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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その229 ~フェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手・海外遍PartⅤ~

2025-02-20

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

米国ネイティブ音楽の伝道師、ジョー・サンプル

フェンダー・ローズエレクトリックピアノの使い手特集は今回で5回目を迎えます。
今回、取り上げるのはキーボードプレイヤーというよりはピアニストであるジョー・サンプルです。
ジョー・サンプルは1939年、米国テキサス州生まれのピアニスト。幼少からピアノを始め、高校生の時にベースのウィルトン・フェルダー、トロンボーンのウェイン・ヘンダーソン、ドラマーのスティックス・フーパーとバンドを結成しています。1960年には「ジャズ・クルセイダーズ」としてプロデビュー。1972年に「クルセイダーズ」とバンド名を変更。
テキサスという土地柄を反映したアーシーでネイティブなジャズファンクスタイルは親しみやすく且つテクニカル。グルーブするリズムを売り物とし、人気を博しました。

そのクルセイダーズの中心となるのがピアニストであるジョー・サンプルです。
ジョー・サンプルはアコースティックピアノとローズピアノの両刀使いで、アコースティックピアノは勿論、ローズピアノを弾かせれば最高の音と最高のパフォーマンスで聴衆を魅了しました。
ジョー・サンプルは一般的にはジャズピアニストとしてカテゴライズされていますが、ジャズとはいっても4ビートジャスのピアニストからは一線を画しています。
ジョー・サンプルはストレート・アヘッドなハード・バップ的スケールはあまり使うことはありません。突っ込みぎみのリズムの捉え方も4ビートジャズのリズムの捉え方とは異なっています。
私の友人には「ジョー・サンプルのピアノはジャズではない」なんて言う人もいますが、クルセイダーズは4ビートのジャズを専門に演奏している訳ではないので、どちらがいいのかは好みの問題です。ある種それがジョー・サンプルの演奏スタイルであると私は思っています。
そういう意味ではクルセイダーズはジャズバンドではなく、ポップスに寄ったアーシー・ブルース・ファンキー・ジャズ・フュージョンのバンドと言ってもいいかもしれません(そんなカテゴリーはありませんが…)。

■ 推薦アルバム:ジョー・サンプル『虹の楽園』(1978年)

1978年にリリースした初のソロアルバム。ジョー・サンプルはこのアルバムで自身に内包するリリカルなメロディを全面に出した。
サンプルはクルセイダーズのメンバーに加え、サックスのアーニー・ワッツ、ギターのデイヴィッド・T・ウォーカー、バリー・フィナティー、パーカッションのポパウリーニョ・ダ・コスタなどのファーストコールミュージシャンを起用している。アーシーなクルセイダーズスタイルを洗練させる意図があったのかもしれない。
クルセイダーズの匂いを残しつつ、異なるベクトルを狙った楽曲も散見される。

推薦曲:「メロディーズ・オブ・ラブ」

ジョー・サンプルの中で私が一番好きな楽曲。ストリングスアレンジを聴くと古さは否めないが、メロディが美しい。
冒頭はメロディをアコースティックピアノが歌うが、その後に同じメロディラインをローズピアノが奏でる。
このローズピアノの音が素晴らしいのだ。多くのローズピアノの音を聴いてきたが、この楽曲におけるローズピアノの音は特筆に値する。ローズピアノの特徴である甘く、トロっとした味わい深い音を聴くことができる。ローズピアノの音と楽曲のメロディラインがピタリとハマった名曲。

■ 推薦アルバム:クルセイダーズ『ストリート・ライフ』(1979年)

クルセイダーズのポップな側面が商業的な成功に繋がり、バンドの認知度が跳ね上がったアルバム。
インストゥルメンタルという演奏に特化したスタイルは、セールスに直結しないのがこの手のバンドの難しいところだ。
ボーカルを迎えたこのストリート・ライフというアルバムは、いい意味でも悪い意味でもバンドのあり方を問われたアルバムとなった。
ジャズ系のアルバムからシングルカットされた楽曲がヒットして、アルバムセールスが上がるのは周知の事実。このストリート・ライフしかり、グローヴァー・ワシントン・ジュニアのアルバム『ワイン・ライト』からシングルカットの「ジャスト・トゥ・オブ・アス」しかりだ。
レコード会社はこの「ストリート・ライフ」に味をしめ、後のアルバムには必ずと言っていいほど、ボーカル・トラックを加えた。実際、クルセイダーズのボーカル・トラックだけを集めたベストアルバムをレコード会社はリリースしている。
このボーカルアルバムも聴き応えは十分にあるが、クルセイダーズとしてどうだったのかという疑問符は残る。

推薦曲:「ストリート・ライフ」

レコード会社は1979年にアルバム『ストリート・ライフ』からの同名の楽曲をシングルカットした。
リードボーカルはランディ・クロフォードを起用。曲は全米でヒットし、ビルボードチャートで36位を記録。ヨーロッパではUKシングルチャートで5位を記録している。

ローズピアノとサックスのデュオから始まりランディ・クロフォードの歌唱から展開する。クルセイダーズお得意のリズムとメロディ。ジョー・サンプルのローズのバッキングが心地よい。
この楽曲ではジョー・サンプルの強力なローズピアノソロが聴ける。突っ込み気味で中間部の駆け上がり部分で一瞬アウトさせるフレーズ展開はサンプルのお得意のパターン。これはビル・ウィザースが歌う楽曲「ソウル・シャドウズ」でも同様で、ある種の確信ではあると思うが、とてもカッコイイ。本人はわざとアウトさせているのか、それともスケールを弾いている認識だったのかを聞きたかったと思うのは私だけか?(笑)。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジョー・サンプル、スティックス・フーパー、ウィルトン・フェルダー、ランディ・クロフォード、ビル・ウィザースなど
  • アルバム:『虹の楽園』『ストリート・ライフ』
  • 推薦曲:「メロディーズ・オブ・ラブ」「ストリート・ライフ」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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