オーディオレコーディング、メディアプロダクション、ライブPAの世界への入り口がマイクです。マイクは物理的な活動を電気エネルギーに変換するデバイスの1つであり、マイクを設計するには、材料や構造、性能、用途などに対する、あらゆる種類の経験的な理解が必要です。
現在ではさまざまなマイクが存在し、独自の用途や性能をうたっています。しかし、ショットガンマイク、ステレオマイク、USBマイク、あるいはどこにでもあるハンドヘルドのボーカルマイクなどは、一般的に2つのカテゴリーに分類されます。ダイナミックマイクとコンデンサーマイクです。
大きな違いは、私たちが「音」と呼ぶ空気の振動を、マイクが「信号」と呼ぶ電流に変換する方法にあります。ダイナミックマイクはセルフパワー型であり、ファンタム電源や外部電源は必要ありません。
このページでは、ダイナミックマイクの特徴を紹介します。また、ライブマイクとして最適な特性や、手持ちのダイナミック型ボーカルマイクをより高いレベルで使用するためのEQのヒントもご紹介します。今回は、Samson Q8xダイナミック・ボーカル・マイクを参考例として使用します。

ダイナミックマイクの特徴とは
棒磁石をコイル状の針金の中を通すと、電流が流れます。これは電磁気学の一例です。また、逆に固定された磁石にコイルを通すとコイルに電流が流れます。ダイナミックマイクの内部には、ダイヤフラムと呼ばれる薄い膜があります。これが音波の圧力に反応して動きます。ダイアフラムの背後には、小さなコイル状のワイヤーがあります。振動板とコイルはつながっていて、磁石に対抗して前後に動きます。運動が電流を生み、最終的に音声信号となります。
ダイアフラム
ダイナミック型マイクの主要部品です。音の微妙なニュアンスに対応できるよう、非常に小さな質量のダイヤフラムが求められます。さらに、振動板の素材や構造には、強度と反発力のバランスが求められます。これには半硬質フィルムがよく使われます。振動板を強くすると、硬すぎて繊細な音に対応できず、脆くなり破れたり割れたりする可能性があります。また、柔らかすぎると、振動板が過剰に振動してしまい、メリハリのない音になってしまいます。
コイル
コイルの構造も音に影響を与えます。ワイヤーのゲージ、ターン数(ワイヤーがコイルに何回巻かれているか)、巻線の精度や均一性も、全体のトーン、レスポンス、出力レベルを決める要因となります。コイルの質量が増すと、ハイエンドのレスポンスは低下しますが、より高い音圧レベル(SPL)に対応可能です。Samson Q8xは、150dBのSPLに耐えます。
マグネット
最近のレアアースによる磁石の登場により、マイクの構造と性能は進化しています。Samson Q8xに搭載されているようなネオジム磁石は、他の磁石材料に比べてはるかに強力な磁場を提供し、質量も小さく、より軽量なボディと鮮明なサウンドを実現します。
トランス
適切な出力レベルとインピーダンスレベルを達成するのが、トランスの役割です。過大な入力信号でトランスを飽和させると、過負荷状態になり、信号がクリップして不要な歪みを発生させる可能性があります。Samson Q8xは、この種のクリッピングを最小限に抑え、より強力な出力信号を得るために、堅牢な高飽和特性のトランスを使用しています。
ダイヤフラム、コイル、マグネットを1つにして、マイクカプセルと呼びます。カプセルとトランスは、マイク出力コネクタに接続されています。カプセルはマイクのエンジンであり、ボディ部分にも性能を決める多くの要素があります。
良いマイクの条件とは
ライブでマイクを使用する場合、いくつかの課題があります。シンガーや楽器奏者がステージで共演する場合、指向性に優れたマイクを使用すれば、マイクに入る余計な音を最小限に抑えられます。また、適切なピックアップパターンを選択すれば、メインスピーカーやステージモニターからのフィードバックを抑制できます。エネルギッシュなボーカルには、ハンドリングノイズを最小限に抑え、信頼性が高い耐久性のあるマイクが必要です。もちろん、最高のサウンドを実現するには、ボーカルの全領域で優れた特性を持ち、明瞭さとメリハリのあるミックスができるマイクが必要です。
ピックアップパターン
ライブサウンド用のダイナミックマイクを選択する上で最も重要なのは、ピックアップパターンの理解です。ピックアップパターンは、カプセルの構造により実現されます。また、万能なパターンは存在せず、用途によって選択されます。
無指向性
無指向性マイクは、マイクの前方、後方、側方など、あらゆる方向からの音を等しく拾います。他のパターンと異なり、ボーカリストがマイクの前方から「軸ずれ」しても音が劣化しません。しかし、ステージ上で使用するには、無指向性マイクはいくつかの問題があります。
カーディオイド
カーディオイドパターンは、マイクの前方のピックアップゾーンを狭め、マイクの後方から来るサウンドを排除するため、ステージ上のモニタリングシステムなどからのフィードバックを防ぎます。しかし、マイクの中心軸から離れると低音レスポンスと忠実度が明らかに低下します。
ハイパーカーディオイド/スーパーカーディオイド
これらのピックアップパターンは、単一指向性のピックアップフィールドをさらに狭め、より高いレベルの指向性を実現します。その代償として、マイクの正面から外れると音を拾いません。もう1つの考慮点は近接効果です。近接効果とは、シンガーがグリルに極端に近づくと、マイクの低音域レスポンスに明らかな隆起を生じさせる現象です。Q8xマイクはスーパーカーディオイドパターンで設計されています。狭いピックアップ・パターンによる正確な音の分離と、適切なマイク・ハンドリング・テクニックにより、ボーカリストは声の魅力を最大限に発揮できます。経験豊富なボーカリストは、マイクから適切な距離を保ち、軸上で歌い、正しい位置を握って、スーパーカーディオイドによる設計をうまく補完するようにボーカルスタイルを合わせます。マイクを正しく扱わず、マイクのボールエンドに手を添えたり、グリルの下を掴んだりすると、マイクが無指向性のパターンで音を捕らえるため、音の分離が低下し、ハウリングの可能性が高まります。
ノイズ軽減
ノイズはオーディオを忠実に再生するときの障害となります。いったんノイズがオーディオシステムに入り込むと、信号と一緒に増幅・処理されてしまい、あらゆるパフォーマンスに影響を及ぼします。ライブ会場で優れた結果を出すために設計されたマイクは、初期の段階でノイズを最小化できるはずです。オーディオの世界には、RF(無線周波数干渉)ノイズ、ハム(電気)ノイズ、そして単なる物理的なノイズなど、あらゆる種類のノイズが存在します。ノイズの最小化は、ライブ用マイクの達成すべきゴールです。
フィルター
演奏中に破裂音を発生させる可能性のあるパ行の発音や歯擦音からノイズを保護するのがフィルターです。多くのマイクはグリルの内側にフィルターを装着しています。
アイソレーション/ショックマウント
ショックマウントは、マイクカプセルを本体から隔離し、ハンドリングノイズを低減させます。ハイパーカーディオイドやスーパーカーディオイドのピックアップパターンは、カプセルの真後ろに感度は小さいながら音を拾うポイントがあり、ボーカリストのハンドリングノイズを増加さてしまう可能性があります。Samson Q8xは、ユニークな空気圧式ショックマウントを使用しており、あらゆる状況下でカプセルによる優れた保護を実現し、ハンドリングノイズを最小限に抑えています。
電気部品に由来するRFノイズ
ローインピーダンス(Lo-Z)マイクをライブで使用するのは、ノイズを抑制するための最善の方法の一つです。ローインピーダンス(600 Ω未満)構成では、3芯のケーブルが必要となり、ホットとコールドとグラウンドに別々の電線が使用されます。アンバランスのハイインピーダンス(Hi-Z)ケーブルは、コールドとグラウンドを接合しています。3芯構造は、他の電気部品に由来するRF干渉やノイズを効果的に除去できます。Samson Q8xのような高性能ライブマイクは、内部に高効率オーディオトランスを搭載しており、S/N性能を向上させ、ハムノイズを除去する働きをします。
耐久性
ツアー中の環境は、機材にも厳しく、過酷です。ライブ・マイクは、毎晩のように常に働かなくてはなりません。マイクの構造は耐久性、信頼性、そして最終的にはマイクの価値に影響を及ぼします。Samson Q8xの場合、ボディは亜鉛合金のダイキャストで作られており、高い強度と腐食防止を実現しています。パフォーマンスを向上させる部品は、長期的な信頼性にも影響します。空気圧式ショックマウントは、ハンドリングノイズを減少させるだけでなく、マイクの落下などの衝撃からカプセルを保護します。グリルのフィルターは、シンガーの息による過剰な水分が、デリケートなカプセル部品に達するのを防ぎます。Samson Q8xは、スプリングスチールグリルを採用し、グリル内部の構造的によりグリルの変形を防ぎます。

