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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その230 ~フェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手・海外遍PartⅥ~

2025-02-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

ジャズをベースにしたクロスオーバー・ミュージックの担い手 ロビン・ラムリー

今回、6回目となるフェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手は、これまでと少し趣向を変え、英国のジャズ・フュージョンバンドであるブランドXのキーボーディスト、ロビン・ラムリーを取り上げます。

ブランドXというバンドはあまりメジャーではない為、ご存じの方は多くないと思います。
ブランドXは1974年、英国ロンドンで結成されたエレクトリックジャズ・バンドです。昨今ではジャズフュージョンなどとカテゴライズされますが、当時はフュージョンという言葉はなくクロスオーバーと呼んでいました。

1960年代後半から1970年代前半にかけて、マイルス・デイヴィスなど先進性の高いジャズミュージシャン達がエレクトリック化したジャズ、新しいジャズに取り組みました。アコースティック楽器は使わず、電気楽器を積極的に導入し「新たな電気ジャズの創造」という時代的なブームの到来でした。

エレクトリック化したジャズに必要だったのは、アコースティックベースではなく、エレキベースであり、アコースティックピアノではなく、エレクトリックピアノでした。その流れの中で使われたのがローズピアノでした。マイルスのバンドではチック・コリアやキース・ジャレットなどがローズピアノを弾いていました。
ジャズのエレクトリック化の傾向はアメリカだけではなく、ブラジルやイギリスにも波及。そんな時代の中、ブランドXは誕生しました。

ブランドXはアメリカのジャズロックをベースにしながら、英国特有のダークで高湿度なアイデンティティを添加した特有の音楽を展開しました。また、変拍子も多用するバンドで、難解な楽曲の中に変拍子が混じると更に難解になるパラドックス的側面も持ち合わせていました。

ブランドXのメンバーはキーボードのロビン・ラムリー、ギターのジョン・グッドソール、ベースのパーシー・ジョーンズ、ドラマーはフィル・コリンズ。フィル・コリンズは英国プログレシブロックの雄、ジェネシスのドラマーであり、ブランドXのドラマーでもありました。

ロビン・ラムリーはブランドX結成前の1975年にリリースされた英国のジャズプログレバンド、アイソトープのサードアルバムをプロデュースしています。そういう意味ではロビン・ラムリーはバンドにおけるプロデューサー的存在でもあったのではないでしょうか。
ロビン・ラムリーはこの手のテクニカルなジャズ系インスト志向が強く、プレイヤーであり、且つバンドの音楽を俯瞰することに長けたキーボーディストであったと考えられます。

ロビンのプレイは細かなパッセージを混ぜたパーカッシブでテクニカルな演奏を得意としています。アメリカのブルース系の影響はあまり見られず、ライブ時にはローズピアノの上にミニモーグ・シンセサイザーを載せ、左手側にソリーナを置き、ワン&オンリーなプレイをしていました。

■ 推薦アルバム:ブランドX『モロッカン・ロール』(1977年)

1977年リリースのブランドXの傑作セカンド・アルバム。
ブランドXでロビン・ラムリーと共に核になるプレイヤーがベーシストのパーシー・ジョーンズ。1970年代後半においてフレットレス・ベースを前面に出した演奏は筆舌に値する。当時のフレットレス・ベースの使い手と言えば、ジャコ・パストリアスだ。ジャコに比肩するプレイヤーは後にも先にもパーシー・ジョーンズしかいないと私は確信している。そこにジョン・グッドソールの高速フレーズが重なり、ロビン・ラムリーの鍵盤が楽曲全体を覆うとブランドXの世界が出現する。セカンド・アルバムだが既にブランドXのバンドサウンドは完成されている。

もう1点、ブランドXについてコメントしておくことがある。それはレコード・ジャケットだ。
ブランドXのレコード・ジャケットは英国のレコード・ジャケット制作集団である「ヒプノシス」が担当している。「ヒプノシス」の代表作は多数あるが、ピンクフロイドの一連の作品である『狂気』『炎』『おせっかい』『神秘』『アニマルズ』などを見ればその仕事ぶりは理解できる筈。
ファースト・アルバムからブランドXのアートワークはヒプノシスが担当している。
その独特の世界観はブランドXのジャケットが音楽一部であるかのようなベストマッチングだ。

推薦曲:「Malaga Virgen」

パーシー・ジョーンズのベースが唸りをあげる超絶難関曲。こんなベースを弾ける人はパーシーくらいしかいないだろう。
当時、このベースプレイは音楽をやっている人の間ではかなり話題となった。
中間部での各楽器のソロの掛け合いで聴けるロビン・ラムリーのローズピアノのプレイは秀逸。点画的な切れの良いローズピアノのプレイは殆どサスティンペダルを踏むことなく展開する。
リズムのキレが良く、細かな高速パッセージを得意とするロビンはローズピアノ同様、ミニモーグ・シンセサイザーの演奏もエンベロープのリリースタイムは殆ど0でプレイしている。アタックの強いサスティンのない音色が好みなのだ。
そんなロビンのプレイは、テクニカルでキメを多用するスリリングなブランドX全体の楽曲にも反映されている。

■ 推薦アルバム:ブランドX『ライヴストック』(1977年)

ブランドXの傑作ライブアルバム。このアルバム・ジャケットも「ヒプノシス」によるものだ。
アルバムの1曲目がナイトメア・パトロール。「悪夢の巡視」なのでジャケットとも見事にリンクしている。
スリリングで高度な技術に裏打ちされた演奏はブランドXの真骨頂。そんな楽曲が並ぶ。
ジェネシスではカリスマ性の高いボーカリスト、ピーター・ガブリエルのバンド脱退騒動があり、その後、フィル・コリンズはボーカリストとしてブレイクする。
フィルの穴を埋めているはジャズ・ギタリスト、パット・マルティーノのドラマー、ケンウッド・デナードだ。ケンウッド・デナードは後にギル・エヴァンス・オーケストラのドラムを叩いていることから、高い技術を要求されるブランドXでも全く問題はなかったのだろう。
私は1989年にギル・エヴァンス・オーケストラを聴いているがそのテクニックはかなりのものだった。

推薦曲:「ナイトメア・パトロール」

グットソールのアルペジオと、パーシー・ジョーンズによるベースのハーモニックスが空間を彩る中、矩形波のミニモーグ高速フレーズから展開し、楽曲テーマが始まる。テーマ終了直後、ラムリーの弾くローズピアノの速弾きソロが聴ける。こういった夜のムードが強い楽曲にローズピアノの音はとても相性がいい。
この楽曲はフィル・コリンズではなく、ケンウッド・デナードが叩いている。フィル・コリンズが叩くビートよりもケンウッド・デナードのビートの方がタメを効かせたドラミングで楽曲全体のせせこましさなくなる。
ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)が得意とするディミニッシュ系のキメフレーズが悪夢のイメージを増幅させている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ロビン・ラムリー、フィル・コリンズ、ケンウッド・デナード、パーシー・ジョーンズなど
  • アルバム:『モロッカン・ロール』『ライヴストック』
  • 推薦曲:「Malaga Virgen」「ナイトメア・パトロール」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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