ギターにはさまざまな奏法があります。その中でも独特な音色と表現力を持つのが「スライド奏法」です。そして、そのスライド奏法を支える道具が「スライドバー」または「ボトルネック」と呼ばれるアクセサリーです。
普段の指で弦を押さえる演奏方法とは異なり、スライドバーを使うことで、まるで人の声のように滑らかな音程変化やブルージーなうねりを生み出すことができます。本記事では、スライドバーの種類や奏法のコツ、さらにはスライドバー使いで有名なプレイヤーなどを紹介していきます。
スライドバーとは?

スライドバーとは、金属やガラス、セラミックなどで作られた円筒状の道具で、左手の指にはめて弦の上を滑らせながら音を出すためのものです。
通常のギター演奏では「フレットの上で弦を押さえる」ことで音程を決めますが、スライド奏法では「弦を直接スライドバーで押さえる」ようにして音程を作ります。これにより、音と音の間を自由に滑らかにつなぐことができ、まるで歌うようなフレーズを弾くことが可能になります。
スライドバーはブルースやカントリーなどの音楽で多用され、ロックやポップスなどにも取り入れられました。
スライドバーの種類と特徴
スライドバーにはいくつか種類があり、素材やサイズによって音や弾き心地が変わります。ここでは代表的な3種類を紹介します。
1. ガラス製
透明なガラスやワインボトルのネック部分から作られたものが起源で、「ボトルネック」とも呼ばれます。音色は柔らかく、温かみがあり、ブルースやカントリーに適しています。軽量なので初心者でも扱いやすいのが特徴です。ただし、落とすと割れてしまうという弱点があります。
筆者はガラス製を愛用しています。
JIM DUNLOP ( ジムダンロップ ) / 210 PYREX GLASS SLIDE MEDIUM/MEDIUM
2. 金属製
ステンレスやブラス(真鍮)で作られたものが多く、ガラス製に比べて重量感があります。音色は力強く、エッジが立ち、ロックやハードなプレイに向いています。サステインも長く、歪んだサウンドとの相性が抜群です。デュアン・オールマンやジョニー・ウィンターといったロックギタリストが愛用していました。
JIM DUNLOP ( ジムダンロップ ) / CHROMED STEEL SLIDE MEDIUM
3. セラミック製
陶器を焼き上げた素材で作られたもの。音色はガラスと金属の中間的な性質を持ち、柔らかさと力強さを両立しています。独特の質感で、個性的なサウンドを求めるプレイヤーに人気です。
JIM DUNLOP ( ジムダンロップ ) / 243 MOONSHINE CERAMIC SLIDE MEDIUM
どの指にはめる?
スライドバーをはめる指はプレイヤーによって異なりますが、一般的には薬指か小指に装着する人が多いです。
- ● 薬指に装着する場合
- 安定感があり、スライドしやすい。残りの指(人差し指と中指、小指)がある程度自由に使えるため、通常のコードを押さえることも可能。筆者は薬指にはめます。
- ● 小指に装着する場合
- コード弾きとの併用がしやすく、自由度が高い。慣れるまでバランスを取るのが難しいが、上級者に好まれる方法。Eric Johnsonは小指を使っています。
※中指や人差し指を使うプレイヤーも存在しますが、こちらはスライド専用で弾くスタイルに向いています。
筆者の好きなギタリストでここ数年スライドギターにハマっているPaul Gilbertは中指を使ってスライドバーを演奏します。
奏法の基本とコツ
スライド奏法には独特のコツがあります。最初は音程が不安定になりがちですが、意識すべきポイントを押さえれば徐々にコントロールできるようになります。
1. フレットの真上に置く
通常の演奏では「フレットの直前」を押さえますが、スライドでは「フレットの真上」にバーを置くことで正確な音程になります。耳を頼りに微調整することが大切です。
2. 弦を強く押さえすぎない
スライドバーは弦を軽く触れる程度で十分です。力を入れすぎると音が詰まったりビビったりします。滑らかに動かすことを意識しましょう。
ネックの裏に親指をおいて軸にすることで安定しやすいです。