論より証拠
では、ライブ会場で素晴らしい音を出すためのマイクには何が必要なのでしょうか。周波数特性、ダイナミックレンジ、低音のロールオフなどは性能を語る上で必然でしょう。これらの要素を最適化し、優れたボーカル用マイクをどう設計するかが課題です。Q8xは、最大150dB SPLの急な音圧レベルの入力に耐え、ライブサウンドの分野で理想的なパフォーマンスを提供します。Samson Q8xの周波数特性は、オーディオスペクトル全体にわたって滑らかで均一です。ローエンドのレスポンスは約150Hzでロールオフし始め、約50Hzで完全に10dB減少し、唸りを防ぎ、不快な重低音を軽減します。残りの周波数特性は、全体的にフラットな状態を維持し、中高域をわずかに持ち上げます、これはボーカル信号に存在感を与え、より明瞭にし、ボーカルが音楽の中で際立つように作用します。SPLレベル、低音のロールオフ、中音域のリフト、そしてピックアップ・パターンといった重要な仕様はすべて、サムソンのエンジニアリング・チームによるマイクのコンポーネント、カプセルの配置、その他の重要な要素の入念なエンジニアリングの結果なのです。

この記事はSAMSONによるA Closer Look at Dynamic Microphones, Part 1の翻訳です。