シンセサイザー出現というエポックで音楽は大きく変貌します。新たなツールの出現でミュージシャンの発想や取組みも変わり、シンセサイザーと周辺機器の登場で新たな音楽ジャンルも出現します。このコラムはシンセサイザーのクロニクル(年代記)とともにキーボード(シンセサイザー、オルガン、電気ピアノなど)が果たした功績とその時代を彩った音楽とミュージシャンを検証します。検証といっても大袈裟なものではありません。コラム読後にその音楽をお聴きいただき、皆さんにシンセサイザー、キーボードが果たした役割や意味などを分かっていただければ幸いです。コラムの中ではシンセサイザーのメーカー、機種による違いや素敵なソロが入ったアルバム、曲なども紹介します。電気鍵盤楽器の素晴らしさをこのコラムで分かってもらい、皆さんの人生が少しでも豊かになればライター冥利に尽きます。
■「展覧会の絵」エマーソン、レイク&パーマーの衝撃
私がシンセサイザーという楽器を認識したのは1974年、17歳の時です。フォークソングやクラッシックを聴いていた私にELP(エマーソン・レイク&パーマー)のライブアルバム、「展覧会の絵」は衝撃でした。それはキース・エマーソンが操る当時、得体のしれないシンセサイザーという楽器の音色でした。
「展覧会の絵」B面、バーバヤーガの呪いでのグレック・レイクによるベースソロ直後にキース・エマーソンが発したモーグシンセサイザーの音(ジョ~、ジュジュジョ~ワ~ンという音)が私の音楽人生を変えました。1970年代は情報量も少なく、シンセサイザーという固有名詞もあまり知られていません。どんなものかも分かりません。「この音は一体なんだ?でも、なんだか凄くカッコいい!」。よく分からないシンセサイザーという楽器・・・。 レコードに付随されたライナーを見るとキース・エマーソンの演奏している写真が載っていました。また、その姿がたまらなく素敵でした。ハモンドを自分の両側に置き、その上にモーグシンセサイザーを2台。平行に置かれた鍵盤を両腕を広げて演奏する姿に再度、高校生の心はときめきました。鍵盤楽器は椅子に座ってお行儀よく弾くものだと思っていた高校生には、聴いたことのない音と演奏スタイルは衝撃以外の何ものでもありませんでした。

エマーソン、レイク&パーマー「展覧会の絵」
当時、ロックはギターが主役の音楽(今もそうですが・・・)。キース・エマーソンはその概念を壊し、鍵盤というアカデミックな楽器で新しいロックの地平を切り開きました。その強力な武器となったのがギターに対抗するシンセサイザーという楽器です。シンセサイザーは鍵盤上部に多くの音を制御するつまみ、ノブが付いています。それを操作しながら弾く姿はロックという反抗的で野性的な音楽の中にあって、ある種の知的さに溢れていました。

MiniMoog synthesizer(イメージ)
■ シンセサイザー、キーボード購入歴
私は大学入学と同時にローランドの2VCOタイプのSH-5というシンセサイザーを購入しました。当時、コルグのDV-800というシンセにしようかと迷いましたが、ルックスがモーグシンセサイザーに近い、より機械っぽく重厚感のあるローランドを選択。これもモーグシンセサイザーを操るキース・エマーソンの影響でした。
その後、シンセ収集癖は収まらず、現在に至ります。これまでに購入したシンセサイザー、鍵盤楽器は25台以上です。以下がそのリストです。
ローランド:SH-5、JUPITER-6、D-50、S-550、RD-600
コルグ:ポリフォニックアンサンブルオーケストラPE-2000、POLY-6、WAVESTATION、SV-1
オーバーハイム:XPANDER、MATRIX-6
ヤマハ:DX-7、CX-5、DX-7Ⅱ、MODX6
エンソニック:ESQ-1、SQ-R(音源ラック)
アレシス:QUADRASYNTH
