クラシック鍵盤の使い手、ジェフ・ローバー、当然ローズピアノも
フェンダー・ローズエレクトリックピアノ、ローズピアノ使い手特集の4回目です。
今回取り上げるキーボードプレイヤーはジェフ・ローバーです。
ジェフ・ローバーは1952年、米国フィラデルフィア出身のジャズ・フュージョン系キーボードプレイヤー。作曲家であり音楽プロデューサーでもあります。
ファンキーなサウンドと独自のコード感によるワン&オンリーなメロディーラインはジェフ・ローバーの特徴であり、人気を博しています。
バークリー音楽大学を卒業後、1977年に自身の音楽ユニット「ジェフ・ローバー・フュージョン」を結成。シンセサイザーなど電気鍵盤楽器を駆使したサウンドは鮮烈かつ斬新で、当時の音楽好きからは大きな支持を得ました。
一方、ジェフ・ローバーはデビュー当初からフェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手として知られ、殆どのアルバムでローズピアノを使っています。
1982年には「ジェフ・ローバー・フュージョン」の活動を休止。『イッツ・ア・ファクト』でソロ・デビューを果たします。また、リーダーアルバムを出さない期間もあり、マイケル・フランクスのプロデュースやハープ・アルバートとも共演するなど、その活動は多岐に渡っています。
2010年には「ジェフ・ローバー・フュージョン」を再開するなど、ミュージックシーンの最前線に戻り、活動を続けています。
また、ジェフ・ローバーのバンドからはケニー・Gやデイヴ・コーズといった人気サックス奏者を輩出しています。
■ 推薦アルバム:ジェフ・ローバー&チャック・ローブ『BOP』(2015年)

2015年、ジェフ・ローバーが盟友のギタリスト、チャック・ローブと共演したジャズアルバムをリリースした。
クレジットされている楽曲はセロニアズ・モンクの名曲、「ストレート・ノー・チェイサー」や「ラウンド・ミッドナイト」、ラテンジャズのスタンダード「チュニジアの夜」、チャーリー・パーカーのスタンダード「ドナ・リー」、ソニー・ロリンズの「セント・トーマス」など、ジャズの超スタンダードばかりで構成されている。
メンバーはチャック・ローブ(g)、ジェフ・ローバー(key)、ハーヴィー・メイソン(ds)、ブライアン・ブロンバーグ(b)、ジョン・パテトゥチ(b)、ランディー・ブレッカー(tp)、ティル・ブレナー(tp)、エリック・マリエンサル(as)など、ジャズ、フュージョン界ではファーストコールであるミュージシャン達が一堂に会している。メンバーとしては信じられない程のミュージシャン達だ。
何故この様なアルバムがリリースされなかったのかと言えば不思議な気もするが、名の知れたスタンダードナンバーをアコースティックピアノではなく、エレクトリックピアノで演奏するというのをあまり聞いたことがないからだ。しかもアルバムを通して全て名の知れたスタンダートというのもかなりのレアケースだ。
チック・コリアがリターン・トゥ・フォーエバーでフェンダーローズ・エレクトリックピアノを使い、独自のジャズを展開した時には賛否両論があった。
チックはこのバンドではスタンダードは演奏せず、自身のオリジナルで勝負をした。
ジャズという音楽は演奏者も聴き手側も「アコースティック楽器を使って表現する音楽」という、ある種の固定概念がある。電気ジャズのアルバムで1-2曲のスタンダードを入れることはあっても、アルバムを通して全曲スタンダードでしかもアコースティックピアノではなくフェンダーローズ・エレックトリックピアノを使うという、そんなアルバムは聞いたことがないのだ。
アルバムクレジットを見るとジェフ・ローバーは通常keyとクレジットされているが、このアルバムではあえて「Rhodes」とクレジットされている。Rhodesとはフェンダーローズ・エレクトリックピアノのこと。これはジェフ・ローバーのアピールであり、こだわりなのだろう。
