こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第6回目では、ロサンゼルス出身のバンド、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine: 以下RATM)を取り上げます。彼らのことを一行で表現すると「ラップと朗読とロックの融合、ギターはギコギコギコ・キューキュキュキュー」です。
RATMは、ザック・デ・ラ・ロッチャ(vo)、トム・モレロ(g)、ブラッド・ウィルク(dr)、ティム・コマーフォード(b)から成り、1992年、『Rage Against the Machine』でデビューしました。ザックは、メキシコ系という自らのルーツをもとに、非白人の思想家や中南米の活動家に強く影響を受けて、政治色の強いメッセージを熱いラップで畳み掛けます。一方トムは、アフリカ系活動家の父、白人活動家の母のもとに生まれ、ハーバード大学を卒業して政治家の秘書として働いていました。しかし音楽家としての夢を諦めきれず、下積み時代には、金銭的に困窮してストリップ・ダンサーとして踊った経歴もあります。政治的主張はその二人が表に立ちますが、ブラッドとティムはもっぱら演奏に徹します。ブラッドは、鬼のような形相を浮かべながらパワフルなドラムワークを見せます。ティムは指弾き主体(時にはスラップ使用)、随所で歪ませた音色を使い、彩りを添えています。
さて、トムの何が「ギコギコギコ・キューキュキュキュー」なのか解説しなくてはいけません。トムの音楽的ルーツは、レッド・ツェッペリンやブラック・サバスなどの1970年代ロックです。しかし、それだけではなく、DJのスクラッチ・プレイにも大きなインスピレーションを受け、その音をギターで再現するために、ユニークな奏法を開発しました。そのサウンドを作り出す要素が3つあります。①デジテック・ワーミー、②ワウペダル(エフェクト・ループにつないでいる)、そして③フロント・ピックアップの音量をゼロにした状態でリア・ピックアップとの切り替えを繰り返す「スイッチング奏法」です。一方で、「ギター・サウンドには凝らない、その時間があったらオリジナリティを追求する」というポリシーを貫いています。そのため、アンプのセッティングはその頃から現在まで一度も変えず、使っているエフェクターも大きな変化はありません。それなのに、出てくる音は変幻自在なのです。
DIGITECH ( デジテック ) / WHAMMY5 ワーミーペダル
注:本人が使用しているのは初代ワーミーです。
デビュー・アルバムでは、”Killing in the Name””と”Bullet in the Head”でワーミーを2オクターブ上に設定しています。前者のソロでは、同じ音をトレモロ・ピッキングしながら、ペダルを踏み込む(=2オクターブ上)のと引く(=原音)のをテンポに合わせて動かして独特のサウンドを出しています。後者では、スイッチング奏法とアームを併用して、その曲のタイトルのように、爆弾が落ちる音を再現しています。”Know Your Enemy”では、原音と5度上の音を同時に出し、それにスイッチング奏法を加えて、ギターとは思えないような音色となっています。
■ Bullet in the Head
■ Know Your Enemy
オリジナルな音の追求は2枚目『Evil Empire』でさらに進みました。オープニング曲”People of the Sun”では、六角レンチを5弦にこすった音を「ギコギコギコ」というリフにしています。『Bulls on Parade』では、イントロのブレイク部分で独特なワウ・サウンドが聴けるほか、ソロではスイッチング奏法を使って「キューキュキュキュー」というDJ風のギター・ソロを展開しています。『Vietnow』では、ワーミーを用いた1オクターブ下の音にワウをかけて、間奏で「グニャ~」とした音を出すほか、エンディングではデジタル・ディレイを短めにセッティングして、マシンガンのような音を出しています。『Down Rodeo』では、同じワーミーのセッティングを用い、Bメロ部分ではトーンを絞って、ゲームサウンドのような効果を醸し出しています。
■ People of the Sun
■ Bulls on Parade
トムのもう一つの特徴はフロント・ピックアップの多用です。一部例外はありますが、ほとんどのリフは(リアではなく)フロントで弾かれています。なおメンバーたちは1作目のプロダクションに不満を漏らしていましたが、2作目は名プロデューサー、ブレンダン・オブライエンのおかげで、最高級のサウンドプロダクションになっています。
バンドの活躍とともにメンバー間の軋轢は増加し、2000年にザックは脱退を表明。他の3人は、サウンドガーデンのヴォーカリスト、クリス・コーネルとともにオーディオスレイヴを結成しましたが、アルバム2枚の後に解散してしまいます。その後も再結成と活動休止を繰り返し、2008年には来日公演も行っています。活動休止間中、ザックはほとんど表舞台に出ず、他のアーティストとレコーディングしたもののお蔵入りするなど、継続的な音楽活動とは言えない状況にあります。一方、トムはとにかく精力的で、アメリカの国民的シンガー、ブルース・スプリングスティーンのツアーに参加したほか、自身のソロ作品を相次いで発表しています。2016年、ザック以外の3人は、パブリック・エネミー、サイプレス・ヒルのラッパー達とともにプロフェッツ・オブ・レイジを結成し、ツアーの他、ライヴ・アルバムも発表しましたが、2019年にはRATM活動再開のため解散しています。ブラッドはブラック・サバスなどのレコーディングに参加したり、ティムはアーニーボール・ミュージックマン社のシグネチャー・モデルを発表したり、それなりに活動しています。RATMは活動再開に伴うツアーを発表しましたが、新型コロナウイルス感染症の流行により延期されています。
個人的には、1999年(フジ・ロック・フェスティバル)、2000年(幕張メッセ)、2008年(幕張メッセ)の来日公演を観ることができました。特に、2000年のときには観客のあまりの熱狂ぶりに、倒れそうになったことをはっきりと思い出します。オープニングでは、ザックが必ずお約束の台詞を唱えるのですが、ライヴ・アルバムを聴くたびに当時の興奮が蘇ってきます。
“Good evening. We’re Rage Against the Machine, from Los Angeles, California!”


2000年幕張メッセ公演のセットリスト(実物コピー)・チケット
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