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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その185 ~記憶に残るサックスソロ特集・Jポップ編 PART4~

2024-06-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

記憶に残るホーンプレイヤーのソロ。前回は趣向を変えたトム・スコットによるウインド・シンセサイザーソロを取り上げました。
今回はJポップのフィールドにおける記憶に残るサックスソロを取り上げます。
私が聴いてきたJポップの中で素敵なホーン系のソロがあるかと考えた場合、意外に少ないな~というのが正直なところでした。自分はサックスプレイヤーではないのでそこまで意識して聴いているかというとそうでもないのかも知れません。しかしサックスプレイヤーがいるバンドは好きなのでよく聴いてはいます。
例えば以前の山下達郎バンド。土岐英史は大好きなサックス奏者だったので土岐さんのプレイは意識して聴いていました。その他、マイケル・ブレッカー在籍のステップス・アヘッドなど、好きなバンドはありましたが客員的にレコーディングに参加した場合とは少し違います。
二晩程考えると紐づいたように何曲かが思いつきました。その素敵なソロを紹介したいと思います。

■ 推薦アルバム:『CAUTION!』 鈴木茂(1978年)

正に鬼のような面子でレコーディングされた鈴木茂の名盤。リトル・フィートと共演したファースト・アルバムのロック的アプローチとは少し異なり、今となってはJポップの要素が強いアルバムといえるだろう。鈴木茂の作曲能力の高さにも驚かされる。作詞家のクレジットに松本隆の名前があり、松本独自の世界観と楽曲が一体となり、当時の日本が内包していた情緒的切り口が際立つポップアルバムに仕上がった。
そしてなんといってもレコーディングメンバーの凄さに驚かされる。
キャラメル・ママの同僚である林立夫(D)、細野晴臣(B)、松任谷正隆(Key)4人によるアンサンブルが素晴らしい。その他に斉藤ノブ(Per)、淵野繁雄(Sax)、佐藤準(Key)、渡嘉敷祐一(D)、高水健司(B)、浜口茂外也(Per)、坂本龍一(Key)、後藤次利(B)、ジェイク・H・コンセプション(Sax)など、国内の腕利きたちがこのアルバムを盛り立てている。

推薦曲:「レイニー・ステイション」/ソロプレイヤー:淵野繁雄

「松田聖子にこの歌を歌わせたい」自信を持って私は言い続けていた。どうでもいいことだが……。ポップの楽曲としても素晴らしいが歌謡曲としてもピカイチだ。松本隆の世界観とポップセンス抜群のメロディラインが絡めば怖いものなしだ。甘酸っぱい青春の1コマを際立たせるのが淵野繁雄のアルト・サックスソロだ。饒舌な節回しと独自の音を持ったサックスソロは松本隆が描くシーンを細部までも鮮やかにする役割を担っている。
細野晴臣のベースと林立夫のドラムによるグルーブ感には驚かされるばかりだ。

■ 推薦アルバム:『ALL OF ME』 佐藤博(1995年)

佐藤博95年リリースの名盤。佐藤は山下達郎のコメントでは「日本一のピアニスト」。
82年のアルバム「awakening」はLINNのドラムマシンを使って制作された名盤だが、このアルバムも同様にドラム、パーカッションなどのプログラミンは佐藤自身が手掛けている。しかし「awakening」にあった機械臭や打込み臭がこのアルバムではほとんど感じられない。Jポップのお手本のような素晴らしい出来になっているし、佐藤博が紡ぐメロディも冴えわたっている。
私が取材したのは佐藤さんがこのアルバムをリリースした直後だった。山のように積まれた機材の中、アルバム最後のバラード「ALL OF ME」は「エレクトリックピアノの音を時間があればアコースティック・ピアノに差し替えたい」と話していた穏やかな表情が今でも忘れられない。

推薦曲:「Love Me」/ソロプレイヤー:本田雅人

推薦盤のコメントでも書いたが、この曲には名盤『awakening』の機械臭さはほとんど感じない。実際に佐藤博がドラム、パーカッションなどの打ち込みをプログラムしている。にもかかわらず聴感的にナチュラルなのは高水健司というベーシストと松原正樹というギタリスト、ゴンザレス三上がガット・ギターによるものだと思う。彼らが機械のリズムで構成された楽曲にグルーブを加えているのだ。さらに打ち込まれたドラム、パーカッションの上にはウィリー長崎のティンバレスと浜口茂外也のタンバリンが加わる。そこに独特なグルーブが生まれる。押し寄せるサンバ隊のグルーブは白眉だ。そしてゴンザレスのガットギターソロとスピード感のある本田雅人のサックスソロはこの楽曲のハイライトとも言える。打ち込みと演奏家の合わせ技を長く続けてきた大家、佐藤博しか作ることのできない世界を聴いてほしい。

■ 推薦アルバム:『ダイアモンドダストが消えぬまに』松任谷由実(1987年)

松任谷由実が1987年にリリースした名盤。リリース当時の本人のコメントは「神棚に飾りたいほどの作品」であった。第2回日本ゴールドディスク大賞を獲得したミリオンアルバム。実際に松任谷由実のライブではこのアルバムの楽曲「月曜日のロボット」「ダイアモンドダストが消えぬまに」「LATE SUMMER LAKE」など多くの曲が演奏されている。きっとお気に入りなのだろう。 このアルバムはレコーディングにサンプリングマシンのお化けと言われたシンクラビアを大々的に導入された。家が建つと言われる程、高価な機材は独特な硬質な音と共に業界を席巻した。しかし後年「ユーミン万歳!(ベストアルバム)」を聴くとドラム音など、シンクラビアの音は差し替えられているものが多い。松任谷正隆が「シンクラビアの音は当時としては流行りだったが今では好きではない」とコメントしている理由からだろう。レコーディングメンバーは松任谷正隆(key)、ジョン・ロビンソン、江口信夫(Dr)、エイブ・ラボリエル(B)、松原正樹、今剛(Gt)、斎藤ノブ(Per)など、内外の腕利きミュージシャンが参加している。

推薦曲:「SATURDAY NIGHT ZONBIES」/ソロプレイヤー:ジェイク・H・コンセプション

CX系「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマとして使用された曲。
フランジャーがかかったギターカッティングにシンクラビアのブラスアンサンブルが被る。Aメロの洗練された13thコードがこの楽曲を見事に演出している。
サンプリングされたドアの閉まる音を受け、聴こえてくるサックスソロはジェイク・H・コンセプションの安定したフレーズだ。サンプリングオンパレードの音が席巻する楽曲の中、突如出現するサックスが新鮮に聴こえるのは、このソロに人間的サムシングが宿っているからなのだろう。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:鈴木茂、淵野繁雄、佐藤博、本田雅人、松任谷由実、ジェイクHコンセプションなど
  • アルバム:アルバム:『CAUTION!』『ALL OF ME』『ダイアモンドダストが消えぬまに』
  • 推薦曲:「レイニー・ステイション」「Love me」「SATURDAY NIGHT ZONBIES」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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