しかも全編4ビートで…そんなことは許される訳がない。「邪道だ!」と眉をひそめるジャズ好きも多いだろう。
かつてマイルス・デイビスがアルバム『ビッチェズ・ブリュー』や『キリマンジャロの娘』などでローズピアノを導入した経緯はあるがジェフ・ローバーの中にもマイルスに繋がる先進性があったのかもしれない。
逆に私はとても新鮮にこのアルバムを聴くことができた。
元々、ジャズは暗く重い夜のイメージ(ばかりではないが…)。そして暗さや重さに纏わり付く、たばこの煙やドラッグの匂いがする音楽だった。それはそれで愛すべき立派なジャズだった。
一方、ローズピアノで演奏することで何故か暗雲がどこかに流れ、「すっきりと健康的な音楽」に変わってしまった。言い過ぎかもしれないが、これまでのストレートアヘッドなジャズが別なカテゴリーの音楽に変質した印象を受けた。あくまでイメージなのだが…。
昨今の傾向としてハモンドオルガンやローズピアノは電気楽器ではあるがアコースティック楽器的な捉え方をしているミュージシャンも多い。ジェフ・ローバーはそちら側の音楽人なのだろう。
一方ジェフは、最近のサンプリング系のシンセサイザーやデジタルシンセサイザーに手を染めることはなく、ローズピアノ、アコースティックピアノ、ハモンドオルガン、シンセサイザーはミニモーグというアナログシンセサイサーのみというこだわりでリリースされたアルバムも多い。線の弾き方にジェフ流のこだわりがあるのだ。
私は87年にジェフ・ローバーのステージを見ているが、その時の機材群は圧巻だった。
ヤマハDX7、ローランドD-50、コルグM1、イミュレーターⅡなど最先端のデジタルシンセサイザーが山のように積み上げられ、バンドはリンドラムマシーンのリズムでコントロールされていた。人間が機械に合わせる音楽だった。
推薦曲:「ドナ・リー」
チャーリー・パーカーの高速フレーズで知られる難解曲。ジャコ・パストリアスのソロアルバムで取り上げられ、広く名が知られるようになった。
ジェフ・ローバーのローズピアノは4ビートジャズにのっとり、正当なコンピング(バッキング)をしている。アドリブバートもあくまでストレートアヘッドなフレーズを繰り出している。フォーマットは完全なジャズであり、違うのはアコースティックピアノかローズピアノかの差にすぎない。ジェフはどこまでも軽やかにジャズ的常套フレーズも混ぜながらスピード感のある展開をしている。
ローズピアノがジャズのフォーマットに入ることで違和感があるのかと言えば、そうではない。しかし楽曲のムードは違って聴こえる。この辺りの変化はとても興味深い。
ひょっとしてジェフはこの変化を分かっていながら確信的にこのフォーマットを試みたのかもしれない。
推薦曲:「ジャイアント・ステップス」
ジョン・コルトレーンの超難解局。ジョン・パティトゥッチが繰り出す4ビートが強力。ジョンはエレクトリックベースではなくアコースティックベースを弾いている。アドリブパートで最初に登場するのがギタリストのチャック・ローブだ。ローブのギターが難解なコード進行の上を軽やかにスイングする。2番目にはジェフ・ローバーのローズピアノのソロ。どこまでも軽やかなアドリブパートであるものの4ビートジャズにおけるローズの鳴らし方は堂に入っている。ランディー・ブレッカーのトランペットソロもこのアルバムの聴きどころだ。
このメンバーを見るとどちらかと言えばフュージョン的なアプローチになるかと思いきや、全くそうではない。ジェフのローズピアノはあくまで正当なジャスを理解した延長上にあることが分かる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ジェフ・ローバー、チャック・ローブ、ジョン・パティトゥッチ、ランディー・ブレッカーなど
- アルバム:『BOP』
- 推薦曲:「ドナ・リー」「ジャイアント・ステップス」
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