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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その3

2020-06-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

今回はキーボーディスト、リック・ウェイクマンを擁するバンド「イエス」です。「イエス」のリック・ウェイクマンとミニ・モーグシンセサイザーや周辺楽器と推薦アルバム、推薦曲を紹介です。

イエス / キーボード奏者:リック・ウェイクマン

プログレッシブロックの王道バンドといえばイエスです。イエスは1969年にファースト・アルバムをリリース。現在も活動中です。絶頂期の代表アルバムは「こわれもの」と「危機」。アルバムメンバーはジョン・アンダーソン(ヴォーカル)、リック・ウェイクマン(キーボード)、スティーブ・ハウ(ギター)、クリス・スクワイア(ベース)、ビル・ブルーフォード(ドラム)という最強面子です。

リック・ウェイクマンの使用楽器はミニ・モーグ2台、ハモンドC3、メロトロン2台、RMIエレクトリック・ピアノ、生ピアノなど。ウェイクマンもミニ・モーグを好み、ライブでは2台のミニ・モーグをメロトロンの上に置き、使用していました。

リック・ウェイクマンのキーボードセット
イエスソングス ライナーノーツより

MiniMoog synthesizer(イメージ)


■『こわれもの』(1971年)より

推薦曲:「燃える朝焼け」「ラウンドアバウト」

名盤、「こわれもの」の代表曲は「燃える朝焼け(Heart of the Sunrise)」「ラウンドアバウト(Roundabout)」です。「燃える朝焼け」ではベースの延々と続く、ゆったりとしたリフにギターによる冒頭の高速キメテーマが被さり、小節の頭が合ったところで全員が高速キメテーマのユニゾンになる(こういうところが素敵なのです!)。超高速キメフレーズ後に全く異なるリフがきて、変拍子が続き、また異なるリック・ウェイクマンのミニモーグによる高速キメフレーズが出現するなど、ライブ演奏は無理だろうとリリース当時は云われていました。それほどに曲が難しく、高度だったのです。その中でウェイクマンが操るミニモーグが随所にしかも、効果的に配置されています。

「ラウンドアバウト」は美しいギターのイントロから始まり、ギターリフにミニモーグの印象的なカウンターメロディが被さります。後半の長尺ソロはハモンドC3オルガンによるもので、ギターとの掛け合いも含め、ウェイクマンの真骨頂フレーズが聴けます。


■『危機』(1972年)より

推薦曲:「危機」「同志」

もう一つは大名盤でイエスの頂点と云われた「危機」。表題曲の「危機(Close To The Edge)」「同志(And You And I)」「シベリアンカートゥル(Siberian Khatru)」が入っています。超高速キメフレーズ、変拍子のオンパレードでイエスの楽曲は難曲揃いと書くと、とっつきにくく、難しい音楽だと思う方もいるかもしれません。しかし、イエスの曲は部分的に難解でもメロディーはとても分かりやすく、非常にポップな楽曲が多いのです。「こわれもの」も「危機」もメロディー的にはとてもポップです。イエスが人気を得た背景にはメロディーのわかりやすさと曲の構成力、高い演奏力が隠されています。

「危機」は熱帯雨林のジャングルを思わせる鳥の鳴き声などのSEから始まります。ギターの導入部からリック・ウェイクマンのハモンドオルガンによるバッキングなのかソロなのか解からない高速アルペジオが展開します。 ミニモーグの出番は4部構成の3部「盛衰」と4部「人の四季」の中間部です。最終章への展開を思わせるポルタメントのかかった、ミニモーグの代表的な音(鋸歯状波・ノコギリ波)がファンファーレ的なメロディーを奏でます。その後にハモンドオルガンによるウェイクマンの強力なソロがあります。鍵盤フリーク的には一番の「危機」の聴き所!です。ロックキーボーディストの多くはブルースの影響を少なからず受けていますがウェイクマンのルーツはクラシックのため、クラシカルでロックなソロが展開されます。

「同志」の聴きどころはギターのカッティングストローク後に入るミニモーグのテーマ。このテーマはモーグの矩形波を使い、ポルタメントを操作してウェイクマン特有のフレーズを展開しています。「同志」後半ではこの音での強力なソロが聴けます。必聴!また、イエスソングスの同志では同じ個所でスタジオ盤以上の強力ソロが楽しめます!


■『イエスソングス』(1973年)より

推薦曲:「燃える朝焼け」『ヘンリー八世の六人の妻』より「アラゴンのキャサリン」~「ハレルヤ」

イエスの名盤、「イエスソングス」。このアルバムはライブアルバムでレコードでは3枚組という長尺です。イエスは再現不可能と云われた難曲をこのアルバムで演奏。ものの見事にスタジオ盤以上のクオリティで演奏しています。美しいコーラスワークも含めてです。

ライブ構成の一部にリック・ウエイクマンのソロパートがあり、2台のミニモーグが大フィーチャーされています。演奏曲はリック・ウェイクマンのソロアルバム、「ヘンリー八世の六人の妻」より抜粋で「アラゴンのキャサリン」。RMIエレクトリックピアノによるテーマから始まり、ミニモーグ得意の鋸歯状波(ノコギリ波)の音が聴けます。また、シンセサイザーの特徴であるポルタメント(音間が切れずに音程がスライドする効果)を使い、シンセサイザー独特の演奏をしています。イエスのライブ映像を見ると、ミニモーグのポルタメント(グライド)タイムのノブを低音から高音に弾く際には長い時間にし、音が上がり切った瞬間にボルタメントのノブで、ポルタメントタイムを短くするという、鍵盤だけでなく、ミニモーグのパネルの素早い操作でシンセサイザー的ムードを演出しています。


今回取り上げたアルバム、曲名、使用鍵盤

  • イエス / リック・ウエイクマン
  • アルバム /「こわれもの」「危機」
  • 曲名:燃える朝焼け、ラウンドアバウト、危機、同志
  • 使用楽器:ミニモーグ2台、メロトロン2台、ハモンドC3、RMIエレクトリックピアノ、生ピアノなど

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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