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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その148 ~ジャパニーズファンクを意識した音楽家との出会い~

2023-08-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

大学生の時に一橋大学で行われたマリジェーンコンサートというイベントにて、私はアルバイトとしてローディをしていました。
シンガーソングライターの南正人さん、キングコング・パラダイスなど多くのバンドが出演。その中でも一番印象に残っているのが上田正樹さんのバンド、PUSH&PULLです。

ロックバンドとされているが8ビートのロックじゃない!!

一橋大学のホールを訪れた私は、各バンドのアンプなどの機材をセッティングする仕事を任されました。機材の搬入が終わった後はステージ袖で出演バンドの演奏を聴き、演奏が終わればステージから機材を下手に片付け、上手から別バンドの機材を入れるというシンプルな仕事です。しかし8〜10時間に及ぶ長丁場での立ち仕事はそれなりに疲れました。やっと最後のバンドになり、その演奏を聴いて驚きました。

当時はプログレシブロックやディープパープル、ウィッシュボーンアッシュなど英国系の8ビートを聴いていた私は関西ミュージシャンの演奏するファンキーな音楽を全く聴いていませんでした。上田正樹さんの熱い歌唱は英国系の音楽とは全く異なった次元の音楽で、強力なビートに観客が思わず席から立ち上がってしまうようなパワーを持っていました。そしてそのファンキービートを演奏する各ミュージシャンのテクニックの高さにも驚愕。2人いたギタリストのうち1人は松原正樹さんだったかと記憶しています。キーボーディストはカーリーヘアの女性。フェンダーローズ・エレクトリックピアノの上にホーナー社のクラビネット(電気チェンバロ)を載せ、パラディドル奏法で強力なグルーヴを作り出していました。「音の塊が渦になって凄い勢いで押し寄せてくる…」上田正樹さんは只者ではないと私の記憶に刻みこまれたのでした。

■ 推薦アルバム:上田正樹&サウス・トゥ・サウス『この熱い魂を伝えたいんや』(1975年)

1975年リリースの傑作ライブアルバム。上田正樹とサウス・トゥ・サウスのグルービーでファンキーな演奏がパッケージされている。中西康晴のエレピのプレイやギタリスト、クンチョーの演奏は秀逸でバンドのカラーを決定付けているいる。演奏と一体になりグルーヴしまくる上田正樹のボーカルも素晴らしい。70年代の中盤に関西ではこれほどブラックミュージックのルーツを感じさせながらグルーヴするバンドが存在していたことに驚きを隠せない。

推薦曲:「むかでの錦三」

背中のキズが男の勲章だという西成のおっさんをテーマにしたちょっとコミカルな「むかでの錦三」。イントロから中西康晴のエレピが強力にグルーヴする。ライブ中のコメントから演奏に至るまで関西ファンクのノリが漲っている。ライブアルバムというのもサウス・トゥ・サウスというバント特性を分かったうえでの確信犯。

「むかでの錦三」は初期のサウス・トゥ・サウスの中では一番、サウスらしい楽曲と言っていい。曲の出来も良く、中西康晴の演奏するエレピが凄すぎるし、各ミュージシャンの音もウネリまくっている。楽曲途中でのクンチョーのギターソロパートと中西康晴のエレピのソロパート(中西ソロは2回)はアルバム一番の聴きどころ。

■ 推薦アルバム:上田正樹『上田正樹ライブ プライベート・ファイル』(1984年)

上田正樹の1984年10月、大阪フェスティバルホールでのライブアルバム。上田正樹はブラックミュージックをベースにした音楽をバックグラウンドに持つミュージシャンであるが、レゲエも大幅に取り入れられている。

上田お得意のナレーションに「俺たちのレゲエ、イエロー・レゲエ・ミュージックを届けたい」という件がある。また「イエロー・レゲエ・ミュージック」というキーワードを実際の楽曲「渚でジャバ」で取り上げ、その件をメロディとして歌っている。

上田正樹の音楽を演奏するにあたり、ミュージシャンは以前のバンド、サウス・トゥ・サウスと同様に技術の高いミュージシャンばかりだ。

アルバムには当時、世界で大ブレイクしていたスライ・ダンバーとロビー・シェークスピアというリズムセクションを招き、まさにイエロー・レゲエ・ミュージックを展開している。

またギタリストにはテクニシャン石田長正、キーボーディストにはコーラスでも業界のファーストコールミュージシャンである佐々木久美を招き、上田正樹の音楽を引き立てている。

実際84年に私はこのバンドのライブを観ているが一橋大学のコンサートで聴いたような泥臭いグルーブとは少しニュアンスが異っていた。レゲエというリズムがそうさせたのかもしれないが、黒くウネるというよりも少し軽めのウネリだった。それが上田の標榜した「イエロー・レゲエ・ミュージック」だったのかもしれない。

推薦曲:「悲しい色やね」

林哲司さんという職業作家を使った名曲。シングルカットされたバージョンとは異なる特異な石田のギターカッティングから始まる。レゲエを意識したもろではないがレゲエのニュアンスがこの楽曲には流れており、オリジナルとは違ったカラーに仕立てている。サビから始まるアレンジもいい。石田長正のギターソロが素晴らしい!


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:上田正樹、中西康晴、クンチョー、石田長正、佐々木久美、スライ・ダンバー、ロ ビー・シェークスピアなど
  • アルバム:『この熱い魂を伝えたいんや』『上田正樹ライブ プライベート・ファイナル』
  • 曲名:「むかでの錦三」「悲しい色やね」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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