こんにちは、商品部の西田です。
みなさんは「Hardstyle」というジャンルの音楽をご存知でしょうか。少し激しいEDMのようなものなのですが、今私の中でとてもアツい音楽なんです。まずは一度聴いてみてください、最近リリースされたトップアーティストDa Tweekaz & Sound Rushの楽曲です。
Da Tweekaz & Sound Rush – Take Me Away
Hardstyleの中でもメロディアスな楽曲を作るDa Tweekaz、こんな楽曲を作りたいとDAWを起動する人もしばしば。ただこのジャンル、作曲が非常に難しい!!特に難しいのがキックドラムの音作りで、ただディストーションをかけて歪ませるだけでは、ぼやけた「ボワンボワン」とした音になってしまいます。実際WEB上で「Hardstyle」と検索すると予測に「Hardstyle キック 作り方」と出てくるくらいに頭を悩ませる問題なんですね。
そこで登場するのがこのプラグインソフトウェア!
iZotope ( アイゾトープ ) / Trash 2

豊富なプリセットだけでも十分買う価値がある上に、帯域ごとに別々の歪みを与えられるという仕様。すごすぎます……。なぜこのプラグインがHardstyleのキックドラムを作るときに使えるのかと言うと、それはまさにこの帯域ごとに歪みを与える機能、さらに歪ませ方をかなり細かく微調整ができ、プラグイン内でプリ/ポストフィルターカットオフが可能という点にあります!まさにモンスター級ディストーションプラグイン。
さて今回はTrash 2を使っているという、私の知人であるHardstyleアーティスト「kamui.com」さんにHardstyleのキックドラム作成の方法について聞いてきました!
Hardstyleのキックドラムといえばガツン!としたアタックのある歪んだ音が特徴ですが、実際にどのように作っているのでしょうか?
私の場合、まずはキックに特化したシンセサイザーを使って簡単な素地を作っています。「ドンッドンッ」といったトランスに使われるようなかなり素直な音ですね。それをTrash 2を使って一気に歪ませ、その後にFabFilter / Pro-Q3を使って音を整えていきます。この方法でアタックの音、リリースの音というように分けて何種類か作っていきます、ちょうどデジタルアートのレイヤーのように重ねていくわけですね。
キックシンセを使わずに、市販のHardstyleキックサンプルから編集していく時もあります。
FabFilter ( ファブフィルター ) / Pro-Q3
音を重ねる際にはどのような処理をされていますか?
Tok (トック、Hardstyleキックにおけるパンチのあるアタック音のこと、コッというような音色)とベースは分けます。ベースもロー+ミドル+ハイというように帯域ごとに重ねてしまいますね。「この帯域を使いたい!」となればその部分以外はバッサリカットしてしまうこともあります。パンチの音も7種類ほど作成し重ねるのでプロジェクトファイルがパンパンです……(笑)
一瞬の音のために7種類も重ねているんですか!ベースの重ね方についてもう少し詳しくお願いします。
低域は結構カットしています。サイン波などのサブベースでここは補えるので。キックとベースを分けるときにサイドチェイン風にかけるために、ボリュームのオートメーションを使うことがよくありますね。ディストーションを薄めにかけ、耳が痛くなるハイを切って音割れ防止のためにコンプでまとめます。
あとは、ハイのベースの音は低域を完全にカットします。中域も薄くならない程度に、高域は耳が痛いところを軽くカットしています。逆にこのノイズが良い!となればそこをブーストしてリバーブをかけています。
リバーブですか?
空間域が埋まるとキックに迫力が出るんですね。実際の制作現場で聴いてもそこまで差が分かりませんが、クラブのスピーカーから出すと驚くほど差がつきます。Rawstyle (Hardstyleの派生ジャンル、より攻撃的なキックを使う)のドロップ時など曲の空間を補う役割も持ちます。クラブ内で反響させるためのリバーブなのでDry/Wet比を20:80程度でかけてあればOKです。
作ったベースにもEQを挿し、中域と高域をブーストします。また音が割れるのでリミッターをかけます。コンプでも良いんですが、細かい調整が苦手なので一気にやってしまっています(笑)このリミッターをかける際に使っているのがFabfilter / Pro-L2です。直感的な操作はもちろんのこと、ラウドネスが見られるのがとても便利ですね、ちょうど良い音圧が一目でわかる。
FabFilter ( ファブフィルター ) / Pro-L2
これで一通り完成ですね!
いや、実はここからなんです。キックのアタック部分とリリース部分をそれぞれ書き出して、ここから更に加工していきます。
具体的にはトックにEQをさらにかけます。低域はサブベースとぶつかるので20Hz以下は切ります。加えて20kHz以上は耳が痛くなるためカットです。ここは今までと変わらないですね。アタックのパンチだけで音圧を稼ぐためにOzoneを挿し、ここでもクリップノイズを取り除くために重ねてリミッターをかけます。ここで大事なのがオシロスコープを使うこと。
iZotope ( アイゾトープ ) / Ozone 10 Advanced ダウンロード納品
理科の授業なんかで見るあのオシロスコープですか?
そうです、あれを見るとクリップノイズが出ているかすぐ分かるので。私はFL Studioの上部にあるデフォルトのオシロスコープやフリーでダウンロードできるもの、あとはOzoneでも確認できます。波形が見られるものであれば特にこだわりはないですね。
他にはRawstyleの場合はパンチよりベースを大きく鳴らすのもポイントです。
これで、完成でしょうか?
「素材」は完成です。この素材をNative Instruments / BATTERYに読み込ませて鳴らしています。インサートにリミッターとEQ、イメージャーを挿し、低域をあえて広げます。
Native Instruments / BATTERY (KOMPLETE 14内蔵音源、SELECTを除く)
クラブ向け楽曲制作時には、イメージャーを使って低域を狭めてアタックをはっきりさせる、というのが普通だと思っていますが……。
このあとマスタリング時に狭めています。こうすることで不思議と低域が膨らみすぎず丁度よくなりますね、クラブで流すと飲み物を揺らすことができるくらいに。今説明してきたこと以外にも他の音に合わせてEQをさらに重ねがけしたり、反対に他の音を削ったりしながら作っていきます。ただハードスタイルは基本的にキックが主役なので、そこだけは忘れないようにしていますね。
今回の方法で作成したキックは私の新曲にも使っています。このような音になるという参考までに聴いてみてください。
Hardstyleのキックドラム制作虎の巻、いかがだったでしょうか。こちらを参考に、ぜひ一度制作にチャレンジしてみてくださいね!