10月はシンセサイザーから少し離れ、私が取材した外国人ミュージシャンの三部作をお送りしています。今回はその3回目です。
私の住むローカルタウンにY社主催のポピュラー・ミュージック・コンテスト、通称「ポプコン」で全国優勝を果たしたバンドリーダーのライブハウスがありあした。このライブハウスのオーナーであるY氏がウエストコーストの名ギタリスト、デビッド・リンドレーを呼ぶという話が飛び込んできました。私はジャクソン・ブラウンの大ファンで、彼のアルバムでギターを弾くデビッド・リンドレーは大好きなギタリストの一人です。デビッドの話を聞ける千載一遇のチャンス!私はY氏と連絡を取り、デビッドの取材を申し込みました。Y氏は取材を快諾し、彼のライブハウスでデビッドのインタビューが可能になりました。ジャクソン・ブラウンの「レイト・フォー・ザ・スカイ」は私のフェバリットアルバムです。アルバム中、デビッド・リンドレーの弾くリードギターはレコードジャケットと相まって哀愁漂う懐かしさを感じるフレーズ。あのギターはどういう想いでプレイしたのかを聞きたい…前のめりになりつつある自分が分かりました。
■ 推薦アルバム:『レイト・フォー・ザ・スカイ(Late For The Sky)』(1974年)/ジャクソン・ブラウン

ジャクソン・ブラウンの3枚目のアルバム。シンガーソングライター、ジャクソン・ブラウンの瑞々しい歌声が印象的です。それに寄り添うように響く、デビッド・リンドレーのギターもアルバムの聴きどころです。特にテクニカルなアルバムではありませんが、ウエストコーストの良心を垣間見ることができます。
<取材の理由と理屈を考えなくては…>
しかし、ローカルタウンにデビッド・リンドレーが来た…なんて話をローカル・ニュースで放送できる筈がありません。なぜかと云えばデビッド・リンドレーなんて、市井の人は誰も知らないからです。しかし、デビッドのコンサートチケットは完売。異常な程の人気です。取材にはニュースにする理由が必要です。なんとしてもニュースデスクを説得する理由を考えねば…私は頭を捻りました。
1990年中盤はドラマブームで人気ドラマには西海岸のリバイバルされたロック(イーグルスのホテルカリフォルニアなど)が使われていました。「世は西海岸リバイバル音楽ブーム」。70年代の音楽がドラマに取り入れられ、それが1つの若者文化になりつつある…ローカルタウン静岡でも例外ではない。若者志向と西海岸の音楽、デビッド・リンドレーを絡ませて話を作ることを決め、デスクから了解を得ました。
■ 推薦アルバム:『孤独なランナー(Running On Empty)』(1977年)/ジャクソン・ブラウン

ジャクソン・ブラウンのライブアルバム。ツアー中のバスの中やホテルの部屋などで録音されたテイクが収められています。全米アルバムチャート3位。佳曲揃いの名盤です。デビッド・リンドレーはスライドギターの名手。タイトル曲の「孤独なランナー」の呻るようなスライドギターは曲の骨格作りに貢献してます。デビッドはその他、フィドルやハイトーンのボーカルなど、八面六臂な活躍をしています。
<念願のデビッド・リンドレーインタビューで起きたことは…>
ライブ、前日。念願のデビッド・リンドレーのインタビューが実現。デビッドはとてもフレンドリーなミュージシャンでした。私はニュースに必要なインタビューの後、ジャクソン・ブラウンの名盤、『レイト・フォー・ザ・スカイ』のリードギターについて尋ねました。 「どういう想いであの美しいリードを弾いたのですか?」 ここで今回の三部作のテーマともいえる取材者と取材対象(外国人音楽家)であるデビットとの間にある種の祖語が生じます。 「ああいった曲調なので、それにマッチするようなリードを弾いた」 私は拍子抜けしました。私はデビッドが「愛の不毛をテーマにした歌詞なので自分の中にそれを納め、想いを込めて弾いた」などの答え、もしくはもっと奥深い答えを想定していたのです。リスナーである我々の知らないドラマが隠されているに違いない…と思っていました。私は再度、言葉を変えて同様の質問をしました。しかし、デビッドの答えは… 「ジャクソンからあんな感じで弾いて欲しいというオファーがあったからね。それに合わせて弾いたんだよ…」 答えは同じでした。私は随分とそっけない印象を受けました。
自分の好きな音楽は個人の中で様々なシチュエーションをスパイスにして熟成し、蓄積し、輝き続けます。『レイト~』は私の中ではそんな曲でした。そしてその想いと重なるような答えを自分自身で想定していたのです。私の感じた祖語はデビッドの問題でなく、私自身の問題でした。 デビッドはクールにバンドのギタリストとして役割を果たした…。それ以上でも、それ以下でもありませんでした。多分、デビッドは私が同じことをしつこく聞くのか不思議だったのかもしれません。
<デビッド・リンドレーの圧巻ライブ>
ライブ当日のリハーサル。私はステージ上でデビッドのプレイを撮影しました。デビッドはギターのフレットを上向きにして腿の上に置き、座ってスライドギダーをプレイしていました。キーボーディストが鍵盤を弾く姿に似ていました。デビッドのギターはスライドギター専用でネックの部分は空洞でした。空洞の方が響きがイイと彼は話していました。スライドバーはボトルネックではなく、ハワイアンで使う角のある金属バーでした。
ライブが始まりました。デビッドはスライドギターを巧み操り、バッキング、リードと多彩なプレイを披露。歌いながらのギタープレイは圧巻そのものでした。観客は満員総立ちでノリノリ。素晴らしいライブを取材できました。お客さんの感想は昔のことは分からないがデビッドの音楽は懐かしい感じがするという答え。デビッドの音楽の中には「懐かしさの素」のようなものが含まれ、それが若者にリーチをするのではないと感じました。それは『レイト・フォー・ザ・スカイ』で私が感じたデビッドのリードキターと共通するものであるように思ったのです。
■ 推薦アルバム:『化けもの(El Rayo-X)』(1981年)/ デビッド・リンドレー

多彩なレゲエサウンドに溢れる名盤。参加メンバー鍵盤狂漂流記で取り上げたリトル・フィートのキーボーディスト、ビル・ペインやザ・バンドのガース・ハドソンなどアメリカンロックの重鎮が参加をしています。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム
- アーティスト:デビッド・リンドレー、ジャクソン・ブラウン
- アルバム:化けもの、レイト・フォー・ザ・スカイ、孤独のランナー
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