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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その174 ~似ている?似てない?似て非なる楽曲特集編 PART1~

2024-03-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

音楽を聴いているとどこかで聴いたかしら?と思われる音、メロディ、雰囲気を持った楽曲に出会うことは幾度となくあります。
音楽の作り手であるミュージシャンたちは様々な音楽を聴き、音楽からの影響を受けています。昔聴いた音楽が体内の記憶に残っていて、それがアウトプットされることはある意味、当然のことと言えます。
私も曲を書くことがありますが、過去に聴いた誰かのメロディが頭に浮かぶことはよくあります。その瞬間には誰かわからないのですが、頭を回転させると「そうだあの人のメロディだ」と後で認識をすることになります。

実際にヒットする曲には共通のコード進行があるので、それをコピーまたは近づけることで制作される楽曲もあります。音楽に関わる方なら釈迦に説法ですよね。

今回の特集は角松敏生さん。
角松さん(以下敬称略)は1994年、どこかで聴いたことのある音楽を凝縮したようなアルバムを制作しています。それは角松敏生自身が聴いてきた音楽が好きすぎて、それをリスペクトした形で本人のフィルターを通して制作されたアルバムです。当時はパクリだという話が流布し、話題になったアルバムでもあります。
しかしそれはパクリやコピーではなく、彼が音楽を作る際に自分が愛聴してきたミュージシャンやアルバムを1つの素材として捉え、自身の音楽に反映させたものだと私は捉えています。

我々聴き手としてはそれなりに笑えて(失礼!悪い意味ではありません)十分に共感できる……その類の音楽をかじってきた人間にしか分からない至福の瞬間がこのアルバムには存在しています。
今回はそんな1枚のアルバムと楽曲をご紹介します。

■ 推薦アルバム:角松敏生『ALL IS VANITY』(1994年)

1994年リリース、角松敏生の9作目の傑作アルバム。自身が影響を受けたスティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲン、エアプレイなどの断片がこのアルバムには凝縮されている。スティーリー・ダンのアルバムなどで演奏したラリー・カールトン(G)、ジョー・サンプル(key)、リック・マロッタ(Dr)といったファーストコール・ミュージシャンが参加している。また国内のファーストコール・ミュージシャンである後藤次利(B)、村上ポンタ秀一(Dr)など、錚々たるメンバーもプレイし、角松敏生の指向する音楽をサポートしている。

自分自身が影響を受けたアルバムや楽曲、そこに参加したミュージシャン達をそのままアサインして、あたかもスティーリー・ダンかのようなアルバム制作をするのは贅沢極まりない話でミュージシャン冥利に尽きるはず。
そんな暴挙(笑)をこのアルバムで聴くことができる。自身を育てた音楽へのリスペクトがアルバムのそこかしこに散りばめられている。

演奏だけ聴けばその手のジャンルと比較しても遜色はない。違いは英語か日本語かというだけだ。角松敏生のポップスへのアプローチと結果が海外モノと比較しても差が無いことをこのアルバムは証明している。

推薦曲:「夜離れ~ユーアー・リーヴィング・マイ・ハート」

歌詞のイメージを強調させるウイスキーのボトルを空ける音やジッポーの着火音といったSE(サウンド・イフェクト)から楽曲はスタートする。

音が出た瞬間からドナルド・フェイゲン名盤『ナイトフライ』の冒頭曲「I.G.Y」が頭に浮かぶ。完コピ?かと思う程、音の配置やリズム、そのムードは「I.G.Y」そのもの。この辺りがリリース当時パクリと評された所以なのだろう。

聴き込んでいくと第一印象は表層的であり、似ている要素はあるものの角松自身のアイデンティティの上に楽曲が成り立っているのが分かる。そういう意味で「確信的取り組み」なのだ。こういうアルバムがあってもいいと思わせるだけの演奏と楽曲レベル。角松本人やスタッフ達が音楽を楽しんでいる様子が目に浮かぶ。角松敏生はそれだけの力量を持ち合わせた人なのだ。

その一助となっているのが参加したミュージシャンたちだ。楽曲のソロパートにもその「確信」が集約されている。ジョー・サンプルのアコースティック・ピアノの演奏は我々がマイケル・フランクスやクルセイダースで聴いてきたあのジョー・サンプルのソロそのものであり、思わず微笑んでしまう。サンプルのソロを受けての滑らかに歌うギターソロはラリー・カールトン。サンプル同様、カールトンのソロもスティーリー・ダンやカールトンのアルバムで聴いた「あのソロ」なのだ。

「もし俺が自分で音楽を作るのなら、誰と誰を呼んであのアルバムのあの曲のあのソロように演奏させる」なんていうアマチュアの「与太話」を角松自身が実行しているのは驚くばかりで羨ましい限りでもある。

特にスティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲンの音楽はポップスの中でも非常に再現が難しく、高度で洗練を極めた音楽。ミュージシャンの力量も半端ない。簡単にコピーといっても再現するのは至難の業の筈。

そんな殆どジョークな世界を自身のアルバムで実現化する彼のマインドに舌を巻くばかりだ。

ぜひ、皆さん聴き比べてみて下さい!!楽しいですよ!

■ 参考アルバム:ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』(1982年)

極上のポップ・ユニット、スティーリー・ダンの活動休止中にリリースされたスティーリー・ダンのボーカリストでありキーボードプレイヤー、ドナルド・フェイゲンのソロアルバム。洗練を極めたポップソングが聴ける。

このアルバムは50年代後半から60年代前半にアメリカで育った若者をテーマにしている。まさにドナルド・フェイゲンの自伝的アルバムである。

フェイゲン自身が在籍しているスティーリー・ダンよりも更に洗練された楽曲が提示されている。

このアルバムを最初に聴いたときの衝撃は今も忘れることができない。

参考曲:「I.G.Y.」

ポップソングの極地といわれるアルバムのオープニング楽曲。レゲエのリズムがここまで来るのかという想いを強くする。
サビへの展開とそのメロディラインの素晴らしさは何物にも代えがたいものだ。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:角松敏生、ドナルド・フェイゲン、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンなど
  • アルバム:『ALL IS VANITY』『ナイトフライ』
  • 推薦曲:「夜離れ~ユーアー・リーヴィング・マイ・ハート」「I.G.Y.」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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