秒読み段階に入った新作ミッション:インポッシブル「ファイナル・レコニング」
夕方のエンタメ系ニュースでトム・クルーズが三鷹の森ジブリ美術館に来たことを知りました。
トム・クルーズはミッション:インポッシブルの「ファイナル・レコニング」のプロモーションで3年ぶりに日本を訪れていたのです。
ミッション:インポッシブルの作曲者はジャズ・ミュージシャンでもあった!
トム・クルーズの出演しているミッション:インポッシブルのタイトル曲を聴いた時に「ん?これはもしかして…」と頭が混乱しました。随分前の話です。
調べてみると、このタイトル曲はトム・クルーズの主演する映画のタイトル曲ではあるのですが、50年以上も前に日本で放送されたアメリカのテレビドラマのテーマ曲だったことが分かりました。頭の混乱は整理されました。
ドラマのタイトルは「スパイ大作戦」。若い方はご存じないかもしれませんが、トム・クルーズ主演のミッション:インポッシブルのテーマ曲はリ・アレンジされて使われていました。ミッション:インポッシブルの第一作目が「スパイ大作戦」を元に制作された映画だったからです。
この「スパイ大作戦」は1967年から日本ではフジテレビ系列で放送されていました。このドラマはエミー賞を獲得しており、それだけ優れたドラマだったのです。
私はドラマの内容は全く記憶していませんが、導火線に火が付いたタイトルと音楽だけは、はっきりと覚えていました。
子供の脳みそに刻まれた5拍子の特異なメロディは何かが始まる緊張感に満ちていました。シンプルかつ鮮烈でした。
そのタイトル曲を作ったのがアルゼンチンの作編曲家でジャズ・ミュージシャンでもあるラロ・シフリンです。
ラロ・シフリンはサウンドトラックを手がける映画音楽の巨匠で「ミッション:インポッシブル」の他、「燃えよドラゴン」や「ダーティ・ハリー」「ブリッド」など、数多くの名作を残しています。
「ミッション:インポッシブル(スパイ大作戦)」のテーマはグラミー賞も獲得。ラロ・シフリンのグラミーはこれだけではなく、21回グラミーにノミネートされ、4回もその栄誉に輝いています。
そしてラロ・シフリンはサウンドトラックに留まるだけではなく、自らのソロアルバムを含め多くの作品を残しています。まさに八面六臂の活躍を誇る世界の大巨匠なのです。
ラロ・シフリンの背骨はジャズと南米ラテン感覚のハイブリット音楽
ラロ・シフリンは1932年生まれのアルゼンチンのジャズピアニストで作編曲家。20歳の時にパリに渡り、音楽教育を受ける中、ジャズピアニストして生計を立てます。
23歳の時にバンドネオン界の巨匠アストル・ピアソラと共演。パリ国際ジャズフェスティバルに出場します。
交流範囲はピアソラだけに留まらず、トランペット奏者のディジー・ガレスピーやアルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーなど、多くのジャズレジェント達とも共演を重ねます。
28歳でディジー・ガレスピー・オーケストラのピアニスト兼アレンジャーとなり、クインシー・ジョーンズのオーケストラにも参加をするという輝かしい経歴の持ち主です。
ジャズレーベルのヴァーヴが映画製作会社の子会社だったため、映画音楽を手掛ける端緒となりました。
■ 推薦アルバム:ラロ・シフリン『ミッション:インポッシブル(スパイ大作戦)』(1997年)

1996年からスタートしたミッション:インポッシブルはアメリカの極秘諜報部隊IMF(Impossible Mission Force)に所属する諜報部員のイーサン・ハントが困難なミッションに挑むという、荒唐無稽なスパイアクション作品。
作中では様々な仕掛けが登場し、ストーリーが目まぐるしく展開する。
また音楽が演出の中で上手く使われている作品も多く、第二作のフラメンコを踊るダンサーシーンのカットバックはよくある手法ではあるが印象的だ。
またウィーンの楽友協会を舞台にしたオペラとその楽譜が交錯する首相暗殺シーンなど、音と映像が一体化したシーンは鑑賞者を虜にしている。
このタイトル曲はラロ・シフリンの得意とする展開で緊張感に満ちている。ラロ・シフリンの手法としては冒頭部分にテンションがあるリフを当てはめ、リフの上を短めのメロディが歌うというもの。そしてそのリフが様々に展開していき、変化の過程で一種独特の緊張感を生んでいる。
■ 推薦アルバム:ラロ・シフリン『燃えよドラゴン』(1973年)

燃えよドラゴンは1973年に封切られたハリウッド産のカンフー映画。ブルース・リーの強烈なキャラクターと少林寺拳法が世に知れる大きなきっかけとなった。ブルース・リーはこの燃えよドラゴン以前にも香港発のカンフー映画に主演していたが、制作母体がハリウッドになることで香港映画にはない洗練された作品となり爆発的な大ヒットにつながった。
タイトル曲はミッション:インポッシブルの楽曲と同様、大仰なオーケストラ・ヒットからブルース・リーの雄叫び、金物系のメロディラインが交錯し東洋的なムードを作り上げる。
メインとなるテーマを奏でる音は明らかにモーグシンセサイザーによるものだ。ポルタメントの効かせ具合が不気味な展開を想起させる。この手法はミッション:インポッシブルと同様な構成といえる。
1973年にメインテーマをシンセサイザーで歌うという先進性。ラロ・シフリンが今も巨匠でいられる証なのかもしれない。このタイトル曲、今もCMで使われている。
■ 推薦アルバム:ラロ・シフリン『Latin Jazz Suite』(1999年)

1999年にラロ・シフリンがリリースした自身の傑作ライブアルバム。ラロ・シフリンはこのアルバムの他にも多くのラテン・ジャズやボサノバ・アルバムをリリースしている。
アルバム楽曲を聞くとサルサやジャズ、ボサノバなど、ラテン・ミュージックの影響が色濃く反映されているのが分かる。
推薦曲:「Montuno」
サルサをベースにした楽曲。モントゥーノというタイトルどおり、冒頭からアコースティックピアノが刻むモントゥーノからスタートする。中盤でトランペットの軽快なソロがフィーチャーされ、完全なサルサ・ワールドが展開される。一方、テナーサックスのソロからは一転して4ビートになるなど、楽曲におけるリズムの設定もカラフルだ。
こんなところにもラロ・シフリンが数多の音楽を消化し、それがサントラの音楽的背骨になっていることが理解できる。
終盤にセットされたラロ・シフリンのサルサ的ソロに加え、4ビートでのピアノソロはラロ・シフリンが優れたジャズ・ミュージシャンあることを証明している。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ラロ・シフリンなど
- アルバム:『ミッション:インポッシブル』『燃えよドラゴン』『Latin Jazz Suite 』
- 推薦曲:「ミッション:インポッシブル(スパイ大作戦)のテーマ」「燃えよドラゴンのテーマ」「Montuno」
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