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Rock’n Me 1 洋楽を語ろう:ラッシュ

2021-10-15

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

はじめまして。洋楽を語りたがるジョシュアです。
このたびコラムを担当することになりました。私は小学生の頃から洋楽浸かりの人生を送ってきて、人生が変わったと実感したのは小学校高学年時、レッド・ツェッペリン『Led Zeppelin II』を聴いたときでした。当時はアルバム・ジャケットを見て「レッド・ツェッペリンってメンバーが多いバンドなんだな」と信じていました。(念のため、本当は4人です)

レッド・ツェッペリン『Led Zeppelin II』

さて、第1回目は私が一番敬愛しているバンド、ラッシュ(Rush)を取り上げます。ラッシュを一言で表すと「3人組の究極系を目指したプログレッシヴ(先進的)なロック・バンド」です。

ラッシュは、カナダのトロントで1968年に結成されました。同級生だったゲディ・リー(vo, b)とアレックス・ライフソン(g)が他のメンバーたちと組み、ジョン・ラトジー(dr)との3人組として1974年に『Rush』でデビューしました。当時の音楽性はレッド・ツェッペリンやブルース・ロックに多大な影響を受けていたものでしたが、ラトジーは米国ツアー直前に脱退しました。そのため、ニール・ピアート(パートとも表記)がドラマーとして加入しましたが、テクニックを駆使したドラムだけでなく、作詞家としても新たな原動力となりました。
2作目『Fly By Night』(1975年)のオープニング・ナンバー”Anthem”では、イントロから複雑怪奇な7/8拍子でのユニゾン・プレイが続き、超絶ハイトーンを歌いながらベースをブリブリと弾くゲディ、金髪を揺らしながらギブソンES-335を弾くアレックス、新加入とは思えないほどバンドの一員となっているバカテクのニールを拝めます。以降、ラッシュは不動の3人組となりました。

■ ”Anthem”

バンドは地道なツアー活動を続けたものの、セールス的には振るいませんでした。契約打ち切りの危機にさらされた3人は「それだったら好きなことをとことんやるわい」と、4作目『2112』(1976年)を制作しました。同作では、レコードA面(20分強)をまるごと使った7部構成の組曲”2112”が収録されていますが、これが高く評価され、特に1~2部は後のライヴでも演奏され続ける代表作となりました。

しかし、それに甘んじなかったのがラッシュのすごいところでした。アルバムごとにテクニックや歌詞を追求し、変拍子を多用して曲の構成はますます複雑化しました。ただでさえハイトーンなゲディのヴォーカルはますます高くなり、歌いながらブリブリ弾くベースはますます難しくなり、それなのにキーボードやベース・ペダルまで同時に演奏するようになりました。
アレックスはギブソンのダブルネック・ギターを用いて12弦と6弦ギターを交互に操り、アコースティック・ギターやガット・ギターを持ち出したり、ついでに足でベース・ペダルをいじるようになりました。ニールは、ただでさえツーバスでデカいドラムセットをどんどん拡張し、ゴングやらチャイムやらトライアングルやらパーカッションを要塞のように組み立てて、カウベルも複数並べてメロディーを奏でるなど、やりたい放題となりました。

それでも、彼らが終始曲げなかったポリシーは「録音した音源はそのまま3人で演奏する」ことでした。ジャンル分けされる場合「プログレッシブ・ロック(通称プログレ)」に分類されることが多いラッシュですが、実際には、ジャンルにとらわれない、まさにオリジナルなサウンドを作っていきました。大作志向は『A Farewell to Kings』(1977年)『Hemispheres』(1978年)と続きましたが、『Permanent Waves』(1980年)と『Moving Pictures』(1981年)では一転してコンパクトな曲作りへと路線変更しました。一筋縄ではいかない曲ながら適度なポップさも兼ね備えて、多くの人々が彼らの代表作だと挙げています。特に『Permanent Waves』の”The Spirit of Radio”、『Moving Pictures』の”Tom Sawyer”は彼らの代表曲となりました。