3. 余弦のミュート
スライドを使うと共鳴して不要な弦の音が鳴りやすいため、右手の手のひらや左手の指でしっかりミュートすることが重要です。これができると音が格段にクリアになります。


4. オープンチューニングを活用
スライドギターでは「オープンE」「オープンD」「オープンG」などのチューニングがよく使われます。開放弦だけでコードが鳴るため、スライドバーを横に動かすだけで和音を作ることができます。初心者でもブルージーな響きを簡単に楽しめるのでおすすめです。
5. 指を使って弾く
スライド奏法ではピックを使っても良いのですが、指で弦を弾くことでニュアンスをより繊細にコントロールできます。さらに、指弾きは不要な弦を自然にミュートしやすく、クリアでまとまりのある音を得やすいのも大きなメリットです。ブルースやカントリーのスライドプレイヤーは指弾きを好む人が多く、サウンドの表現力を高めたい人にはぜひおすすめのスタイルです。
スライド演奏に適したギターのセッティング
スライドバーを使った演奏では、通常のピッキングやコード弾きとは違うアプローチが求められます。そのため、ギターのセッティングを少し調整するだけで、格段に弾きやすさと音のクオリティが向上します。ここでは代表的なポイントを紹介します。
1. 弦高(アクション)を少し高めにする
スライド奏法では、弦にバーを軽く当てて音を出すため、低めの弦高設定だとフレットに当たって「ビリつき音(バズ)」が出やすくなります。これを防ぐため、弦高はほんの少し高めに設定するのが一般的です。 スライドのためだけに弦高を上げるのが面倒な方は、厚紙などを1フレット付近に挟んで弦高を一時的に上げるというやり方もあります。Guthrie Govanが紹介していました。

2. 太めの弦を使う
スライド奏法では弦をしっかり鳴らす必要があるため、細い弦だと音程が不安定になったり、音にコシが出にくくなります。11〜52や12〜54など、少し太めのゲージを選ぶとコントロールしやすく、サステインも伸びやすいです。
3. ピックアップの選択
スライドではピックアップの選び方によって音のキャラクターが大きく変わります。
- ● ネックPU
- 柔らかく、太く温かいトーンが得られるため、スライド奏法に最もよく使われるポジションです。ブルージーで歌うようなサウンドを作りたいときに最適。
- ● ブリッジPU
- 歯切れの良い鋭いトーン。ロック寄りのスライドや、攻撃的なプレイをしたいときに向いています。
スライドバーを使った名プレイヤーたち
スライドギターの魅力を語る上で欠かせないのが名プレイヤーたちです。彼らのプレイを聴くことで、スライド奏法の可能性を知ることができます。
- ● デュアン・オールマン(Duane Allman)
- オールマン・ブラザーズ・バンドのギタリスト。力強いメタルスライドを駆使し、ブルースとロックを融合させたプレイは伝説的です。
- ● デレク・トラックス(Derek Trucks)
- 現代を代表するスライドギタリスト。ガラス製スライドを薬指につけ、オープンEチューニングで自由自在に歌うようなフレーズを奏でます。若い世代にスライドの魅力を伝えている存在です。
- ● ジョニー・ウィンター(Johnny Winter)
- ハードなブルースロックをスライドで表現し、迫力あるライブパフォーマンスで人気を博しました。歪んだトーンに金属スライドを合わせることで、攻撃的かつ熱い音を作り上げました。
まとめ
スライドバーはシンプルながら、使い方次第でギターの表現力を大きく広げてくれるアイテムです。ガラスや金属など素材によって音色が変わり、装着する指やチューニング次第でスタイルも大きく変化します。
最初は音程を合わせるのが難しく感じるかもしれませんが、正しいフォームと耳のトレーニングを重ねれば、すぐにブルージーで歌うようなサウンドを楽しめるでしょう。名プレイヤーたちの演奏を参考に、自分に合ったスライドバーを見つけ、ぜひ独自の表現を追求してみてください。
スライド奏法は「難しそう」と思われがちですが、実はシンプルなフレーズでも十分に雰囲気を出せるのが魅力です。今までスライド奏法をやってこなかった方も、一本のスライドバーを手に取ることで、新しい音楽の扉が開けるはずです。
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