はじめに
こんにちは。
筆者は楽曲制作の際、ピアノ音源を良く使います。中でも頻繁に活躍するのが、Native Instrumentsのプラグインバンドル「KOMPLETE」に収録された音源です。KOMPLETEのピアノは、クオリティが高くバラエティに富んでいるので、曲調に合うサウンドを手軽に選んで使えます。便利ですね。
しかし正直なところ、筆者はこれらの音源の違いや特徴を、しっかりとは把握していませんでした。それどころか、1度も使ったことのない音源もあったのです!これでは宝の持ち腐れ。貧乏性の筆者には我慢なりません。
そこで今回は、筆者が所有している「KOMPLETE 14 STANDARD」 から、ここに収録されている6+1(Factory Library)種のピアノ音源を比較し、どんな音源たちなのかを知っていこうと思います。
Native Instruments ( ネイティブインストゥルメンツ ) / KOMPLETE 14 STANDARD
筆者はピアニストではないので、弾き心地やピアノとしてのリアルさについては言及しません。というよりできません。代わりに、ピアノという一つの音色として、作曲やアレンジにおいての使いやすさという観点からレビューしていきます。
そのため今回の比較は、筆者が制作中の楽曲のバッキングフレーズを7種のピアノ音源で演奏し、最終的にアレンジで採用する音源を決定するというオーディション形式で行います。
ピアノの音が聴ける動画を用意したので、参考までにご視聴ください。
動画の前半では、各音源の「Basic」と名のついたスナップショット(=プリセット)を立ち上げただけの音が。後半では、「Basic」をもとに筆者が音作りをした後の音が流れます。
【エントリー全7種】
- Kontakt7 Factory Library (Grand Piano)
- Noire
- The Gentleman
- The Giant
- The Grandeur
- The Maverick
- Una Corda
Kontakt7 Factory Library (Grand Piano)

まずはNIの高機能サンプラー「Kontakt 7」に付属の標準ライブラリから、グランドピアノの音源です。これ以外にもRagtime PianoとUpright Pianoという2つの生ピアノ音源がありました。
第一印象としては、軽く、薄く、硬いという感じです。悪い事のように聞こえるかもしれませんが、アタック感があり輪郭が見えやすい音であるため、リズミカルなバッキングには最適な音色です。ちょっとフェイズがかったようにも聞こえますね。他の音源との差別化もできています。
低域はかなり少なめで、「Sub Reso」をマックスまで上げても軽めのサウンドです。
Noire

今回のラインナップの中でも特に新しい音源です。
通常のピアノのサウンドである「Pure」の他、アタックが少なく丸い音になる「Felt」モードが用意されています。
特徴的なのは「パーティクルエンジン」という演奏補助機能。コードを弾くだけで、それに合わせたフレーズを追加してくれます。今回は使用していませんが……。
肝心のサウンドはといえば、低域がしっかり出ていて、ゴージャスな雰囲気。デフォルトの状態でも使いやすいですね。設定をほとんど変更せず、微調整で好みの音になりました。
デフォルトではリバーブなどのエフェクトは全てオフになっています。
The Gentleman

唯一の(通常の)アップライトピアノです。
「KOMPLETE SELECT」にも収録されていて、以前の記事 でも少し触れています。
グランドピアノに比べると、少し抑え込まれたような大人しさがあります。こじんまりした感じで、壮大な音楽には合わなそうですね。
「COLOR」はHARDの方向に極端に回しても破綻しにくく、最大値にしてもペラペラになりません。個人的には2〜3時の方向に合わせたときに使いやすかったです。
響きが少なめなので、リバーブを加えるとより使いやすくなりそうです。内臓のコンボリューションリバーブを色々と試してみましょう。
The Giant

世界最大のアップライトピアノを再現した音源です。
特筆すべきはXXLボタン。青色に点灯すると、音量はそれほど変わらないままに、ダイナミックレンジが広がって迫力が増します。逆に言うと、これを押さないとThe Giantの特色はそれほどありません。
通常時は、「RESONANCES」はそれほど操作しなくても良さそうですが、XXLモード時はかなり絞ったほうが使いやすいです。
リバーブはデフォルトでオンになっています。もともと大きな響きの音源なので、「AMOUNT」はあまり上げなくても良さそうです。
The Grandeur

KOMPLETE収録のピアノのうち、一番万能でハズレがない音源です。
かなりスッキリした印象で、ポップスのバッキングにはとても使いやすそう。低域のダボつきが少なめなので、「RESONANCES」はあまり絞らなくても良い感じです。
「COROR」もいじらなくても程よいアタック感があるので、ピアノ音源のファーストチョイスにはうってつけですね。
「LID(天板の開き具合)」は3段階で調節でき、あまり目立たせたくない時は真ん中に設定すると、高域を抑えて主張を弱められます。伴奏に徹してほしいときは試してみると良いかもしれません。
The Maverick

1905年にプロイセンの王子のために作られたピアノを再現したものだそうです。
素朴な音で、なんとなくアップライトピアノに似ている感じがしますが、これが古い楽器らしさなのでしょうか。
個人的には、音が伸び切らない印象で、ピアノとしてはグッと来ませんでした。ただ、優しい雰囲気を出すのは得意な音源だと思うので、Aメロの落ち着いたパートだったり、穏やかなBGMにはマッチすると思います。
Una Corda

すべての鍵盤に、弦が1本ずつしか張られていない、特殊なピアノをサンプリングした音源です。なんとそのピアノは、この音源のためにわざわざ製作されたものだということ。すごい熱量です。
このような出自の音源なので、普通のピアノと同じ使い方をするのには向きません。逆に、幻想的な雰囲気を作りたい、など明確な目的がある場合は、エフェクトを使わなくても良い結果が得られやすいです。
音の特徴としては、常に自分とピアノの間に1枚の膜があるような感じです。基本的にアタックは強くないのですが、高音域は割とキンキンしています。
「COLOR」を大きく回しても、音色はそれほど変化しません。
リバーブをかけすぎるとモワモワとしてしまうので、注意が必要です。
採用した音源は……?
さて、ここまで7種類のピアノを順番に聴き比べてきました。どれも個性があって、使い分けもしやすそうでしたね。
ところで筆者は、制作中の楽曲に、どのピアノを使用したのでしょうか?
どの音源か分かったでしょうか?
正解は、「The Giant」です!曲中に混ざっている上に、EQなどで音を変えてしまっているので分かりにくいですね。
決め手はやはり存在感です。その大きな体がもたらす響きの太さと、アップライト的なコロコロとした音が個性的で良いです。
実のところ、この音源を使うのは今回が初めてだったのですが、これから使う機会が増えそうです。
終わりに
今回は、「KOMPLETE 14 STANDARD」に収録されている7種のピアノ音源を比較してきました。
これまで使ったことがなかった「The Giant」や「The Maverick」については勿論のこと、何度も楽曲に使用していた「The Gentleman」や「The Grandeur」についても深く知ることができました。これからはピアノを使ったアレンジが、より楽しくなりそうです。
この記事を読んでくれたKOMPLETEを持っている人は、ご自身のライブラリを探検し直してみてください。新しい発見があるかもしれません。
そして、KOMPLETEを持っていない人も、普段使っているピアノ音源と今一度向き合ってみてください。その音源がもっと好きになるはずです。
今回もありがとうございました。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら