調に向いていない音律です。実際にはハーモニーを重視した合唱などに使われてます。

また中全音律であるミーントーンなども有名です。ピタゴラスの5度基準ではなく、3度基準でハーモ二ーを意識したものです。ただしハーモニーはよくても、旋律向きではないと言われています。16世紀の鍵盤楽器に多く使われていた音律です。

■ そして平均律へ

その後音楽的に転調などを駆使した曲が多く作られるようになると、妥協の産物である平均律へ流れていきます。平均律は名前の通り1オクターブを12等分しただけの単純な音律ですが、転調には、めっぽう強いわけです。ただしハーモニーは常に濁るという欠点があります。それでもピアノやギターのような撥弦楽器では音がすぐに減衰していくため、ほとんど気にならないです。問題はオルガンのような持続音が出る楽器でしょう。そのため純正調オルガンなども存在していて、かなり厄介なインターフェイスとなっています。

現在の電子技術を使えば、瞬時に音律を変えることも容易です。ハーモニー重視のパートは純正率で演奏するなど、音律を積極的に使う試みも面白いかもしれません。実際微分音の研究は電子楽器が登場することで、にわかに活気づいているようです。


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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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