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Rock’n Me 4 洋楽を語ろう:ザ・ブラック・クロウズ

2021-10-27

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第4回目は、アメリカのジョージア州出身のロック・バンド、ザ・ブラック・クロウズ(The Black Crowes、以下クロウズ)を紹介します。彼らのことを簡単に表すと「いつも喧嘩しているヴォーカルの兄とギターの弟、毎回違うコンサートを魅せる」というところです。

クロウズはクリス・ロビンソン(vo)とリッチ・ロビンソン(g)の兄弟を中心に結成され、1990年『Shake Your Money Maker』でデビューしました。クリスのヴォーカルは、ハンブル・パイのスティーヴ・マリオットを彷彿させる、ソウルフルでブルージーなものでした。一方、リッチはザ・ローリング・ストーンズの影響を強く受け、”Twice As Hard” “Jealous Again”において、リッチはキース・リチャーズのようにオープンGチューニングにしたテレキャスター(もちろん6弦は張らない)を弾いていました。そもそも、アルバム名はエルモア・ジェームスのブルース・ナンバーから拝借したものです。この曲はロビンソン兄弟が生まれる前のものですから、その時点で彼らの時代観が伺えます。コンサートでは、セットリストを毎回替え、曲の尺を延々と伸ばしたりカヴァー曲を加えたりして、まさに「ライヴ」な体験が話題となっていきました。

■ Twice as Hard

デビューアルバムの1曲目。リッチがかき鳴らすオープンGのギターが響き、バンドインしてからはギター2人のスライド合戦。そこにクリスの声が入り、キャッチーなコーラスへとつながります。

2枚目『The Southern Harmony and Musical Companion』(1992年)発表時には、キーボーディストとしてエディ・ハーシュが加入し、リード・ギタリストがマーク・フォードに交代、バンドはよりパワーアップしました。デビュー作の音質はどちらかというと整って磨かれたものでしたが、2作目はほぼ一発録りの生々しいサウンドで、1980年代のギラギラした音に慣れた私にとっては、あまりにも衝撃的でした。代表作である”Sting Me”や”Remedy”は、その後のコンサートでも定番曲となりました。

■ Sting Me

2作目のオープニング・ナンバー。オープンGチューニングにしたリッチのリズム・ギター、マークの荒々しいギター・ソロ、エディのファンキーなワーリッツァー・ピアノの上を、クリスが自由奔放に歌い上げます。

1・2枚目はともにミリオン・セラーとなりましたが、3枚目の『Amorica』(1994年)では一転して仕込みに時間をかけ、独特な世界観を作り上げました。個人的にはもっとも好きなアルバムですが、はじめて聴いたときにはピンと来なく、理解するまでに相当な聴き込みが必要でした。4作目の『Three Snakes and One Charm』(1996年)の頃には売れ行きが下降し、マークとジョニー・コルト(b)が相次いで脱退しました。後任としてオードリー・フリード(g)とスヴェン・ピピエン(b)が加入し、ポップ路線を勧めるレコード会社の助言に従い発表したのが『By Your Side』(1999年)でした。このアルバムのプロモーションのために1月には渋谷でシークレット・ライヴを開き、同年7月にはフジ・ロック・フェスティヴァルにも出演しました。

1999年1月27日、渋谷オンエアーイースト公演のセットリスト(実物コピー)

その年には、元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジから大きなオファーが舞い込みました。ジミーのソロ・ツアーのために、バンドまるごとバックを務めてほしい、との依頼でした。この体験を経て、バンドの演奏力は格段に上がり、ライヴ・アルバム『Live at the Greek』では、ツェッペリンの曲をこなすクロウズを体験できます。しかし、彼らの試練はまだまだ続きます。薬物の問題でスヴェンが脱退し、2002年には、デビュー作からの重鎮メンバーであるスティーヴ・ゴーマン(dr)がバンド休止を公言しました。2005年にはスティーヴ抜きで活動再開しましたが、後にスティーヴが復帰し、作品を発表し続けました。しかし、マークが復帰したり脱退したり、クリスとリッチがメディアでお互いを批判し合ったりと、作品よりはお家騒動の方が目立つようになってしまい、2015年には解散しました。2016年には、リッチ・マーク・スヴェンがマグパイ・サルートを結成しましたが、参加するはずだったエディは亡くなってしまいました。マグパイ・サルートは2枚のアルバムを発表しましたが、2019年にはクリスとリッチが復縁を突然発表、新生クロウズで『Shake Your Money Maker』発表30周年ツアーを行うと宣言し、人々を仰天させました。新型コロナウイルス感染症の拡大のために2020年ツアーは延期され、2021年にツアーが再開されました。しかしスヴェン以外はメンバーが一掃され、これをクロウズと呼んで良いのか、という声も出ています。

結局、クリスとリッチは、お互いがいないと、その良さを引き出せないのかもしれません。実際、それぞれのソロ活動はぱっとしませんでした。兄弟喧嘩のエネルギーが音楽に昇華されていたからこそ、クロウズは輝いていたのかもしれません。皮肉なことに、2001年には、オアシスと共同ツアー『The Tour of Brotherly Love(兄弟愛ツアー)』をやっていました。オアシスのギャラガー兄弟喧嘩は未だに続いていますので、ロビンソン兄弟もこのまま蜜月が続くとは思いません。

クロウズには個人的な思い入れがかなりあり、これまで日米の各地で彼らを観ることができました。1999年には1月27日渋谷オンエアーイースト、4月27日アリゾナ州フェニックス(Desert Sky Pavilion:レニー・クラヴィッツの前座)、7月30日のフジ・ロック・フェスティヴァルと、3回も観ることができました。以降も2001年東京(渋谷公会堂)、2005年には3月ニューヨーク州ニューヨーク市(Hammerstein Ballroom)、6月21日ニューヨーク州ワンタフ(Tommy Hilfiger at Jones Beach Theater)、6月22日ニュージャージー州ホルムデル(PNC Bank Arts Center: トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの前座)、10月4日ワシントンDC (9:30 Club)で観ました。

彼らのライヴには当たり外れが大きいです。「ジャム・ロック」と分類されることもあるように、演奏が長尺となると即興的な要素が大きくなります。しかし、(各自の実力は申し分ないですが)強力なソロイストがいなくて、一歩間違えるとダラダラ長くなってしまい、緊張感が抜けた演奏になることもあります。最前列で見て、演奏の密度が濃かった渋谷公演と、ツェッペリン・ナンバーも入ったフジロック公演はただただ素晴らしかったです。一方で、あまりにもダラダラしていて、途中で帰りたくなるようなショウもありました。

…と、クロウズのことを書くと、大好きゆえに不満ばかり漏らしてしまいます。まるでクリスとリッチとの兄弟喧嘩を再演するかのように、「好きなのに憎たらしい」ところが出てしまうようです。観るたびにラインナップはその都度変わっていきましたが、兄弟喧嘩は控え目にして、末永くバンド活動を続けてほしいものです。


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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