ボサノバのJジャズ系の女性アーティスト 第2巻
残暑を吹き飛ばすサンバやボサノバ名盤、名曲を作曲家や演奏家などから検証するボサノバ大特集。
前回に続き女性ボーカリストのボサノバ特集です。女性アーティストのボサノバ重要曲をカバーしているアルバムを取り上げる第2巻です。
ボサノバの名曲がどういう形でアレンジされているのか?ソロはどう展開しているのか?名曲たる所以はどこにあるのか?是非、聴いてみて下さい。
名曲には名曲の理由がある!是非、見つけてください^^
アレンジによっても楽曲は変わります。それはアレンジャーがどう楽曲に向き合い、どう料理するのかなどで変化をします。いい変化もあればそうでない変化もあります。その変化をどう捉えるのかはリスナーに委ねられます。音楽を聴く楽しみはそんなところにもあります。
ご紹介している曲は名盤からカバーされた名曲が殆どです。そして、カバー曲にはそれぞれ違う趣があります。普通、アバンギャルドなど様々なアレンジが存在します。しかし、オリジナルを超えてくるカバー曲は多くありません。とはいえカバー曲を沢山聴かなければ、その良し悪しも分かりません。リスナーの好みも様々です。そこに新しい発見や感動があります。
名曲には名曲の理由があります。数多のミュージシャンがその楽曲を愛し、カバーする理由は「何か」を是非、見つけて欲しいと思います。
そういう意味でボサノバはその曲の成立ち、アレンジの意図、歌唱の意味などを比較するには格好の材料ではないかと思います。
曲はポップであり、そこにジャズの複雑なテンションコードが絡みます。そこから派生する楽器のソロも様々です。
普通の顔をしている「ただの歌」が実際は奥深い…という音楽がボサノバです。その懐の深さを垣間見るだけでもボサノバを聴く意味があると私は考えています。
■ 推薦アルバム:akiko『Vida』(2007年)

パステルカラーのブラジルテイストなアートワーク。ライナーノーツは人型にくり抜かれている(アルバム写真参照)という、未だかつてないアートワークが秀逸。
ブラジルのファーストコールミュージシャンを集めたJジャズシンガーakikoさんのブラジルに特化したアルバム。ブラジル産パーカッションを用いたカラフルなアレンジと原曲をリスペクトしたトラディショナルなアレンジが混在している。
推薦曲:「ブラジル」
アントニオ・カルロス・ジョビンの名盤「ストーン・フラワー」のトラック、「ブラジル」のカバー。
「ストーン・フラワー」のアレンジはデオダートによるもの。オリジナルはロン・カーターが弾くベースとアイアート・モレイラのパーカッションが背骨になり、ジョビンのフェンダーローズピアノがメロディを紡いでいる。ジョビンの歌唱は素朴で味わい深い。
一方、akikoさんのトラックはサンバテイストが強い。パーカッションが前面に出て、踊りだしたくなるような楽しいアレンジになっている。トロンボーンソロが素敵。
推薦曲:「バトゥカーダ」
マルコス・ヴァーリの名曲。バトゥカーダとはメロディーや歌のない、「パーカッションのみの演奏」を指す。タイトル通り、パーカッションによるサンバのリズムが続き、akikoさんのカラッとした歌唱が印象的。
推薦曲:「シェガ・ジ・サウダージ」
ビョビンの楽曲であり、ボサノバの最重要曲。ガットギターを前面に出したトラディショナルなアレンジ。akikoは原曲をリスペクトする形で歌っている。この曲には珍しく、フルートがソロをとっている。このソロも悪くない。
■ 推薦アルバム:阿川泰子『MEU ROMANCE』(2008年)

Jジャズシンガー阿川泰子さんのブラジルもの、ボサノバに特化したアルバム。プロデュース、アレンジはラテンピアニストの松岡直也さんが手掛けている。
当時の松岡さんのインタビュー記事では、ジョビンの楽曲を絶賛したうえで、ジョビンとジルベルトのサウンドだけが、ボサノバではない。ボサノバは「新しい感覚」「新しい潮流」という意味。それを受け、サンバを基本にした新しい解釈でアレンジに向かった…とご自身の挑戦にも言及しています。
阿川さんはパワーを出さずに、しっとりと歌ってもノリや歌心が伝わってくる…阿川泰子さんの歌唱も絶賛していました。
推薦曲:「A FELICIDADE」
松岡さんはこのトラックで生ピアノを弾いている。この曲はサビが先の曲。しかし、松岡さんは生ピアノのイントロからAメロに行く。そして弦とガットギターのバッキンでサビ、その後ブラスが入り壮大な展開へ…かなり変則的な構成で聴かせている。松岡アレンジの妙に新しい曲を聴かされている想いがした。アウトロ部分は阿川さんの声のみに弦が被り終了…。「新しい潮流」への意識を前面に出した松岡さん渾身のアレンジ!
推薦曲:「SO NICE」
松岡さんのフルコーラス×2のフェンダーローズ・エレクトリックピアノのソロが聴きもの。ボサノバのピアノソロと趣を異にするものの、松岡節健在を思わせる。松岡さんといえば、生ピアノかヤマハ・エレクトリックグランドピアノCP-80という印象が強いがローズピアノを弾かせてもとても上手いソロを弾く。
タメの効いた高橋ゲタ夫さんのベースが秀逸。
■ 推薦アルバム:グレース・マーヤ 『イパネマの娘』(2008年)

ボサノバ生誕50周年の記念したグレース・マーヤさんのソロアルバム。
「イパネマの娘」「ルコヴァード」「3月の雨」などボサノバの重要曲から、スティングの『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』、シャーディの『スムース・オペレーター』、ジョージ・ベンソンで知られる「マスカーレード」など、各ジャンルからの名曲も取り上げられている。
アルバムとしての設えが良く、聴きやすく洗練された仕上がりになっている。
推薦曲:「11時の夜汽車」
このアルバムの中で一番印象的なのが「11時の夜汽車」。
メロディラインが素晴らしく、サウダージ感ここに極まるといった隠れた名曲。
グレースと男性ボーカリストとの掛合いが、この曲のサウダージ感をいい意味で引き上げている。
番外編として、イタリア人ジャズピアニストのステファノ・ボラーニトリオのアルバム、「カリオカ」でも同曲が聴ける。ステファノのピアノ、ボーカル共、聴きどころ満載でこちらも必聴アルバムです。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:Akiko、阿川泰子、松岡直也、グレース・マーヤ
- アルバム:「Vida」「MEU ROMANCE」「イパネマの娘」
- 曲名:「ブラジル」「バトゥカーダ」「シェガ・ジ・サウダージ」「A FELICIDADE」「SO NICE」「11時の夜汽車」
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