カバー・アートから聴こえてくる音楽
ヒュー・サイム(Hugh Syme)

RUSH『神々の戦い』
デザイナー、ディレクターとしてヒュー・サイムの名前を知っている方は、いわゆる通だと思います。彼がレコードジャケットのデザイナーとして世界的に有名になるのは80年代に入った時期から。それまではカナダのロックバンド「RUSH」のアート・ディレクションやデザインを担当しながら、イアン・トーマスのバンドでキーボードを担当していました。RUSHの作品には初期の3作目から関わり、アルバム『西暦2112年』においてはキーボード・プレイヤーとしても参加しています。そのくらい密接な付合いであり、そして、その関係は40年以上も続いています。今でもヒュー・サイムといえばRUSHのデザイナーと言う人が多いほどです。

RUSH『A Farewell To Kings』

RUSH 『Parmanent Waves』

写真右、女性の左手遥か後方。RUSHのメンバー名が建物に表示されています。レコード時代では楽しめたが、さすがにCDの大きさでは難しい。

初期RUSHの集大成となったライブ・アルバム『ラッシュ・ライブ~新話大全』
それまで発売されたRUSHのジャケット・キャラクターが一同に揃ったユニークなジャケットとなっています。
その作風から、イギリスのデザイン集団ヒプノシスと比較されがちですが、ヒュー・サイムの手法はメインにしっかりディレクションを行い、それに沿ってカメラマンが撮影。最終的にデザインを手がけるという少数精鋭の作業です。作風には主に2通りの表現があり、印象的なロゴや紋章を大きく扱ったものと、ストーリー性を持ったものとに分けられます。特に前者はCDというメディアが台頭してきた音楽業界において、存在をアピールし、彼の手がけた作品の中でも、ホワイト・スネイク『白蛇の紋章』やエアロスミス『ゲット・ア・グリップ』など、小さいサイズでもインパクトあるデザインが多いのが特徴です。

ホワイト・スネイク『白蛇の紋章』

エアロスミス『ゲット・ア・グリップ』

カヴァーデル・ペイジ『Coverdale and Page』
後者は初期RUSH以降のアルバムにおいて展開されていた手法です。ありえない光景を表現する点ではヒプノシスに似ていますが、ヒプノシスの様に大掛かりな撮影を行わず、画像のレタッチやコラージュをメインに作品を作り上げています。また、時に無機質に感じるトーンを抑えた色合いも作品の特徴。RUSHの成長に合わせ、ヒューの功績も認められ、カナダにおけるグラミー賞とでも言うべきジュノ賞を、80年以降何度も受賞しています。現在ではジャケット・ワークの仕事から、広告関係までと幅広い活躍をしています。

メガデス『Youthanasia』

ドリーム・シアター『A Dramatic Turn of Events』

ラッシュ『ムービング・ピクチャーズ』

ラッシュ『ムービング・ピクチャーズ』 のジャケット撮影シーン