ハモンド:NewX-5、XB-1
ノード:Electro-6
ウォルドルフ:BLOFELD KEYBOARD
イミュー:ビンテージキーズ(音源ラック)
カシオ:SK-1
フェンダー:Rhodesスーツケース88key
カーツエル:K2000
シンセサイザー、鍵盤楽器を多く購入することで私の中で幾つかの基準が生まれました。 その辺りはこの後のコラムをご覧いただければと思います。
■ シンセサイザーの構造
話を「展覧会の絵」に戻します。グレッグ・レイクのベースソロ後の私がヤラれたシンセの音色です。シンセサイザーの仕組みはVCO(発信機)、VCF(フィルター)、VCA(アンプリファイアー)などからなり、音色変化に影響するVCF のカットオフ・フリケンシーやレゾナンスというつまみを操作することで展覧会のベースソロ後の音は出ます。ここでキースが操作しているのはレゾナンスです。カットオフ・フリケンシーとレゾナンスはある種、連動しています。アナログシンセサイザーの音を司るのはこのVCF(ボルテージ・コントロール・フィルター)で、このフィルターの効きの良し悪しがシンセサイザーのキモであるといえます。この仕組みを理解すれば、あの音色の出し方は何のことはありません。でも、アナログシンセサイザーにおけるカットオフ・フリケンシーとレゾナンスの設定こそがシンセサイザーの音色を決定づけ、シンセをシンセたるものにしているといっても過言ではありません。
「展覧会の絵」におけるキース・エマーソン使用楽器は①モーグ・モジュラーシンセサイザーⅢc ②ミニモーグ ③ハモンドC3 ④ハモンドL⑤生ピアノです。
■ モーグシンセサイザーの特色(1970年代当時)
当時のシンセサイザーはまだ和音を出すことができません。音楽の土台であるコード、ハーモニーを出すことができないのです。現在、多くのシンセはポリフォニック化され、和音を出せます。和音を出せるポリフォニックシンセサイザーはプロフェット5まで待つことになります(ミニモーグは今でもモノフォニック)。しかし、モーグの音は単音でありながら野太く、存在感に溢れていました。キースの使用していたミニモーグは今も現役で多くのミュージシャンが使用しています。80年代はミニモーグのベース音をデビッド・フォスターなどが使い、オケに埋もれない粘りのある音が一世を風靡し、脚光を浴びました。しかし、ミニモーグにも弱点がありました。それはチューニングが安定しないことでした。ミュージシャンはミニモーグにチューナーをつなげ、常に気を遣っていました。ミニモーグは世代がいくつかに分かれていますが、開発者であるモーグ博士は後半になるに従い安定感があるとコメントしています。その後、紆余曲折あったミニモーグはリニューアルされ、2002年にミニモーグ・ボイジャーとして世に出ます。ミニモーグはいつの時代にもミュージシャンからのファーストチョイスでした。次回はモーグシンセサイザー、その2とミニモーグの音が入っている名盤をご紹介します。また、モーグにまつわる最新情報やアルバムを沢山お届けします。お楽しみに!
● 今回取り上げたアルバム、曲名、使用シンセサイザー
・「展覧会の絵」 エマーソン・レイク&パーマー
・ 曲名:バーバヤーガの呪い
・ 使用楽器:ミニモーグ、モーグモジュラーシステムⅢc、ハモンドC3、ハモンドL、生ピアノ
● 次回、予告編 「MiniMoogシンセサイザーの名盤、MiniMoogの使い手たち」
・ イエス「イエスソングス」 リック・ウェイクマン
・ ピンク・フロイド「炎~あなたがここにいてほしい~」 リック・ライト
・ ジェフ・ベック「ライブワイヤー」 ヤン・ハマー
・ UK 「ナイト・アフター・ナイト」 エディ・ジョブソン
・ グレッグ・マティソン・プロジェックト
・「ベイクド・ポテト・スーパーライブ」 グレッグ・マティソン