後者収録のインスト曲”YYZ”では、全員のソロ・パートが組まれていて、究極のトリオ演奏が堪能できます。ちなみに、YYZとは彼らの拠点トロントの空港コードに由来しています。その昔、私がトロントに行ったときは、スーツケースにつけられた「YYZ」の荷物タグに一人で盛り上がり、真っ先に訪れたのはアルバム・ジャケットの撮影場所であるオンタリオ州議事堂でした。トロント空港のモールス信号(長短の音声で文字情報を送る方式)を用いた5/4拍子のイントロから、超絶ユニゾン・フレーズ、各自のソロと、見せ所が満載のナンバーです。

ラッシュ『Moving Pictures』

オンタリオ州議事堂Ontario Legislative Building

■ ラッシュ “YYZ”

ピークに達したかのようなラッシュの音楽性は、その後も進化を続けました。1982年の『Signals』、1984年の『Grace Under Pressure』では、当時の最新鋭だったザ・ポリスやU2の影響を受けて路線を変えていきます。1984年のツアーでは来日公演を行ったので、日本での知名度も一気に高まりました。その後は、時代の流れを受けてシンセサイザーを多用する時期がしばらく続きましたが、1993年の『Counterparts』からはギター、ベース、ドラムの基本に立ち返り、一転してハードなサウンドを展開しました。

■ Driven

4万人の観衆を前に演奏したブラジルでのライヴ『Rush in Rio』収録のバージョン。ゴリゴリに歪ませたゲディのベース・ソロ(1:39~)が最高ですが、ヘヴィなドライブ・サウンドとピエゾ・ピックアップによるアコースティック音を行き来しているアレックスと360度ドラムのニールも良い仕事をしています。

しかし1997年にバンドは活動を突如休止しました。ニールの娘が交通事故死、1998年には内妻ががんで死亡しました。ニールは音楽活動をやめて放浪の旅に出かけましたが、2人はそれを暖かく見守りました。ニールの回復とともにバンドは活動を再開し、2002年に『Vapor Trails』を発表しました。その後も定期的にアルバムを発表していましたが、引退をほのめかすメンバーたちの発言が増え、2015年のツアーをもって実質的な引退状態となりました。残念なことに、ニールは脳腫瘍を患って2020年1月に亡くなり、再結成は永遠にかなわないこととなりました。

引退後、アレックスは表舞台にほとんど出ていませんでしたが、今年になりエピフォン社からシグネチャー・モデル(Alex Lifeson Les Paul Axcess Standard)が発売され、久しぶりにインタビューに応じたほか、ソロ作品の音源を公開しました。このギターは世界各地でものすごい勢いで売れていて、執筆時点では日本でも入荷次第すぐに売り切れとなってしまっています。それだけでも、彼らのファン層の厚さを感じます。ゲディはヴィンテージ・ベースを掘り下げた単行本『Geddy Lee's Big Beautiful Book of Bass』を2018年に出版したり、愛用しているSansampプリアンプのシグネチャーモデル(その名もYYZ!)を出したりしていました。今月になりアレックスとゲディがビール(!?)を発売するというニュースも入り、ファンの間で盛り上がっています。

私は、幸運にもラッシュのコンサートを6回観ることができました。1984年、ワシントン州タコマ(前座はゲイリー・ムーア!)と日本武道館公演、2002年メリーランド州ボルチモア、2004年のバージニア州バージニア・ビーチとブリストウ(ワシントンDC郊外)、2010年のブリストウです。10代のうちに彼らを生で繰り返し体験できたことは幸運でしたし、活動再開後の2002年のツアーで「ラッシュ復活」を実感できたのも大きな喜びでした。もう彼らのライヴを見ることは永遠に叶いませんが、その音楽はあまりにも奥深く、いまだに聴くたびに新たな発見があります。この文章を読んで興味を持たれた方は、ぜひ聴いてみてください。

2002年10月15日、ボルチモア公演のセットリスト(実物コピー)

2004年5月29日バージニア・ビーチ公演、8月3日ブリストウ公演のチケット


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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