画期的なベクターシンセサイズを採用したu-he Zebralette3のレビュー記事になります。今回は理解が難しいOSC FXについて解説します。以下の赤線枠の部分となります。

OSC FX 21種類
OSC FXは、旧Zebraletteから存在するオシレータに内蔵された強力なエフェクトで、現在4カテゴリー、21種類が用意され、2個直列で使用できるようになっています。OSC FXは内部的にベクターを利用しているため、サンプルベースの一般的なエフェクトとは根本的に違います。ウェーブテーブルの補完機能だけでなく、さらに発展させた使い方も可能となっています。つまりOSC FXでできることを知っていれば、ベクターウェーブテーブルの設定を簡易的にすることができます。ただしOSC FXは、馴染みのない名称も多く、取っつきにくい印象があります。じつは往年のデジタルシンセの機能もあったりするので予備知識が必要とされる項目もあります。さらに独自のユニークな機能も多く、一般的なシンセの知識だけでは手に負えません。また、旧Zebraletteと違って、エフェクトごとに独自パラメータが用意され、細かく制御可能になっています。今回21種類全てを紹介するわけにも行かないので、カテゴリーごとに代表的なものを紹介したいと思います。

Spectral Effects
このカテゴリーは、各倍音を操作します。フィルター(カーブ、LPF、HPF、BPF)、フォルマント、偶数、奇数倍音などを操作するエフェクト等が6種類あります。フィルタはデジタルで理想的な動きをします。アナログエミュレートのようなレゾンナンスがないので、シンセフィルタとしてはもの足りない印象があり、あくまでも補正用となります。レゾナンスを備えたアナログフィルタが欲しい場合は、外部フィルタを使うことになります。今後発売されるZebra3には、Zebralette3を4個搭載し、様々なアナログフィルターも搭載される予定です。
下の例は純粋なノコギリ波に対して、Curve Filterを使って、カットオフ周波数をLFOでゆすっています。Curve Filterは任意のカーブを描けるので、自由度が高く、単なるフィルター以上の効果が生み出せると思います。

Wave Manipulation Effects
このカテゴリーは、波形全体を直接変更し倍音を作り出します。方向性としてはヤマハFM音源や、カシオPD音源のような変調が可能ですが、最もコントロールするのが難しいカテゴリーです。ここでは細かな説明はしないので、よくわからない人は波形の雰囲気だけ見てもらいたいと思います。ひとつひとつは奥が深く、じっくり取り組む必要があります。
DeltaX(ヤマハFM音源風)
下はヤマハのFM音源に近いDeltaXです。基本的にはキャリアのサイン波が、あらかじめ用意されていて、モジュレータ波形は自由に作れます。つまり2オペレータ仕様となります。オペレータ数の不足分を補うためにオプションが用意され、波形もサイン波以外にしたり、モーフィングを駆使することで、簡単にFMの枠を飛び越えることができます。また、キャリアとモジュールは入れ替え可能です。

下はモジュレータに階段状波形を適用した例です。FM音源という枠からはみ出していきます。

Phase Distortion(カシオPD音源)
よくFM音源と比較されるカシオPD音源もあり、名称もストレートにPhase Distortionとなっています。これも原理を知っていないと使いこなせない仕様となっています。ここでは詳細は割愛しますが、見えない部分にマイナスコサインが用意され、それを描画カーブによって、歪ませています。下の例は描画カーブをモーフィングすることで、コサイン波の歪み方を変化させています。カーブの点数は重要で、遷移を決定します。

Sync
その他にも、ベクター処理の強みを生かしたSyncなど強力なエフェクトがあります。Syncの波形の動きは分かりやすく、図形的にスムーズに変化します。

Windowing Effects
このカテゴリーは、カーブを使って波形を変更します。視覚的に確認しやすい動作になるため、比較的理解しやすいと思います。
Dual Wave
カシオPD音源にある機能で、1周期の中にふたつの波形を無理やり入れてしまうということができます。Zebralette3ではモーフィングを駆使することで、さらに発展させることが可能となります。

Window
これもカシオPD音源にある機能です。u-he社長のUrs Heckmannさんが自分で買った初めのシンセはCASIO CZ-1000ということなので、PD音源への思い入れは強いようです。下の例はノコギリ波の中に数周期分のサイン波を入れてしまっている例です。波形は自由に作れますので、柔軟性は飛び抜けています。

Time Variant Effects
このカテゴリーは、アニメーションやモーションを作成します。独特の動きを加える装飾的なエフェクトが中心となっています。
Spectral Decay
時間軸に対して、倍音をカーブでコントロールすることができます。下はノコギリ波に適用した例です。Morphに設定したカーブも同じノコギリ波ですが、意味合いが異なります。横軸が周波数となるので、倍音成分が少ない特性となります。音を出すとノコギリ波の倍音成分が、すぐに減衰し、サイン波になって行くのが確認できます。

Twinkles
最後に紹介するのは、u-heとしては珍しく簡単に扱えて効果も明確なエフェクトです。どんな波形にもWind Chimesのような装飾を加えることができます。倍音を持たないサイン波に適用してみました。

次回はZebralette3のユニークな機能であるMSEGとモジュレーション・マトリックスを取り上げたいと思います。
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