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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その178 ~名盤を支えたエレクトリック・ピアノ特集!チック・コリア編~

2024-05-21

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

エレクトリック・ピアノは現在の音楽シーンにとって欠かすことのできない重要アイテムの1つです。
今回紹介するのはアコースティックが中心だったジャズというカテゴリーにエレクトリック・ピアノを導入したジャズ界の巨匠、チック・コリアのお話です。
チック・コリアは自身のバンド「リターン・トゥ・フォーエバー」にフェンダーローズ・エレクトリック・ピアノを導入。そのアルバムの清新性と革新性に世界は驚き、一大センセーションが巻き起こりました。
エレクトリック・ピアノ、チック・コリア編は『リターン・トゥ・フォーエバー』から次作『ライト・アズ・ア・フェザー』2枚のアルバムとジャズの大名曲「スペイン」誕生までをフェンダーローズ・ピアノを切り口にリポートできればと考えています。

ジャズのフィールドから新しい音楽の扉を開くのには新しい楽器が必要でした。フェンダーローズ・ピアノは時代を切り開く1つの手段として使われました。その透明感のある音色はポップス、ロックというジャンルだけではなく、新しいジャズを創造する一助として機能しました。
フェンダーローズ・ピアノの新しい音はチック・コリアの名刺がわりの楽器として、そのキャリアの中ではミニモーグシンセサイザーと並び、長期に渡り愛用されるマストアイテムになりました。
アコースティック・ピアノとは異なるエレクトリック・ピアノの音は閉塞感のあったジャズシーンに風穴を開け、チック・コリアにもたらされたインスピレーションによって新たなジャズスタンダードの創出にまで寄与することになります。

■ 推薦アルバム:チック・コリア『リターン・トゥー・フォーエバー』(1972年)

カモメのアルバムとしてジャズファンから愛されるこのアルバムはアコースティック中心だったジャズ界にセンセーショナルな話題を提供した記念すべきアルバムとなった。
チック・コリアはこのアルバムで初めてフェンダーローズ・エレクトリックピアノを大々的に導入した。当時のジャズミュージシャンは保守性が高く、電気楽器の導入には積極的ではなかった。そのきっかけを作ったのはマイルス・デイビスであることは想像に難くない。チック・コリアはこのアルバムリリーズ以前にマイルスのバンドで電気ピアノを弾いていたことから、楽器における電化に対して抵抗感が無かったのではないかと思われる。
この電化したジャズは当時、クロスオーバーと言われる新しいカテゴリーになった。
今のフュージョンというジャンルの黎明期の話である。
アルバムには時代を牽引するパワーがみなぎり、ローズ・ピアノの音色から展開される開放的で清新性に溢れたサウンドは、多くのファンの心を鷲掴みにした。

推薦曲:チック・コリア「サムタイム・アゴー/ラ・フィェスタ」

この楽曲はドラマーでありパーカッショニストのアイアート・モレイラとベーシストのスタンリー・クラークが作り出すブラジリアン・フレーバー溢れるリズムが素晴らしい。チック・コリアの音楽特性としてスパニッシュテイスト、ラテンテイストが挙げられる。チックのプレイするローズ・ピアノのクリアーなトーンと、ジョー・ファレルのソプラノサックス、フローラ・プリモのボーカルが混然一体となってグルーブする様にはジャズの新しい息吹を感じずにはいられない。
しかもこのバンド特有のキャッチーなメロディにはポップソングにも通じる大衆性も加わっていた。

■ 推薦アルバム:チック・コリア『ライト・アズ・ア・フェザー』(1973年)

「チック・コリア、リターン・トゥ・フォーエバー」名義でリリースした2枚目のアルバム。アルバムコンセプトは前作の流れを踏襲した内容になっている。このアルバムのエポックはジャズ史に残る名曲が誕生したことだ。

推薦曲:チック・コリア「スペイン」

「スペイン」はホアキン・ロドリーゴの名曲「アランフェス協奏曲」のメロディを冒頭に置き、本編になだれ込む。
ジャズの名曲として多くのミュージシャンからのリスペクトを受け、この楽曲をカバーしたミュージシャンはどれだけいるのだろう。私が認識しているだけでもかなりの数がある。
またこの楽曲は難曲としても知られていて冒頭のキメやリフなど、いくつかの仕掛けの中にチック固有のスパニッシュなメロディが溢れている。カバーの多さはそのカッコよさに多くのミュージシャンが魅了されたのだろう。
そして印象的なスパニッシュ・フレーズはフェンダーローズ・ピアノから紡がれるのを待っていたかのように美しく響く。
アイアート・モレイラのドライブするスティックワークが素晴らしい。
チック・コリアはこの「スペイン」を様々なアルバムでテイストを変えて録音しているがこの『ライト・アズ・ア・フェザー』のトラックがベストだと確信している。演奏、リズム隊、革新性、アドリブなど、この『スペイン』は色々な意味で特別なのだ。
数多くのカバーは未だにこのオリジナル『スペイン』を超えることができていない。

私はリターン・トゥ・フォーエバーのライブを静岡で観る機会があったが、その時にはフェンダーローズ・ピアノではなく、ヤマハのシンセサイザー、MONTAGEでローズ・ピアノの音を使い、演奏されていた。アドリブパートは舞台の前方に設置されたモーグ・シンセサイザーのリトルファティ・ステージⅡを使用。ジャン・リュック・ポンティのエレクトリック・ヴァイオリン、フランク・ギャンバレーのギター、スタンリー・クラークのベースが熱いアドリブ合戦を繰り広げていたのを記憶している。

次回はフェンダローズ・ピアノが奏でるスペイン、ボーカルバージョンの傑作を取り上げます。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:チック・コリア、ヒューバート・ローズ、アイアート・モレイラ、スタンリー・クラーク、フローラ・プリモなど
  • アルバム:『リターン・トゥ・フォーエバー』『ライト・アズ・ア・フェザー』
  • 推薦曲:「サムタイムス・アゴー/ラ・フゥェスタ」「スペイン」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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