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蠱惑の楽器たち 6.楽器のインターフェイス(電鳴楽器1)

2021-09-08

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

■ 電鳴楽器

発音原理が電気のため、物理的な制約はなく、自由にインターフェイスを作ることができます。しかし電子的に自動演奏も可能ですから、必ずしもリアルタイムで演奏する必要もありません。アコースティック音源に比べ、かなり自由であることが電鳴の特徴ですが、自由過ぎて、何が正解か分からないという側面もあるようです。そんなこともあって、従来にはない新しいインターフェイスが考案されても、あまり広まりません。そうなると既存楽器のインターフェイスを採用するのが無難なようです。少なくとも既存楽器を演奏している人にとっては、演奏するための学習コストが下がるわけで、使ってみようかなと思えるわけです。今回は、そんな電鳴楽器の既存楽器インターフェイスを紹介したいと思います。

■ 鍵盤

現在普及している電鳴楽器で、最も採用されているインターフェイスは、やはり鍵盤で、一人勝ちのようです。元々鍵盤は発音構造をブラックボックス化した統一インターフェイスで、アコースティックであろうと、電鳴であろうと関係ありません。また長い歴史の中で慣れ親しんでいる鍵盤ですから当然といえます。1897年(明治時代)に開発された、最初期の電鳴楽器「Telharmonium」も鍵盤を採用しました。真空管がない時代だったので、部屋ごとに装置を設置し電線でつなぐという大がかりなものでした。電話回線を通じて音楽が聞けるという、今でいうネット配信のようなことをしていました。

鍵盤電鳴楽器は、電気機械式の上記Telharmoniumから始まり、同様の構造のハモンドオルガン、アナログ回路系、磁気テープを再生するメロトロン、デジタル回路系へと進み、現在はデジタル回路系の電子ピアノが売れ筋でしょう。ユーザーにとっては、生ピアノが理想なのですが、高価ですし、音量もあり、大きく重いので、気楽に買えるものではありません。そこで電子ピアノになるわけですが、電鳴楽器が欲しいわけではなく、あくまでも生ピアノの代替という扱いになります。電鳴楽器としては、やや複雑な思いがあるわけです。

■ ROLI Seaboard

鍵盤をモチーフに拡張したインターフェイスです。見た目通りに、音と音の境界を取り払ったユニークなデザインです。音程の高低、ビブラートなどが自由にできますし、アフタータッチの加減で音量のコントロール等もできます。通常の鍵盤ではできないことを、これで実現しようという思いがストレートに伝わってきます。

■ ウインドシンセ

管楽器のインターフェイスを使った試みも半世紀前から行われています。リリコン系とEWI系の二大巨塔があり、これらはウインドシンセと呼ばれています。管楽器ならではのブレスコントロールは、鍵盤ではなかなか表現が難しいので、電鳴の可能性が広がると思うのですが、それを追及したいと思うミュージシャンはあまりいないようです。市場としては結局、既存管楽器の練習用というところに一番需要があるのではないでしょうか。問題は、まだ練習用のウインドシンセがないことです。木管系のミュートは難しいので、吹き心地が近いウインドシンセがあれば、飛びつく人は多いと思います。

■ ギターシンセ

ギターのシンセ化というコンセプトは昔からありますが、これもなかなか浸透しない分野です。そもそもアコースティックもエレキも、大きな音が出ないので、ピアノや管楽器のように消音目的という需要は極端に少ないでしょう。またエレクトリックギターの場合は、電気信号に変換後は、エフェクターで音を加工する歴史も長いので、わざわざ電鳴化する意味を見出せないかもしれません。むしろ電鳴化することで、ギターらしさはスポイルされやすいので、わざわざギターで電鳴音源をコントロールしたいというユーザーは限られそうです。

ただDAWが一般化した現在、ギターでMIDI入力したいというユーザーは、ますます増えています。ギタリストが弾いたこともない鍵盤でDAWに打ち込むのは、かなり効率が悪いわけで、いつも弾いているギターで入力出来たらと思うわけです。今後はMIDIギターというジャンルがそれなりの勢力になっていくと思います。DAW専用入力装置としてのギターもどきなら、かなり割り切って開発できるはずなので、安価で安定した入力用MIDIギターを期待しています。ギターを弾けない人がギターを弾いた気になれる商品ではなく、ギターを弾ける人がMIDI入力にストレスを感じないことが最も重要なポイントだと思います。

最近のMIDIギター「Jammy」、ちょっと前にあったヤマハ社のボタン式「イージーギター」。これらの延長線上で何かできそうです。

■ SynthAxe(シンタックス)

かつて風変わりなギター風MIDIコントローラーがありました。ギターインターフェイスの拡張といえると思います。アラン・ホールズワースというギタリストがもっとも使いこなしていましたが、他に本格的に使ったミュージシャンはいませんでした。ホールズワースは、シンタックスで外部音源をコントロールし、ギターでは不可能な音を作っていましたが、音だけ聴くとギターを弾いているとは思わないでしょう。シンタックスはフレットが等間隔で、張る弦も同じ太さという、物理法則を無視した斬新なインターフェイスでした。弦がすべて同じ太さの理由はトラッキングする際、全弦同じように扱えるためで、作り手の都合です。フレットが等間隔というのはユーザビリティからだと思われますが、ギタリストからするとちょっと不自然に感じるところです。また特徴的なのは、指板とピッキング用弦が一直線上でないところでしょう。確かにフラットピッキングする場合は、この角度の方がいいかも知れませんが、指弾きだとちょっと弾きにくいかもしれません。また各弦に対応した鍵盤のようなものもありますし、ブレスコントローラーまであります。デザイン的には、構造的にセパレートできるところは、明確に分けて通常ギターとは明らかに違うことをアピールしたかったのかもしれません。確かに見た瞬間、ギターのようでギターでないという印象は与えられますね。ここまで変えてしまうと、通常のギターと同じ感覚で弾くことは不可能でしょう。

■ ドラム

エレクトリック・ドラムは、1970年代後半に登場し、シモンズ社が老舗として知られています。出てくる音がシンセ音なので、当時は新しい音として、もてはやされていましたが、今では電子ピアノと同じように、自宅練習用としての需要が圧倒的となりました。90年代になると物理音源パーカッションとして可能性を示したコルグ社のウェーブドラムが出てきましたが、やはりアコースティックの陰に隠れてしまっているようです。

■ まとめ

既存楽器のインターフェイスを持った電鳴楽器は、結局のところ既存楽器へ向かうようです。PCMが安価に扱えるようになって本物そっくりの音が作れるようになると、ますますその傾向が強くなり、練習用というポジションに落ち着きます。アコースティックの音が大きいほど需要があり、そうでもないギターはあまり電鳴を必要としていません。

次回は既存楽器から離れた電鳴楽器のインターフェイスについて紹介します。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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