ロバータ・フラックの訃報
今朝、朝食をとりながら無音のテレビ番組を視聴していたところ、見たことのある黒人女性の映像が目に入りました。
TV画面右上のサイドスーパーに目を移すと歌手のロバータ・フラックの訃報だということが分かりました。
私は黒人の音楽を好んで聴くタイプの人間ではありませんが、ロバータ・フラックはつい半年程前に私自身が所属するバンドであの名曲を演奏したばかりでした。
ロバータ・フラックは1937年生まれ。米国ノースカロライナ州出身の歌手でコマーシャルソングの「優しく歌って」など、懐の深い歌唱で知られる世界を代表するピアニストでありシンガーでした。
また、貧困世帯の子供に無料で音楽教育を受けさせる慈善活動にも尽力したほか、児童向けの本を執筆するなど、芸術家としても知られていました。
2022年に筋肉が動かなくなる難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたと公表、演奏活動から引退していました。
死去したのはニューヨークで病院への搬送中だったといいます。死因は心不全。享年88。
心よりお悔やみを申し上げます。
今朝の友人との会話とコマーシャルソングの原点
2月26日の朝に音楽の話をする友人記者とすれ違い、ロバータ・フラックの話になりました。朝刊にロバータ・フラックの訃報記事が載っていたためです。
友人記者はビートルズマニアであり、マーチンD-28やギブソンJ-45 、フェンダー・テレキャスター(USA)を所有するギターマニア。またフルート奏者でもあるなど、幅広く音楽に関わっている人です。
そんな彼に先日たまたま貸したのがロバータ・フラックのCDでした。彼のコメントは楽曲が優れていることと、ワン&オンリーなその歌唱についてでした。
そしてあのネスカフェのコマーシャルフィルムで知られるあの歌、「優しく歌って」への思い出に花が咲きました。あのコマーシャルソングは実際にロバータが歌っているのか、それとも別の歌手が歌っているのか…正直なところ私には分かりませんでした。
食品メーカーはコマーシャルにお金をかけることから、海外の歌手をスタジオに呼び、実際の商品名を歌わせるという手法はバブル期にはよくありました。
この「優しく歌って」がそうなのかは分かりませんが、一度聴いたら忘れることのできない美しいメロディラインは多くの人の心を鷲掴みにしました。同年代でこのコマーシャルソングを知らない人はいない…と断言できる程、心に焼き付いて離れない、そんな名曲です。コマーシャルソングでの成功例の原点が「やさしく歌って」なのだと思います。
昨日は私の所属している電気ジャズバンドの練習日でした。我々は自分達が取り上げているロバータ・フラックの曲を演奏しました。
その楽曲は「やさしく歌って」であり、「君の友達」であり、「フィール・ライク・メイキン・ラブ」でした。
ロバータ・フラックに捧げる…なんていえば偉そうかも知れませんがメンバー達にはそんな気持ちがあったのだと思います。
「フィール・ライク・メイキン・ラブ」はこのバンドで長く演奏している曲です。インストでやっているのでピアノで歌うのはとても難しく感じます。
イントロはボブ・ジェームス・バージョンとジョージ・ベンソン・バージョンがあります。しっとりとさせたい場合はボブ・ジェームス・バージョンでFm9とB♭△9の2コードを分散和音で弾きます。また賑やかにしたいのならば、ジョージ・ベンソン・バージョンでA♭△9/Gm9/Fm9/Cm9のコードトーン8小節繰り返し、Aメロに入ります。
昨日の練習ではあまりしっとりしたくなかったのでジョージ・ベンソン・バージョンで演奏をしました。この楽曲はカバーしているミュージシャンが多く、数多くのアレンジが存在します。
我々のバンドでは通常の16ビートで演奏した後にドラマーとベーシストからの提案でサビ部分のみを4ビートで演奏をしてみました。4ビートになると浮遊し、滑っていく感覚が強くなります。私はとてもやりがいのある曲だと思っています。
■ 推薦アルバム:ロバータ・フラック 『やさしく歌って』(1973年)

1973年リリースのロバータ・フラック4枚目のアルバム。このアルバムからシングルカットされた「やさしく歌って」が大ヒットする。
ビルボードのR&Bアルバムチャートで2位を獲得し、ゴールドディスクも獲得。グラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされるも受賞を逃すという曰く付きのアルバムでもある。
推薦曲:「やさしく歌って」
ロバータ・フラック自身がメインのアレンジを手掛けている。音楽大学で音楽を学んだロバータにとってはアレンジを自身で考えるのは当然なのかもしれない。
シングルカットされたこの曲はビルボードで1位を獲得。グラミー賞では3冠に輝いている。
この楽曲はあまり名の知れていない若い歌手と作家が手掛けた。航空会社が取り上げたこの曲をロバータ・フラックが飛行機に搭乗した時に気に入り、録音。大ヒットに繋がったという。
楽曲は壮大でドラマチックかと思いきや実際はそうではない。ロバータ・フラックは黒人特有のネチネチとした歌い方はしていない。特に力むことなく、声を張り上げることもない。高音部で微妙に掠れる声質がロバータの持ち味だ。サラッと歌っている。それがいいのだ。押しつけがましさのない歌唱が心に沁みる。「Less is more」とはこういうことを言うのだろう…と思う。アウトロ部のスキャットが心に残る。
バックの演奏も最低限の音でロバータの歌唱を引き立てることに徹している。鍵盤はフェンダー・ローズエレクトリックピアノだ。こういった楽曲にローズピアノはピタリとハマる。
■ 推薦アルバム:ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ 『きみの友だち』(1972年)

1972年にリリースされた黒人ソウルシンガーの巨匠であるロバータ・フラックとダニー・ハサウェイ2人によるデュオ・アルバム。
息の合った二人の歌声はある種の永遠性を感じてしまう程の素晴らしさだ。そのハーモニーがアルバム全体を包み込んでいる。
推薦曲:「きみの友だち」
キャロル・キングの名盤、『つづれおり』に収録された「君の友達」のカバーバージョン。この楽曲ではキャロル・キングのイントロアレンジとは異なり、ダニー・ハサウェイのバージョンをメインにしている。
フェンダー・ローズエレクトリックピアノの深くビブラートがかかったイントロからスタートする。
ダニー・ハサウェイのライブでは、同曲のイントロをウーリッツァーが奏でる泥臭い展開。一方、こちらの「きみの友だち」はローズピアノの音によりダニーのライブバージョンとは違う洗練された印象を受ける。
全編にわたり、アコースティック・ギターがリズムを切っているアレンジが面白い。
■ 推薦アルバム:ロバータ・フラック 『フィール・ライク・メイキン・ラブ』(1975年)

大名盤「やさしく歌って」に続く、1975年のロバータ・フラック5枚目のアルバム。ロバータの歌唱は円熟味を増し、脂が乗りきっている。
推薦曲:「フィール・ライク・メイキン・ラブ」
ボブ・ジェームスやジョージ・ベンソンのイントロとは異なり、フェンダー・ローズエレクトリックピアノのワンコードのみのイントロであっさりと始まる。
ロバータの歌唱といえば力みなどは一切なく、サラッと歌い上げている。黒人特有の押しの強さがないのがロバータ・フラックの魅力でもある。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ロバータ・フラック、ダニー・ハザウェイ
- アルバム:『やさしく歌って』『ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ』『フィール・ライク・メイキン・ラブ』
- 推薦曲:「やさしく歌って」「きみの友だち」「フィール・ライク・メイキン・ラブ」
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